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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第15章:南米・とある文明の誕生と消滅【2029年12月26日】
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第178話:鳥人信仰

挿絵(By みてみん)


「もう一つ、連れていきたい場所があるんだ」

 イースターの人類衰退の歴史を聞いて、すっかり暗い気持ちになったわたしに、創さんが声をかけてくれる。


 そこから、ガタガタと揺れる車に乗ること30分。


 眼下に広がる、まるで絵画のような景色に、わたしは一瞬で目を奪われた。


「ここは、ラノ・カウ。火山の火口だよ」

「え、ここが?」


 確かに、その大きなフライパンのような形状は、そう言われれば頷けもする。

 けれども、その中に広がる風景は、私が知っている”火口”とは全く違ったものだった。


 火口()の表面には、草花の緑と、水たまりのような白と青が混ざり合って、キラキラと輝いている。


「ここを、”神様の鏡”と呼ぶ人もいるんだ」

 そう言われても不思議でないほど、神秘的で美しい光景だった。


「ここって、鳥人(ちょうじん)信仰の舞台ですよね?」

 星の問いかけに、創さんが頷く。


「ちょうじん?」 

 わたしは、その言葉の響きに、星の家にあった、漫画『キン肉マン』を思い出す。


 創さんが子どもの頃に流行った漫画らしいけど、時に真剣な、それでいてギャグに溢れた超人たちの戦いに惹きこまれたものだった。


 わたしの表情から、勘違いに気が付いたのだろう。

 火口周辺を歩きながら、創さんが解説をしてくれる。


「 鳥人信仰っていうのは、モアイ信仰が衰退した後の17世紀以降に生まれた新しい信仰体系だよ」


「モアイ信仰とは、また別の信仰なんですね」

「ああ、さすがに、”モアイを作っては破壊し合うと行為”が、いかに自滅的かに気付いたんだろう」


 ……よ、良かった。

 数百年も前のことなのに、心からほっとしている自分がいる。


 暫く歩き、創さんは何かが彫られている(レリーフ)の前に、わたし達を案内してくれた。

 よく見ると、そこには確かに鳥人らしき人が彫りこまれていた。


「それでも、部族間の対立自体が無くなったわけではない。そこで、各部族が勇者を選び、毎年、この場所で、「タンガタ・マ(鳥人)ヌ」と呼ばれるリーダーを選ぶための儀式が行われていたんだ」


「でも、部族間は戦争するほど仲が悪いんですよね。どうやって、リーダーを選んだんですか?」

 話し合いで決まれば、もともと戦争などしていないはずだ。


 創さんは、鳥人の(レリーフ)の先の、海に浮かぶ小島を指差した。

「各部族の代表者が、崖から荒海に飛び込んで、あのモトゥ・ヌイ(小島)を目指すんだ。そこにある、マヌタラという鳥の卵を見つけ、無事に持ち帰った最初の者が勝者になるのさ」


「な、なんか急にオリンピック競技みたいになったんですね」


「まさにそうなんだ。勝者は”タンガタ・マヌ”として崇められ、1年間特別な地位と権力を与えられた。重要なのは、毎年開催されるから、逆に負けた部族も、1年後にはリベンジのチャンスが与えられたってことだ」


 星も頷く。

「オリンピックもワールドカップも、国同士の対立を、スポーツに昇華している部分があるからね」


 確かに、南米やヨーロッパのサッカーの試合では、戦いさながらに殺気立った試合を見ることがある。実際、フーリガンが暴走して、試合が中断すると言うケースも少なくない。


 それでも、実際に戦争するよりはよっぽどいい。


「僕は、ここに希望があると思っている。まさにこの島で、モアイ信仰が鳥人信仰へと移行したように、暴力に依らない形で、新世界の秩序を創っていきたいんだ」


挿絵(By みてみん)

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