第181話:女神の盾
「リンちゃんの脳に刻まれた潜在記憶を読み取って、その思想を双子の地球に流し込む。それが、十萌さんから託されたミッションなんだ」
不可解そうなわたしの表情を見て、創さんが言う。
「もし、よかったら十萌さん本人に訊いてみるといい」
そう言ってスクリーンを操作すると、オンライン通話の画面に移り変わる。
「Security Level 5. Hotline to Tomoe Kujo (セキュリティーレベル5。九条十萌へのホットライン)」
創さんのその言葉を発した数秒後、画面に十萌さんが現れた。
普段は研究用の白衣に薄いメイク、そして眼鏡なのに、今日は和風の着物に、きっちりとまとめられた髪、口には朱色の上品な紅が引かれている。
改めてこうしてみると、びっくりするほどの日本美人だ。
「今日の十萌さん、素敵です」
「そ?ありがと。あんまり好きじゃないんだけどね、政財界のパーティーってやつは」
そう言いながら、簪を髪から引き抜くと、長い黒髪がばらっとほどける。
その仕草にも妙な色気がある。
「そんなことより、梨沙さんから話は聞いたわ。ヴィクラムの件、大変だったわね」
そのお姉さんのような口調に、懐かしさを覚える。
創さんが言う。
「左眼島で、ルカから全てを話してもらった。Dominatores Animarumのこともね」
ドミナトーレス・アニマールム。右眼島を全滅させ、カイをも誘拐しようとした狂信教団。
十萌さんが真剣な表情に変わる。
「そう、じゃ、教団の目的も、聞いているってわけね」
「は、はい。双子の地球をハックして、その住人に、彼らの教義を強制的に広めようとしている――そう聞きました」
「そう。その状態は絶対に阻止しなければならない。その対抗措置として、今、私達が開発しているのが、”Divine Aegis"なのよ」
「ディバイン・イージス?」
「”Aegis”は、直訳する”盾”という意味よ。その語源は、ギリシャ神話の知恵と戦争の女神アテナが持っていたとされているわ。つまり、”Divine Aegisは”女神の盾”って意味」
――アテナなら、かの名作『聖闘士星矢』に登場してたから、もちろん知っている。でも、それが、今、何の関係があるのかが、全く分からない。
「意識体のみで生きる”双子の地球”では、思考汚染ウィルスが広まる速度は、あり得ないほど早い。だからこそ、防御障壁としての”女神の盾”が不可欠になるわ。そのために、あなたの力が必要なの」