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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第15章:南米・とある文明の誕生と消滅【2029年12月26日】
203/292

第203話:道化

挿絵(By みてみん)


「動くな」

 銃口から硝煙を吐かせながら、(リカルド)が言う。


「俺は今、虫の居所が悪いんだ。洞窟の中で、妙な幻覚を見ちまったからな」

 リカルドの眼は座っている。


 ――まさか、彼もまた、洞窟の中であのインカの民たちのやりとりを幻視したのだろうか。


「まあ、抵抗しなければ、三人とも半殺しで済ませてやるよ。アタワルパとは違ってな」

 そう言って、わたしに銃口を向けつつも、仲間が羽交い絞めにしているルミの方へと歩いていく。


「俺はご先祖(ピサロ)様より寛容なんでな」

 そういって、ルミの顎を掴み、無理やりキスをしようとする。


 ルミが、先祖を侮辱された怒りで顔をゆがませ、リカルドに唾を吐きかける。

 リカルドは、無言でルミの顔を平手打ちする。


「やめろっ!!」

 地面にうずくまっていた星が叫ぶ。

 だが、その声はリカルドの取り巻きの蹴りによって、すぐに打ち消される。


 あまりに理不尽な暴力に、わたしは、ほとんど理性を失いかけていた。

 代わりにどす黒い感情が支配してくる。


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 わたしの燃え上がるような殺気に、僅かに男はひるんだように見えた。

 だが、手にしている銃が気持ちを大きくしているのだろう。銃口を震わせながらも、残りの二人に指示を出した。


「蹂躙しろ」


 リカルドの言葉を聞きオールバックの男が、ルミの民族衣装を剥ぎ取ろうとする。

 ひょろりとした男は、うずくまる星の腹を再び蹴り上げる。


 その言葉に、わたしの心の導火線が着火した。


「ライトニング!!」

 わたしが叫び、脳波を送ると、バックバックに潜ませていたハヤブサ型アバターが飛び立つ。


 ――上空まで飛翔し、急降下で相手を仕留める。

 三式島でジェラルド率いる傭兵隊にとどめを刺した、必殺の戦法……のはずだった。


 しかし、意外にもリカルドは冷静だった。

「その(アバター)を、動かすな。最愛の男の命が惜しいならな」


 さっきまで震えていたはずの銃口を、地面にうずくまる星に向け、低い声で言った。


 わたしはようやく気付いた。

 この男が、敢えて道化を演じていたことに。


 あの鳥が、戦闘用のアバターであることを、こいつは既に知っている。

 そして、わたしにとって星がどういう存在なのかも。


 そこまで入念に調べた上で、チンピラを装って接近してきたのだ。

 恐らく、温泉にいたのも、あんなにもわざとらしく絡んできたのも、事前に仕込んでいたんだろう。


「お前たちは、(Who are)何者な(you?)んだ?」

 わたしは呻くように訊ねる。


 リカルドは「何のことだ?」とばかりにとぼけた表情を作る。


 その時、星が絞りだすように言った。

「……Dominator(ドミナトーレス)es Animarum(アニマールム)i」


 ドミナトーレス・アニマ(魂を支配する者たち)ールム。


 わたしは、思いもよらないその言葉に驚愕する。

 カイを誘拐した、古代ギリシャのオルフェウス教に源流を持つカルト教団。

 

 だが、ヨーロッパ全土に隠然とした影響力を持つとはいえ、こんなペルーの山奥にまで、その影響を及ぼせるものだろうか?


 リカルドは、表情を変えない。

 けれど、その微妙な脳波のゆらぎを、わたしは見逃さなかった。


「そのアバターは、ちょっとばかり厄介だ。ゆっくりと俺の目の前まで下ろしてこい。そいつの眉間を撃ち抜いてて破壊してやる」


挿絵(By みてみん)

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