第174話:敵と味方
「"人種間の違い"、というのが、今ほど気にならなくなるかもしれないね。今は、まず初めに『何人か』を気にしがちだけど、その前に『人間かどうか?』と考えるようになるだろうから」
――た、確かにそうかもしれない。
わたしはあらためてヒナを見る。
五感を総動員すれば、確かに”匂い”や”気配”みたいなものが人間と違うと分かる。
でも、普段、東京で暮らしていたら、わざわざ他人の匂いや気配になんて気にもとめない。
ましてや、直接会わずに、オンラインだけでやりとりしたら、まず間違いなく人間だと思ってしまうんだろう。
星が少し寂し気に言う。
「人は”何かに属する”ことで生き残ってきた種族だからね。属するというのは、”自分たちとその他”に分けることに他ならない。そして、その分類が『敵と味方』になったとき、不幸が訪れるんだ」
――そもそも一体、どうして、敵味方に分けなきゃいけないんだろう。
「共通の敵を作ることで、味方の団結が強まるという側面もあるからね」
確かに、”宇宙人が攻めてきたら、それまで争っていたはずの地球人たちが急に団結して撃退する” っていうストーリーは、SFの世界ではもはや定番だ。
「でもそうなると、今度は『全人類 対 AI 』っていう戦いになっちゃうのかな……」
わたしがぼそっと呟くと、創さんがわたしとヒナの二人の肩に手を置く。
「歴史を学ぶことで、人は成長できると僕は信じているよ」
そう言ってにっこり笑う。
「次の目的地は、まさにそれを考えるのにぴったりの場所なんだ」
そういえば、さっき創さんは、この後、『ある島を経由して、南米大陸に飛ぶつもり』だと言っていた。
――ある島って、一体……。
星がスマホの映像を見せてくれる。
「彼らが待つ場所だよ」
「彼ら?」
そこに映っていたのは、見覚えのある石造りの”巨人たちの顔”だった。
――これって、モアイ像?
たしか、これがあるのって……。
創さんが頷く。
「ああ、このポリネシアと、南米大陸の中継点、イースター島が次の目的地だ。かつてこの島で起こった悲劇が、僕たちの未来に大きな示唆を与えてくれるだろう」




