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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第15章:南米・とある文明の誕生と消滅【2029年12月26日】
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第207話:鈍色の世界

挿絵(By みてみん)


 嗅がされた薬の副作用なのか、あるいは脳波の酷使によるせいなのか……。

 ワイナ・ピチュでの一件の後のことは、良く覚えていない。


 星に支えてもらいながらマチュ・ピチュから下山し、クスコ行の列車に乗った。

 星が気を遣って色々声をかけてくれたけど、それさえも、どこか遠いところから話されているようで、頭の中に入ってこない。


 たぶん、自分の心の許容度(キャパ)を超えるショックを受けたせいなのだろう。


 一度信じた相手、バルバラやルミから裏切られたことへのショックはもちろんある。

 ただ、それ以上に、リカルド達を前にして、わたしがわたしでなくなり、無抵抗の相手に止めをさそうとした自分に失望したからだ。


 それは、”剣の道”を学ぶものとして、あるまじき行為だった。


 ――命懸けで秘技を授けてくれたおじいちゃんに、とても顔向けができない。


 わたしは涙を隠すように、窓の外に顔を向ける。

 来た時と変わらないはずの緑の景色が、今はただただ鈍色に見えた。


 **********

 2029年12月29日 クスコ


 マチュ・ピチュでの一件を聞いたのか、クスコの駅に到着すると、創さんと梨沙さん、そしてジャックが待っていてくれた。


 そのまま病院へと向かい、脳波の影響なんかを調べたけど、確かなことは何もわからなかった。

「ただ、煙の効力は既に体内から消えてはいるはずです。ただ、精神的なショックが大きいのだと思われます」


 それは、自分自分自身でも自覚していた。


 小3のあの日、エリーを暴漢から守り切れず、自宅に引きこもったときの感情に似ていたから。

 ただただ、「自分を許せない」という感情が、重しのようにわたしの心にのしかかる。


ペルー(ここ)に残って、もう少し休む? 僕が一緒にいるから」

 12年前、家から出られなくなったわたしの傍にいてくれたのも、星だった。


 首相補佐官としての梨沙さんが言う。

「明日、ブラジル大統領との晩餐会がある。もともとは、星とリンにも同席してもらおうと思ってたんだけど……」


「ブ、ブラジル?」


「ああ。あの国は、氷河期到来後、世界で最も広大な”非凍土化地域”を抱える、新覇権国家になるからな。だから、風間首相に加え、九条十萌も合流予定だ。九条家の跡取りとしてね」


「え、十萌さんも来るんですか?」


 わたしは、つい数日前に、十萌さんからかけられた言葉を、まざまざと思い出していた。

『さまざまな想いに触れ、時に失望し、それでもまた、何かを信じようと希求すること。その繰り返しによってのみ、”揺るぎない心の礎”が築かれる』


 その言葉は、今のわたしの状況を予言したかのようだった。


 わたしは、(わら)にも縋る思いで懇願する。

「わたしも一緒に、ブラジルに行かせてください。十萌さんに会って、話をしたいんです」


挿絵(By みてみん)

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