表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第15章:南米・とある文明の誕生と消滅【2029年12月26日】
185/266

第185話:”花を見る”街

挿絵(By みてみん)


 2025年12月27日 ペルー・リマ


「みなさん、遠路、ご足労でしたね」

 首都リマの空港で待っていたのは、橘環境庁長官とその閣僚たちだった。


 まだ明け方にもかかわらず、橘長官自ら、創さんを空港まで迎えにきてくれたらしい。

 早速今日から、日本政府の高官と同行し、ペルーの政財界の人と会うという。


 長官は創さんへの挨拶を終えるとわたしのところまで歩いてくる。


「サウジやインドでのご活躍は聞き及んでいます」

 そう言って、わたしに右手を差し伸べてくる。


 わたしは、恐縮しながらもその手を握り返す。

 その掌は、厚く、ごつごつしている。


さすが、”誰よりも早く災害現場に駆け付ける男”だ。

 デスクワークだけしていたら、決して手に入らない”現場人の手”が、そこにあった。


 その背後から、革ジャンに身を包んだ梨沙さんが現れる。相変わらずのボーイッシュなイケメンっぷりだ。


「さあ、リンと星は、ここで小型セスナに乗り換えだ。十萌さんからミッションがあるからな」

 

「ここから、セスナでインカ帝国の遺跡を見に行くんですか?」

「いや、インカよりも遥か前の遺跡だよ。いや、ま、()()は”遺跡”とは呼べないかもしれないけど……」


 ――アレって?

 ストレートな梨沙さんには珍しく、周りくどい言い方だ。


「見てのお楽しみだ。十萌さんから、『リンちゃんには、先入観なしに、まっさらな気持ちで見せてほしい』と頼まれるからな」

そう言って、ニヤりと笑う。


 隣の星の顔を見ると、どうやら既に察しているようだった。


 ――問い詰めたいけど、まあ、十萌さんの頼みなら仕方ない。


「12月と言えども、南半球の日射しは強い。こいつを被っておきな」

 そう言って、ちょっと不思議な形状をした野球帽(キャップ)を、わたしの頭にかぶせてくれる。


 ――これって?

 「ああ、アイロニクス特製のキャップだよ。こいつをつけておけば、脳波の変化が遠隔で測定できるらしい」


 **********

「Welcome ba(お、戻ってきたな)ck!」

 セスナの前に立っていたのは、ここまで運転をしてくれたジャックだった。


「ジェット機で行くんじゃないんですね」

「ああ、これから行く場所は、()()()()()()()()()()()からな」


――速すぎる?

……ということは、空中から見える”何か”なんだろうか?


「そちらの女性は……」

 ジャックが、バックパックを背負ってやってきた梨沙さんを見て訊ねる。


「It’s an honor to meet you, Captain Yagami(お会いできて光栄です、キャプテン八神)」

 梨沙さんが、ジャックに手を差し出す。


 ――え、Yagami(八神)?  


 もしかして、ジャックって、日系なんだろうか。

 だから、小錦についても知っていたのかもしれない。


「ジャック八神っていったら、飛行機乗りには憧れの存在だよ。あたしが戦闘機に興味を持ったのも、"雷光(ライトニング)”と呼ばれた、彼の活躍を映像で見たからなんだ」


 そう言えば、梨沙さんはサウジでもやたらと戦闘機に興味を持っていた。


「それに、わたしが陸自にいたころ行われた、日米合同演習の米側の指導官でもあったんだ。まあ、わたしなんて、下っ端のペーペーだったから、声さえ掛けられなかったけどな」


「いや、記憶してるよ。陸自隊の右の列の前から二番目にいた女の子だろ?」


「え!?覚えてらっしゃるんですか?」

 まるで、ライブ会場で好きなアイドルに見つけてもらったファンのように、口を抑える。


「ああ、”全てを吸収してやろう”っていう気迫を感じたからな。儂はもう引退した老兵(ロートル)だが……。もし、良かったら、副操縦席に座ってみるかい?」


「も、もちろんです!」

 梨沙さんが目を輝かす。


 ――普段は豪快な姉御肌の梨沙さんの、こんな女性的(ガーリッシュ)な表情は初めて見る。

 ジャックこそが、彼女にとっての英雄(ヒーロー)なんだろう。


 10分後。

 朝陽とともに、セスナは離陸した。

 上空から見下ろすリマの街は、夜の顔とは違って見える。


「この街って、崖の上に作られてたんですね」

「ああ、世界で最も美しい海岸線の一つだよ。まさに、花を見る街(ミラ・フローレス)の名前の通りにね」


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ