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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第15章:南米・とある文明の誕生と消滅【2029年12月26日】
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第184話:私は死ぬが、飛行機は勝った

挿絵(By みてみん)


 2029年12月27日 ペルー・リマ


「リマって、こんなに大きいんですね」

 飛行機の窓から見る夜のリマの街は、見渡す限りのオレンジ色の光に溢れていた。


「ああ、南米だと珍しい1000万人都市だからな。サンパウロ、ブエノスアイレス、リオ・デ・ジャネイロに次ぐ巨大都市さ」

 ジャックが、パイロット席のマイク越しに、相変わらずの陽気な口調で言う。


「さあ、そろそろ、ホルヘ・チャベス国際空港に到着する」

「ホルヘ・チャベスって、人名なんですか?」


 海外に来て気づいたのが、空港名に人の名前が冠されていることが多いということだ。

 日本の場合は、成田にせよ、羽田せよ、関空にせよ、地名が中心だったので、何だか新鮮だった。


 ジャックはどこか誇らしげに言う。

「ああ、ホルヘ・チャベスは、1910年、人類史上初めてアルプス山脈を越えた、伝説的なペルー人パイロットの名前さ」


「へぇぇ」

 今では当たり前のことでも、当時としてはすごかったんだろう。


「ああ、彼が乗っていた単葉機のブレリオXIの翼は、木と布で出来てたからな。総重量も300KGしかなかった」


「え、そうなんですか?」

 そんな飛行機には絶対乗りたくない。


「ああ、ハワイ出身の相撲レスラー、KONISHIKIと一緒ぐらいだろう?」


 ――KONISHIK(小錦)I? 

 確か、”大相撲名場面集”か何かで見たことがある気がする。でも、ジャックからその名前が出るのは意外だった。


 サラに尋ねると、わたし達が生まれる1997年に現役を引退し、当時の最高体重は285キログラムだったと教えてくれる。


「つまり、100年も前に、小錦一人分の重さしかない木製の飛行機が、何千メートルも上空を飛んだってことなんですね」


「つまり、100年も前に、小錦一人分の重さしかない木製の飛行機が、何千メートルもの上空を飛んだって

ことなんですね」


「ああ。だが、アルプス山脈越えを成し遂げ、観客が拍手喝采した直後、イタリア・ドモドッソラ上空で悲劇が起こった。上空で翼が折れ、そのまま墜落したんだ」


 ――え!?


「そ、それでどうなちゃったんですか?」


「木や布で出来た飛行機だ。当然、衝撃にも弱い。重症を負ったチャベスは病院に運ばれ、4日後、23歳で息を引き取った」


 後に首都の飛行場名になるくらいの偉業を、23歳という若さで成し遂げながらも、その直後に死を遂げた彼の気持ちを思うと、複雑な気持ちになる。


「そういう人生って、幸せなんでしょうか?」

 まるで打ち上げ花火のように華々しく咲き、そして盛大に夜空に消えゆく人生だ。


「ま、本人次第だろうな。けど、けど、彼は死ぬ間際にこう言っている。『私は死ぬが、飛行機は勝った(Io muoio, ma l'aereo ha vinto)』と」


 わたしはなぜか、ほっとした。

 死の間際にそう言えるとしたら、悔いのない人生と言えるのかもしれないから。

 

「それが今は、自動運転(オートパイロット)なんてもんまで実現してるんだからな。でもそれもまた、チャベスのような先人たちの功績なのさ」


「さあ、まもなく着陸だ。シートベルトを締めてくれ」


 わたしは、いつもより念入りにシートベルトをする。

 やがて、驚くほどスムーズに、機体はホルヘ・チャベス国際空港へと吸い込まれていった。


挿絵(By みてみん)

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