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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第15章:南米・とある文明の誕生と消滅【2029年12月26日】
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第197話:同じくらい大切な存在

挿絵(By みてみん)


「あの……。リンさんと星さんって、お付き合いされていないんですよね?」

 わたしとともに、部屋に入ったルミが、聞きづらそうに言う。


 ルミ(自分)がいなければ、星とわたしが一緒に部屋になると思って、気を遣っているのかもしれない。


「いや、わたし、星にはとっくに振られているから……」

 刺すような失恋の痛みは既に消えているけれど、ストレートに聞かれるとそれでもじわっと心に響く。


「そ、そうですか……」

 ルミが申し訳なさそうに言う。


 わたしは、ぶんぶんと手を振る。

「あ、いやまあ気にしないで。10年も昔の話だしね」


「でも今は、()()()()()()()()()()()()()()()()、思いとどまっているのですか?」


「え、なんでそんなこと……?」


 心を見透かされた、わたしはたじろいだ。


 確かにわたしの心には、昔みたいに、星だけが住んでいるわけじゃなくなっていた。

 ここ数カ月の間、星について想うたび、いつのまにかカイのことも連想してしまっていることは、さすがに自覚している。


「おばあちゃんほどじゃないけど、わたしにも少し分かるんです。その人の心に宿る、光のようなものの強さと暖かさが……」


 光のようなもの……?


 戸惑いを隠せないわたしに、ルミは更に言葉を継ぐ。


「星さんも、たぶん同じなんだと思います。リンさんのことをとても特別に思いつつも、それと同じくらい大切な存在がいるからこそ、踏み出せないのだと」


 ――え?


 星の、人類全体に注がれる、まるで太陽の光のような博愛精神は、幼馴染のわたしが誰よりも知っている。だからこそ、その優しさが、愛がわたしだけに向けられることはないと思っていた。


 でも、わたしのことは、少しは特別に思ってくれているということだろうか。

 そして、同じような存在が、星の中にもう一人いるというのだろうか。


 不意に、”ピピピピピッ”と、アラームが鳴った。

 気が付くと、待ち合わせまでの30分が経ったようだった。


 わたしたちは慌てて荷物をまとめると、ロビーへと駆け降りていく。


 既に辺りを散策してきたのだろうか。

 ロビーで待つ星の手には、来るときはなかったはずの編み込みバッグが握られている。


「じゃ、行こっか」

 聞けば、温泉はここから歩いて20分ほどの距離だと言う。


 宿の外に出ると、周りはもう夜の帳に包まれていた。


 もう、夕餉の時間だからだろうか。

 時折観光者らしき人影は見るものの、喧噪は薄れ、渓流のせせらぎが山間にこだましている。


 オレンジの街灯が揺らめいている。

 わたしたち三人の影が、インカ時代の石畳に、長く長く伸びていく。


「百年前、この街に明かりを灯してくれた、一人の日本人のことをご存じですか?」

 ルミの声が、夜の闇に溶け込むように響いた。


挿絵(By みてみん)

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