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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第15章:南米・とある文明の誕生と消滅【2029年12月26日】
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第189話:大地を揺るがす者

挿絵(By みてみん)

 

2029年12月28日 ペルー・クスコ


「彼の名は、パチャクティ・インカ・ユパンキ。かつて、『大地を揺るがす者』と呼ばれた、インカ帝国の第9代皇帝なんだ」


 星はそう言って、クスコの中央広場に建てられた金色の像を指差す。

 像の右手には、何やら複雑な装飾が施された杖のようなものが握られており、その瞳は、遥かアンデスの峰を望んでいる。


「大地を揺るがす者……って、なんかすごい異名だね」


「ああ。15世紀に、宿敵のチャンカ族がクスコを攻撃してきた際、父親と兄が早々と逃亡したのに対して、彼はこの地に留まり、戦い続けた。その戦いに勝利した彼は、自らを『大地を揺るがす者(パチャクティー)』と呼び、第9代の皇帝に即位したんだ」


「え、お父さんとお兄さんが逃げちゃったのに、自分だけ残って戦ったの?」


 星が頷く。

「うん。だからこそ、インカの歴史の中でもでも、彼は特別な英雄と目されているんだ。実際、当時は首長国に過ぎなかったインカを、このペルーのみならず、今のボリビア、エクアドル、チリ、そしてアルゼンチンの一部にまで広げ、まさに帝国へと変貌させた立役者だしね」


 わたしは、創さんが見せてくれた、南米大陸の西部を覆うインカ帝国の地図を思い出す。


「それに、彼は行政者としてもすぐれた手腕を発揮したんだ。道路網を整備し、貯蔵庫を建設して食料の安定供給を図ったり、官僚制を整え、ケチュア語(Quechua)を公用語として広めたりもした。あの杖が象徴する、インティ信仰を広めたのも彼だ」


「インティ?」

「インティというのは、パチャクティが広めた”太陽神信仰”のことなんだ。ついてきて」


 そう言って星は、敷き詰められた石畳を、キュッキュッと音を立てながら歩き出す。

 赤茶けた建物と、艶めく石畳の中を歩くと、まるで当時にタイムスリップしたような気分になってくる。


 数百メートルほど歩いただろうか。

 標高が高いせいか、星の息遣いがいつもより大きく聞こえる。


 やがて、目の前に、壮麗な建物が飛び込んできた。


「これが、太陽神(インティ)信仰の象徴、太陽神殿だよ」

「え!?でもなんか、西洋の建物っぽく見えるけど……」


「そう。パチャクティの時代の約百年後、13代皇帝・アタワルパの時、インカ帝国がスペイン人によって滅ぼされたとき、もともとあった太陽神殿を半ば増築する形で、キリスト教の修道院が新しく建てられたんだ」


「え、壊さずに、増築したってこと? 」

 今でいうリノベのような感じってことだろうか……。


 ただ、キリスト教の象徴の修道院を建てるのに、他の宗教の建物を活用するっていうのも、何だか不思議な気がする。


「太陽神殿の石組があまりにも堅牢で強固だったからね。当時の技術では取り壊すこともできず、仕方なしにその土台の上に、新たに修道院が建築したんだ。つまり、この建物は、太陽神とキリストの双方が祭られている建物ってわけさ」


挿絵(By みてみん)

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