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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第15章:南米・とある文明の誕生と消滅【2029年12月26日】
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第196話:熱い水の村

挿絵(By みてみん)


「偉大なるインカの遺跡は、そのほぼ全てが、侵略者たちの手によって破壊されてしまった。ただ、手つかずで残っている遺跡も、僅かながらある。行ってみるかい?」


「もちろん!」

鳥の視点で見たサクサイワマンは、1割しか現存していないにもかかわらずこんなにも壮大なのだ。もし手つかずの状態で残っている遺跡があるとしたら、一体、どれほどまでに壮麗なんだろう。


「それってもしかして……」

 目的地を察したらしい星を、バルバラが人差し指で唇を抑えて制止する。


「あそこは、先入観なしで見るべき場所だ」


「真実の歴史を知るには、ケチュアの民が一緒にいた方がいい。ルミ、あんたが案内してきな」


「えっ、あそこに、私も行っていいの?」

 ルミの顔がぱぁっと明るくなる。


「ああ。あんたの母親にはあたしから言っておく。さあ、90秒で支度しな」


 **********


 ルミと星、そしてわたしを乗せた青色の電車が、緑の山道を走り抜けていく。

 辺りの木々や花々が列車に触れそうな程に近い。


「スペイン人が破壊しなかった……ということは、隠れ里のような場所にあるの?」

 ルミに訊ねる。


「ええ。”忘れられていた都市”と呼ばれていたくらいだから」

「え、建物じゃなくて、都市そのものが!?」


 一つの建造物ならともかく、都市全体が忘れられていた――なんてことがあり得るのだろうか?


「もちろん、インカの民は覚えていたわ。でも、”外の人たち”からは、その存在を隠し続けてきたのよ」


 ――隠し続けるって、モノじゃないんだから……。

 ますます、謎が深まってくる。


 車窓から外を見ていた星が言う。

「目的地までは、電車で3時間くらいだよ。”Aguas(アグアス) Calientes(カリエンテス)”で降りて、そこからは車で向かうんだ」


「アグアス・カリエンテス?」

 知らない外国語の場合、それが一体何を指しているかさえ分からないことが多い。

 降りる、ってことは駅の名前かなんかなんだろうけど……。


「うん。そこが、目的の遺跡までの唯一の中継点だからね。ちなみにアグアスは”水”、カリエンテスは”熱い”という意味なんだ。”熱い水”、つまり温泉ってことだよ」


「え、海外にも温泉があるの?」

 ”温泉”って聞くと、瞬時に入りたくなるのは、日本人の本能な気がする。


「うん。ま、日本人の思う温泉とは、ちょっと違うかもしれないけどね」

 そう言って、星が微笑む。


「アグアス・カリエンテスに到着するのは夕方になる。そこで一泊するから、温泉も一緒に入れると思うよ」


 ――え、一緒に温泉に入るの?


 わたしの心臓が少しだけ跳ね上がる。

 そんなわたしの表情を見て、なぜかルミまで顔を赤らめている。


 3時間後。

 列車は、予定から少し遅れて、アグアス・カリエンテスに辿り着いた。


 ”ざぁぁぁぁぁぁぁ”と、清流の音が聞こえる。

 山間に建てられたその小さな村は、映画にでも出てきそうな幻想的な雰囲気を漂わせている。


 ぽつりぽつりとオレンジの明かりが(とも)りはじめる。

 どうやら、夕餉(ゆうげ)の支度が始まっているようだ。


 宿に向かうと、星が手慣れた様子で、現地語でわたし達の部屋を手配してくれた。

 星は一人部屋、わたしとルミは相部屋だ。


 ――予想してはいたけど、ちょっとだけ残念な気もする。


 星が、わたし達に言う。

「30分後、ロビーに集合で。まずは温泉に行こう」


挿絵(By みてみん)

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