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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第15章:南米・とある文明の誕生と消滅【2029年12月26日】
205/291

第205話:黒幕

挿絵(By みてみん)


「あ、ありがとうございます!」

 ルミがわたしの下に駆け寄ってくる。


 その瞳は、今までのわたしに対するものとは明らかに違った。


「月の女神は、”世界の光を守る存在”として崇められていました。もしかしたら、リンさんは……」

 その表情にはどこか崇拝に近いものが浮かんでいる。


「わたしたちインカの民を救う、女神の生まれ変わりなのかもしれません」


 ――え?


「スペイン人たちをこの地から駆逐するための……」

 そう言って、ルミは横たわるリカルドたちを指差す。


 その口調は、どこかバルバラに似ていた。

 いや、あの夢の中で出てきたバルバラの先祖らしき、隻眼の女性に。


 彼女は、わたしに木の棒を手渡した。

 これで、とどめを刺せとでもいうのだろうか。


 頭の奥が痛みが、強くなる。

 衝撃波を発した後遺症なのだろうか。


 ぼんやりとした頭で、先端が折れて尖った棒を握りしめる。


 ――今なら、容易に仕留められる。

 放っておけば、再びわたし達を襲うかもしれないのだ。


 どこかから声が聞こえる。

侵略者(スペイン人)どもに、正義の鉄槌を」


 わたしは、その言葉をぶつぶつと繰り返しながら、ルミを襲った男の前に立つ。

 男の顔が恐怖にゆがむ。


 わたしが、棒を振りかざした瞬間。

 不意に腕を掴まれ、背後から体温が伝わってきた。


 振り向くと、星がわたしを強く抱きしめていた。


「え、な、なに……?」


 戸惑うわたしに、星は強くキスをした。


 ーへ?


 今まで、約20年、人生のほぼ全てを一緒にいたにもかかわらず、初めてのその行為に、頭が真っ白になる。


 ”からんっ”、とわたしの手から棒が落ちる。


 一瞬、身体が固まり、やがて身体を星に委ねる。

 幸せと、少しだけの後ろめたさがわたしを貫く。


 すっかりと毒気を抜かれたわたしは、その場にへたり込んだ。

 頭の痛みがぶり返してきた。


 やがて、星がルミの方へと歩み寄っていく。


 ――傷ついたルミの心をケアするんだろう。


 けれど、わたしの想像とは裏腹に、星の言葉は、あまりにも意外なものだった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 ――え?


 わたしは思わず、ルミの方を見る。


 彼女の眼は、昏く沈んでいた。

 そこには怯えに近い光が浮かんでいる。


「ど、どういうこと?」

 わたしはふらつく足でどうにか起き上がり、二人の方へと歩いていく。


「つまりルミが、今回の襲撃に関わっていたってこと?」

「僕も信じたくはなかった。でも、あの温泉に行くことを、事前に知っていたのは、リンと僕、そしてルミの3人だけだった」


「え、でもあれは、単に偶然だったんじゃ……?」


「それだけならまだしよかった。でも、ルミが誘ったこの天界の山(ワイナ・ピチュ)の月の神殿で、申し合わせたかのように、幻覚性のある煙が焚かれていた。あれは、インカの儀式に用いられる特別な薬草なんだ」


「で、でも、あの煙って、ルミも吸ってたよね?それに、リカルドたちだって……」

「そう。だから、ルミが一人で仕組んだとは考えづらい。彼女だけでなく、リカルドたちさえも手駒として操っていた黒幕がいるんだ」


「黒幕!?」

 リカルド達でさえもないとすれば、一体誰なんだろう。


「たぶんそいつは、今、この時点でも僕たちの会話に耳をそばだてているはずだ」


 星が、月の神殿の洞窟に視線を送る。

 やがて洞窟の入口から、ゆらりと人影が現れた。


 それは、クスコに残っているはずの、バルバラだった。


挿絵(By みてみん)

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