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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第15章:南米・とある文明の誕生と消滅【2029年12月26日】
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第182話:攻撃的脳波・防御的脳波

挿絵(By みてみん)


 「意識体のみで生きる”双子の地球(デジタルツイン)”では、思考汚染ウィルスが広まる速度は、あり得ないほど早い。だからこそ、防御障壁としての”女神の盾”が不可欠になるわ。そのために、あなたの力が必要なの」


 誰かに必要とされるのは、正直嬉しい。

 世界を動かす天才達に囲まれて、自分の無力さが嫌になっていたから。


 でも、『女神の盾になれ』なんて言われても、自分に何ができるのかさっぱり分からない。


 そんな気持ちを正直吐露すると、十萌さんは一瞬驚いたような表情を見せる。


「……そっか。リンちゃんはまだ、自分がどんなに価値があるのかに、気づいていないのね」


 そうは言われても、世界をその手で動かしている人たちの中で、わたしだけが、ホテルのバイトしかしてない20歳の小娘なんだけど……。


「そんなの関係ないわ。少なくても、今この世界に、ルカさんの精神干渉に抗える20歳は、世界にリンちゃんだけだと思うわ」


「精神干渉?」

「ええ、初めて会ったとき、やられたでしょ? 強烈な脳波を送り、相手の精神を支配する例のヤツよ」


 ――ああ。

 確かに彼らに会ったとき、その脳波が入り込んでくる嫌な感触を覚えた。

 ゾーンには入ることで何とか跳ね返せたけど、あのままだったら、本当に精神を支配されていたのかもしれない。


「それって、他の人にはできないことなんですか? 例えば、夢華(お姉ちゃん)とか」

 三式島での脳波操作の成績は、彼女の方が圧倒的に良かったはずだ。


「ここらへんはまだ研究が必要なんだけど……。どうやら、脳波操作にも、”攻撃的な脳波”と”防御的な脳波”があるようなの」


 ――攻撃と防御の脳波?

 なんだかゲームみたいな響きだ。


「”攻撃的脳波”というのは、ルカやジャイールがやったように、相手を支配しようとする脳波よ。一方で、相手から受けた脳波を跳ね返す力、それが”防御的脳波”と呼ばれるものよ。そして、リンちゃんはその防御的脳波(後者)を操る力が突出している」


「そ、そうなですね」

「一方で、夢華は、典型的な”攻撃的脳波型”ね。だから、普通に戦ったら、リンちゃんが夢華には勝てないでしょうね」


「な、ならやっぱり夢華の方がいい気が……」

「そうとも言えないわ。いうなれば、攻撃的脳波は”剣”で、防御的脳波は”盾”のようなものよ。もし、自分より強い剣、つまり攻撃的脳波を持っているものと対峙したら、最悪、相手の精神的支配を受けてしまう恐れがあるから」


 ようやく分かってきた。

 武器強化に全振りして、防具を全くつけなかったら、いざ攻撃を喰らったときにひとたまりもないってことか。


「でもそれと、わたしがインカ帝国の歴史や宗教を学ぶことと、何の関係があるんですか?」


「最悪の敵は、時に味方の顔をして現れて、心を支配しようとするからよ。12歳の時、カイさんが教団に誘拐された話は聞いた?」

「は、はい」


「あの時、カイさんを教団に引き入れたのは、彼が唯一、心を許していた”親友”だったわ。だからこそ、あのルカさんさえも出し抜いて、誘拐されてしまったの」


 わたしは身震いする。


「リンちゃんの防御的脳波は確かに強力よ。だけど、それは相手を警戒しているときのみ発動する。例えば、”魂を支配する者(教団)たち”に知らず知らずに接近され、自分からその教義を受け入れてしまったら、手遅れになる。12歳のカイさんが、まさにそうされかけたように」


 確かに、どんなに強固な盾を持っていたとしても、使わなければ、紙の盾も同様だ。


「じゃ、じゃあ、わたしはどうすればいいんでしょうか……」

 でもだからと言って、近づいてくる人全てを疑うような一生は送りたくない。


 ――ちょっと、矛盾して聞こえるかもしれないけれど……と、十萌さんは言う。


「五感を総動員して、さまざまな歴史や思想、そして人に触れることよ。でも、そのときは必ず、打算なく、心から信頼できるひとと共に一緒にいなさい」


 ――心から信頼できるひと。


 わたしは、隣に座る星を見つめた。

 生まれたときから変わらない幼馴染の笑顔が、春風のような温かさとともに、心に染みてくる。


 次の瞬間。

 ふと、カイの顔が片隅に浮かんだ。

 それは春に吹き抜ける涼風のように、わたしの心を撫でた。


 わたしはそんな自分自身の気持ちに驚く。


 わたしにとって、いつでも星が、心の一番大切な場所に輝いていたはずだった。

 でも、いつのまにか、その場所の一部に、カイが入り始めていたなんて。


「さまざまな想いに触れ、時に失望し、それでもまた、何かを信じようと希求すること。その繰り返しによってのみ、”揺るぎない心の(いしずえ)”が築かれる。その心の在り(よう)を、双子の地球に具現化できたとき、最強の女神(ディバイン・)の盾(イージス)が生まれるでしょう」


挿絵(By みてみん)

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