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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第15章:南米・とある文明の誕生と消滅【2029年12月26日】
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第187話:記憶と記録

挿絵(By みてみん)


着陸(ランディング)するぜ」

 そう言って、ジャックは、セスナの高度を更に下げ、ナスカの地上絵から数百メートル離れた地面へと飛行機を滑らせた。


「す、すごい。こんな滑らかに着陸できるんですね」

 副操縦席で、梨沙さんが感嘆の声を上げる。


 確かに、機体はわずかに上下したくらいで、ほとんど衝撃を感じなかった。

 まるで紙飛行機がすいっと地面を滑りながら着陸したかのようだ。


「あの展望台に登ってみようか」

 そう言って、星がセスナから降り、次いでわたしも地面に足をつける。


 けど、梨沙さんは副操縦席に座ったままだ。


「あたしは、もう少しここにいるよ」

 どうやら、さっきの着陸のコツをジャックに教えてもらうまでは、降りるつもりがないらしい。


 ジャックが操縦席から言う。

「どうやら、君たちの女王様(クイーン)は、もう(ひと)っ飛びするまで満足してくれないようだな。リンと星(ふたり)は、先に行っていてくれ」


 ”展望台”と呼ばれる建物は、どちらかと言えば”物見櫓(ものみやぐら)”といった趣で、錆びた鉄骨で組まれた簡素なものだった。


 頂上まで登っても20メートルほどで、とても地上絵の全貌を見ることはできない。

 ただ、どうやらその絵が、赤茶色の地面を削るようにして描かれていることが分かった。


「ナスカの地上絵は、小さいものを含めると、1000以上あると言われているんだ。それに、一番古いのは2500年前に描かれたと言われている」


「どうして、そんなに長く消えないで残っているの?」

 ここから見る限り、そんなに深く掘られているわけでもないようだ。


「このセチュラ砂漠は、ほとんど雨が降らない上に、風が少ないから、土壌の浸食速度が極めて遅いんだ。それに、赤茶色の砂の下の土壌は、石灰質を含んでいるから、水分を吸うと保護膜のようなものを形成している」


 ……ふーん。

 正直、分かったような分からないような説明だけど、それで2000年以上も残っているというんだから、古代の人たちの知恵はすごい。


「むしろ、現代のコンピューターの方が、記録を保存できる期間はよっぽど短い。一般のハードディスクの場合、今の技術だと50年程度が限界と言われているからね」


「え、そうなの?」

 何となく、デジタルデータの方が、後世に残しやすいのかと思っていた。


「ああ。だからこそ、カイや十萌さんは、単体で機能する”物理的な人工頭脳”の研究に心血を注いでるんだと思う。もし、クラウドサーバに”意識”をアップロードしても、記録を司るサーバー機器そのものが破壊されたら、元も子もないからね」


 ――()()()()()()()

 わたしは、無意識の内に、あらゆるデータは、永遠に記録され続けると勘違いしていた気がする。


 でもむしろ、あらゆるデータは消えゆくものだと考えた方がいいのかもしれない。


 わたしは、地平に向かって動物の輪郭線を見つめた。

 数千年前、この地に住んでいた人たちは、何を想ってこれだけ壮大な絵を描いたのだろう。


 自らの文明が滅びてもなお、その絵だけが残るだなんて、想像していただろうか。

 いや、むしろ、自分たちがいずれ滅びることを知っていたからこそ、その記録としてこの絵を残したのかもしれない。


 わたしはふと、創さんの言葉を思い出す。

『リンちゃんの脳に刻まれた潜在記憶を読み取って、その思考と脳波を双子の地球(デジタル・ツイン)に流し込む。それが、十萌さんから託されたミッションなんだ』


 もしかして、わたしたち人間の脳もまた、一つの記録装置にすぎないんだろうか。


 それなら、なんで、”感情”なんてものが存在するんだろう。

どうして、1000年以上前に滅びた文明を想い、とめどない寂しさが去来するのだろう。


挿絵(By みてみん)

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