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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第14章:ポリネシア・始源の島にて【2029年12月25日】
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第175話:キリストの血

挿絵(By みてみん)


「かつてこの島(イースター島)で起こった悲劇が、僕たちの未来に大きな示唆を与えてくれるだろう」


 ――イースター島で起こった悲劇?


 もちろん、モアイくらいはわたしでも知っている。

 でも島の歴史となると、全く分からない。


 創さんは頷く。

「続きは、島の景色を見ながら話そう。あそこにしかない空気感を感じてほしいからね。それより今は……」


 そう言って、創さんは、傍らに置いてあったバックから、茶色い陶器の壺のようなものを取り出した。


「ジョージアの友人がくれた、6000年前の醸造法で作られたワインだよ。今日は、星、カイ君、そしてリンちゃんが初めて迎える、20歳のクリスマスだから、特別に準備したんだ」


 ――あ、そういえば、今日ってクリスマスだったんだ。


 時計に目をやると、確かに12月25日と表示されている。

 とはいっても、もう午前零時まで、あと10分しかないんだけど。


 ヒナが、やたらと繊細なガラス細工が施されたワイングラスを持ってきて、その赤い液体を注ぐ。

 そして、ルカ、創さん、カイ、星、わたしの順に手渡してくれる。


「Blood of Ch(キリストの血)ristか。相変わらず、あらゆるものを取り込む国の民だな」

 ルカが、皮肉なのか感心なのか分からない口調で、創さんに言う。


 星が耳打ちしてくれる。

「キリスト教では、赤ワインはキリストの血だと言われているんだ」


物語(ナラティブ)象徴(シンボル)は、人類の団結には不可欠だよ。それが虚構(フィクション)であろうとなかろうと、人を幸せにできるなら問題はないはずだ」


 創さんが、微笑みながらも、諭すように言う。

[それよりも、僕と君が出会った年に生まれた3人の子どもたちが、こうして立派に育ってくれたことを祝おう」


 創さんはもう一つグラスを手に取り、そこに自らワインを注ぐと、それをヒナに手渡した。

 ヒナは軽く会釈をしてそれを受け取る。


「え、ヒューマノイドって、お酒飲んでも大丈夫なの?」

 わたしは思わず突っ込む。


「ええ、賓客(ゲスト)によっては、お酒の相手もご所望される方もいらっしゃいますから。もちろん、体内に吸収はされませんが」


 聞けば、水分を口から摂取すると、瞬間的に蒸発する仕組みのようだ。


 せっかくのワインの味を楽しめないなんて、ちょっともったいない気がするけど、日本の大学生の”一気飲み”だって、味わっているかと言えばそうじゃない。


 ある種の、連帯を高めるための儀式のようなものなのだろう。


 創さんがグラスを傾ける。

「To the Ne(新世界に)w Worl(乾杯)d」


 ちりんっという音を立てて、6つのグラスが交錯する。

 計ったかのように、短針と長針が重なって、2029回目のキリストの誕生日が終わりを告げた。


挿絵(By みてみん)

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