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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第16章:ブラジル・未来世紀の覇権国家【2029年12月30日】
212/297

第212話:緑の大統領官邸

挿絵(By みてみん)


「あの広場は、ポルトガル語で『パラシオ・ド・プラナウト』、日本語では『三権分立広場』という名前なんです。司法、立法、行政の主要施設があそこに集中しているので」


 車の助手席から、大使館員の西田さんが解説してくれる。

 梨沙さんと一緒に、わたし、星、そしてミゲーラの三人を、車で迎えにきてくれた人だ。


「なんか、あの建物、光ってますけど……」

 わたしは、ひときわ目立つ、ブラジル国旗の緑色にライトアップされていた建物を指差す。


「あの大統領官邸で、晩餐会が開かれるんです」

 どうやらこの都市は、あらゆる建物を芸術的に造らないと気が済まないみたいだ。


 ――そういえば……と星が切り出す。


「お昼の風間首相と、チアゴ統領との会談の感触は、どうでしたか?」


 梨沙さんの答えは、らしくもなく歯切れが悪かった。

「感触は悪くなかった。少なくても、氷河期到来による事態の深刻さと緊急性は伝わったはずだ。ただ……、何と言うかまだ相手の本心を掴み切れていない気がする」


 同席したらしい西田さんも言う。

「現大統領は、もともと貧困家庭出身のたき上げですからね。率直な物言いが本分のはずですが、お昼の会談では、敢えて本音を隠していたように見えました」


「え、大統領って、貧困家庭の生まれなんですか?」

 なんとなく、大統領になるような人は、エリートのお金持ちなのかと思っていた。


 西田さんが頷く。

「ええ。若いころは、靴磨きから料理人まで、生きるためになんでもしてきたようです。1985年に軍事政権が倒れた後、ブラジルの貧困層からの絶大な支持を得て、政治家として頭角を現したんです」


「ブラジル国民の約3割はまだ貧困層だから、支持基盤は厚い。もっとも、だからこそ風間さんを含めたいわゆるエリートキャラとは、馬が合わないのかもしれないけどな……」


 梨沙さんの物言いに、西田さんが苦笑する。

 首相補佐官が、首相をさん付けする姿が、よっぽど珍しいのかもしれない。


「ま、だからこそ、この晩餐会で少しでも、少しでも本音を引き出せればいんだけどな……」

 そういって、梨沙さんは、わたしと星、そしてミゲーラを見る。


 ミゲーラが陽気に「オッケー」と答え、星も力強く頷く。

 わたしは……といえば、相変わらず曖昧な笑みを浮かべるくらいしかできない。


 ほどなくして、車は大統領官邸に吸い込まれていく。


 案内された待合室では、風間首相や橘長官、創さんに加えて、閣僚たちが顔を突き合わせ、何か真剣な表情で議論を交わしている。


「リンちゃん!」

 そんな中で、ほとんど紅一点の十萌さんがわたしを見つけ、駆け寄ってきてくれる。


 和装を完璧に着こなしている十萌さんを見て、わたしは、急に自分の服装が恥ずかしくなる。

 襟付きはついてるけど、あまりに一般的なシャツだったから。


「あの、わたしの服ってこれで良かったんでしたっけ?」


 十萌さんが、微笑む。

「そのままでも素敵だけど……。もしよかったら、わたしが日本から持ってきた和装を試してみる?」


 そう言うと、女性の大使館員とともに、別室に案内してくれた。


 その部屋に据えら得た移動式のクローゼットの中には、色とりどりの和服が収められている。


「え、こんなに持ってきたんですか?」

「他のお偉いさんの服装に合わせて、調整したりもするからね」


 十萌さんは、その内の一枚を手に取って言う。

「この桜の和服なんて、リンちゃんに似合うと思うけど、どうかしら」


 着物の価値が全く分からないわたしが頷くと、あとは十萌さんのなすがままだった。


 さすが、神道の名家の跡取りだけあって、着付けの作法も流麗だ。

 服を脱がされ、襦袢(じゅばん)を着せられ、着物を羽織らされたかと思うと、帯をぎゅっと結ばれて、気付くと着付けは終わっていた。


「完璧ね。いくわよ」

 十萌さんはそう言うと、優雅ながらも力強く、晩餐会場の扉を開いた。


挿絵(By みてみん)

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