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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第15章:南米・とある文明の誕生と消滅【2029年12月26日】
180/267

第180話:潜在記憶

挿絵(By みてみん)


 飛行機は夜の海を駆けていく。

 

「そういえば、わたしと星のミッションって……」

 わたしは創さんに問いかける。


 思い出したように、創さんがぽんっと手を叩く。

「このペルーで、星と一緒に、インカ帝国の歴史と思想を、肌身で感じてきてほしいんだ」


「イ、インカ帝国、ですか……」

 その名前には、微かに聞き覚えがある。


 歴史の教科書だけじゃなくて、つい最近、別のどこかでも聞いたような……


 星が横から声をかけてくる。

「それって、”インカの目覚め”っていうジャガイモじゃない? 日本で一緒に行ったレストランで出てきた……」


「そう、そのインカだよ。アンデス山脈周辺に版図を広げていたインカ帝国は、寒冷気候に強い、多種多様のジャガイモを育ててたからね。”インカの目覚め”はその末裔みたいなもんさ」


 創さんが、今度は別の地図を機内スクリーンに投影する。

 地図(そこ)には、現在の南米の地図に、かつてINCA ENPI(インカ帝国)REがあった場所が塗りつぶされていた。


「16世紀、インカ帝国はペルーを中心に、エクアドル、ボリビア、チリ北部、アルゼンチン北西部、そしてコロンビア南部の一部にまで領土を広げていた。だから、南米の民の心の底には、今なお深く、インカ帝国の思想が刻まれているんだ」


 ……交通も発達していない時代に、こんな広大な土地を治めていたなんて、知らなかった。


「で、でも、星はともかく、わたしなんかが行ってなんか役に立つんでしょうか?」

 殆ど知識がないわたしよりも、歴史学者なり、宗教学者なりが行った方が、よっぽど有意義な気がする。


「形式化された知識なんて、後でいくらでもアップデートができる。それよりも大切なのは、現地でそれに触れることでに脳に刻み込まれる、リンちゃんならではの()()()()なんだ」


「潜在記憶って?」


「意識的には思い出せないものの、無意識のうちに脳に保存され、特定の状況や刺激によって影響を及ぼす記憶のことだよ。例えば……」


 創さんが、スクリーンに動物たちの映像を投影する。

 サバンナらしき場所に、2匹のキリンやゾウにシマウマ、そしてたくさんの鹿みたいな動物が群れを成して闊歩している。


 数秒ほどして、創さんはその映像を消すと、こう聞いてきた。

「一番前にいた鹿(ガゼル)が、どっちを向いていたか覚えている?」


 ……え、うーん。

 わたしは、必死で記憶を辿る。


 画面の真ん中にいた、右と左を向いた二匹のキリン、そしてその隣にいたゾウのことは鮮明に思い出せる。

 けど、その他の中型動物のシマウマや鹿については、ぼんやりとしたイメージが浮かぶだけで、一番前にいたはずの鹿(ガゼル)のことはてんで思い出せなかった。


 答えに窮していると、再び創さんが映像を流し始める。

 すると、今度は、画面の一番前の鹿がはっきりと目に入ってくる。


「右に向かってたんですね」


「ああ。人の脳は、”見たいもの”と”そうでないもの”を瞬間的に振り分けているんだ。だから、ある一点、例えばゾウやキリンに集中しているときは、他の動物までは敢えて意識を巡らせない。それは脳を効率的に動かすための仕組みでもある」


――そういえば、カイもこう言っていた。

『見たいものしか見ないからこそ、人は人たりえている』と。


「でも、それは、他の動物が見えていないということじゃない。実は、他の動物たちのことも、潜在的には脳には刻まれている。それが潜在記憶だ。そして、十萌さんが研究しているのはまさにそこだ」


「え、十萌さんが?」


「リンちゃんの脳に刻まれた潜在記憶を読み取って、その思考と脳波を双子の地球(デジタルツイン)に流し込む。それが、十萌さんから託されたミッションなんだ」


挿絵(By みてみん)

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