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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第15章:南米・とある文明の誕生と消滅【2029年12月26日】
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第191話:3400メートルの世界

挿絵(By みてみん)


「この子の名はRumi(ルミ)。よかったら、ケチュア(あたし達)族の聖地・サクサイワマンを案内させるけど、どうだい?」


 突然申し出に驚きながらも、わたしは、目の前の可憐な少女・ルミに訊ねる。

 年齢は16~7歳ぐらいだろうか。


「サクサイワマンって、どんな場所なんですか?」

「サクサイワマ(あの場所)ンは、皇帝パチャクティによって建てられた約500年前の遺跡なんです。もっとも、スペイン人の侵略で、一部しか残っていませんが……」


 ルミが、南米特有のなまりはあるものの、聞き取りやすい英語で話してくれる。


「確かパチャクティーって、確か広場に金の銅像が建てられていた人だよね……?」


 そう訊ねたわたしに、星が頷く。

「うん。インカ帝国の最盛期を築いた皇帝の一人だよ。いやぁ、でもインカの末裔のケチュア族に案内してもらえるなんてね」


 感動しきりの星と、それを満足気に見つめるおかみさん。


 ……な、なんだか、断りづらい展開になってきた。


「じゃ、じゃあ、お願いできますか?」

 おかみさんは「もちろんだよ」と笑みを浮かべると、「15分で支度しな」とルミに指示を出す。


 おかみさん(彼女)の恰幅のよさも相まって、『天空の城ラピュタ』の海賊船長・ドーラのセリフを思い出させ、危うく笑いそうになる。


「うん!」

 ルミは頷くと、パタパタとサンダルを響かせながら、再び奥の部屋へと戻っていった。


 **********


 きっちり15分後、奥の部屋から戻ってきたルミは、さっきまで見ていた”太陽神の祭り(インティ・ライミ)の映像からできたかのようだった。


 鮮やかな赤を基調とした上着に、青や銀の模様が施されたスカーフのようなものが付けられ、ふわりと舞うスカートにも刺繍がちりばめられている。


「綺麗……」

 わたしが呟くと、ルミが照れたようにはにかむ。


「これは、この地の伝統衣装なんだ。ちょっと現代風にアレンジされてはいるけどね。聖地に行くんだから、それなりの恰好をしなきゃね」


「これで花を買ってきな」

 そう言って、おかみさんがルミに、しわくちゃの紙幣を手渡す。


 「そういえば、お礼って……」

 わたしはなんだか申し訳なくなって、お金を払おうとする。

 けれど、サイフの中にあったのは、日本円とインドルピーだけだった。


 そんな様子を見ておかみさんがわたしの背中を叩く。

「子供がそんなこと、気にしなさんな。ただ、あの子の友達になってくれれば、あたしはそれで嬉しいんだよ」


 お礼を言って店を出たわたしと星に、ふわりとスカートをなびかせたルミが言う。

「サクサイワマンは、ここから徒歩で45分ほどよ。もし息が苦しくなったら言ってね」


 ――さすがに、1時間足らずの散歩で大袈裟な気がする。


 そう思った30分後。

 後ろの星が、はぁはぁと息を切らしている。


 ようやくわたしは気付いた。

 ――ここの空気は、明らかに薄いのだ。


クスコ(この地)の標高は、3400メートルなの」

「え、街全体がほぼ富士山頂と一緒ってこと?」


「私達は慣れてるけど、外国の人は高山病になることもあるわ。だからしっかり休憩をとらきゃね」


 ルミが、ボトルに入れたチチャを星とわたしに手渡してくれる。

 口に含むと、自然な甘みが身体に染みわたる。


 ”ぷぅぅぅぅ”

 その時、背後からラッパの合奏ような声を聞こえた。


 思わずわたしが振り返ると、4つのつぶらすぎる瞳が覗き込んでくる。

 ――これって、たしか……。


 負けずに愛くるしい笑顔で、ルミが言う。

 「アルパカよ。どうやら、私達を歓迎してくれているみたい」


 挿絵(By みてみん)

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