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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第16章:ブラジル・未来世紀の覇権国家【2029年12月30日】
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第210話:人が造りし風景

挿絵(By みてみん)


「ミゲーラ!」

 思いもよらない再会に、わたしは歓喜の声を上げる。


「もしかして、わざわざ来てくれたの?」

「うん、十萌が昨晩電話をくれたんだ。何か、リンが大変なことに巻き込まれて、落ち込んでるってね。だから、リオでのライブが終わってすぐ、駆け付けてきたんだ」


 そういえば、三式島でも言っていた気がする。

 ミュージシャンでもある彼は、祖国(ブラジル)に戻ったら、レゲエライブの全国ツアーをやるんだって。


「何か、ごめんね。わたしなんかのために」


 そう謝ると、ミゲーラは両腕を大きく開いて言う。

Sem(セン) problema(プロブレーマ)


 ――ん、どういう意味だろう?


「日本語でいう、『なんくるないさー』って意味のポルトガル語だよ」

「いや、それ、沖縄弁だから」


 日系三世とはいえ、その日本語の達者さに、わたしは思わず吹き出してしまう。


「あ、そうだっけ?そうそう、日本語で言うと、あれだ、『水が臭い』ってやつ」

「それを言うなら、『水臭い』だって」


 わたしも思わず笑ってしまう。


 それを見たミゲーラが、人差し指でわたしの頬を指して言う。

「やっぱり笑顔がイチバンだよ」


 わたしはようやく気が付いた。

 彼の日本語は、もっとカタコトだったことに。


 たぶん、ミゲーラは、わたしを慰めようと、日本語を覚えてきてくれたんだろう。

 凍えていた心が、すこしだけ暖かくなった気がする。


 梨沙さんがわたしの肩を叩く。

「ミゲールと星がいるなら安心だな。大統領官邸は、トレス・ポデレス広場のプラナルト宮殿にある。ホテルまで外務ナンバーの車を送るから、それに乗ってきてくれ」


 ***********


 わたしたちのホテルは、パラノア湖という湖の縁に立つ、瀟洒なホテルだった。


パラノア(この)湖は、人造湖なんだ」

 チェックインの手続きをしながら、ミゲーラが言う。


「人造湖……って?」

「ブラジリア建設の際、もともと川だったものを、都市計画の一環としてせき止められたんだよ」


 どうみても自然の風景にしか見えないこの湖もまた、人の手によって作られたということらしい。


 サラが教えてくれる。

「ブラジリアは、ルシオ・コスタが都市全体の骨格を整え、オスカー・ニーマイヤーという建築家が、主要な建築物をデザインしたんだ。ほとんどこの二人が手掛けたからこそ、他の都市にはない統一感があるんだよ」


 わたしはふと未来に想いを馳せる。

 氷河期が訪れ、地下都市や水上都市が各地で建築されたとき、この世界はどんな景色になるんだろう。


 ――そういえば、アレクも建築家だった。

 今まで建築物に特に興味はなかったけど、今度話を聞いてみたいかも…。


 そんなとりとめもないことを考えていると、ホテルのコンシェルジュが、わたし達に送迎車の到着を告げる。


 乗り込みながら、ミゲーラが言う。

「これから行くメトロポリタン大聖堂も、そのオスカー・ニーマイヤーの手によるものなんだよ」


 車に揺られて約20分。

 わたしは、広大なコンクリートの中に、突如咲き誇った白い花のような建築物に目を奪われた。


「え……、あれが教会?」


挿絵(By みてみん)

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