第177話:なぜ、モアイは人類を滅ぼしかけたのか?
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「え!? モアイが、島の人類を滅ぼしかけた?」
わたしは、思わず聞き返した。
そもそも、モアイは、島の守り神的な存在だったはずだ。
それが何で、人類を滅ぼすなんてことにつながるんだろう?
「イースター島は、160平方キロメートルほどの小さな島だ。更に、いずれの大陸からも離れた位置にあるから、外部との交易もできない。にもかかわらず、モアイの製作や運搬のために、貴重な森林資源を過剰に伐採したら、どうなると思う?」
――土地が痩せてしまう?
「そうだ。森林が失われることで、まず土壌がやせ細り、農業生産力が低下した。更に、木材不足でカヌーを作れなくなって、漁獲量も激減し、食糧危機が発生したんだ。それにもかかわらず、彼らは自部族のためにモアイを作り続けたどころか、敵対部族の守護神たるモアイを破壊しようと躍起になっていたんだ」
「え、食べ物が無くなったのに、争いを続けてたんですか?」
「そこが、信仰の負の側面だ。全体最適を考えれば、どう考えても停戦して食糧生産に力を力を入れるべきなのに、いつの間にか『相手のモアイを破壊さえすれば、苦境から救われる』と盲目的に信じ込んでしまったんだ」
「そ、それでこの島はどうなったのですか?」
「1722年にオランダ人探検家ヤコブ・ロッヘフェーンが、この島を発見して以降、事態は更に悪化した。島民が、疫病(天然痘など)の持ち込みにより疫病が蔓延した上に、奴隷商人によって多くの島民が連れさられてしまったんだ。ピークには1万人いた人口が、一時は数百人にまで減少したという」
わたしは、目の前に横たわるモアイたちの見え方が、自分の中で180度変化しているのを感じていた。
初めて見たときは正直、『昔の人はすごいなぁ』という、呑気な感想だった。
でも、今はとてもそうは思えない。
まるでモアイたちが、負の象徴にさえ見えてしまっている。
「その後の1888年、この島は南米本土のチリに併合される。現在は、バルパライソ県の一部となり、人口は回復基調に向かっている」
「じゃ、全滅は何とか免れたということですか?」
「ああ、かろうじてね」
そう言って、創さんはわたしの目をまっすぐ見つめてくる。
彼が、わたし達をこの島に連れてきた理由が、ようやく分かった気がした。
創さんはイースター島の過去を、人類の未来に重ねているんだ。
今後、氷河期の到来により、人間が利用可能な資源は激減する。本来、手を取り合って助け合うべきなのに、もし各国が残されて土地を求めて戦争を繰り広げたら……。
まさにこの島で起こったように、人類そのものが絶滅の危機を迎えても決しておかしくない。
横たわるモアイが、まるで、そんな不吉な未来を示唆している気がした。
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