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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第14章:ポリネシア・始源の島にて【2029年12月25日】
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第169話:昏い世界の仄かな光

挿絵(By みてみん)


「ああ。教団(奴ら)は、目的のためには手段を選ばない。12歳の時、俺を誘拐し、”神の子”に仕立て上げようとしたように」


「へ!?」


 ――カイが、誘拐された?

 突然の告白に、思わず変な声が出る。


「しかも12歳って、わたし達が日本で初めて出逢った歳だよね?」


「黙ってて申し訳なかったんだけど……」と創さんが神妙に言う。

「8年前のあの夏、カイ君をうちの泊めていたのは、教団の追っ手から逃れるためだったんだ」


 ――そうなの?

 あの時は、『父親の会社が忙しいから』とかいう説明を真に受けていた……。


 わたしは、暗い目をしたあの頃のカイのことを思い出す。

 確かにはじめ、やたらと警戒されているとは思ってはいた。でも、まさかそんな理由があったなんて……。


 カイが、重い口を開く。

「教団は、古代ギリシャの時代から、2500年もの間、歴史の影で活動し続けていた。彼らは自らが信徒だと公表をしていないし、キリスト教を隠れ蓑にしている人たちさえいる。だからこそ、そのネットワークの全貌は、誰にも把握できないんだ」


 ――確かに、教会に信者っぽい人がいたら、普通キリスト教徒だと思うだろう。


「ただ、彼らの影響力も、日本にまでは及んでいない。日本はクリスマスも元旦も祝い、お寺で先祖を祀ると言う、不思議なバランスを取っている、世にも珍しい国だからね」


 ――それに……、と創さんが続ける。

「それに日本でなら、九条家の庇護も受けられる」


「え、九条って……十萌さんの?」

「ああ、彼女の家系は平安時代から続く、神道系の名家なんだ。当然、宗教界にも顔がきく」


 ――そ、そうなんだ……。

 何だか由緒正しそうな苗字だとは思っていたけど、理系女子(リケジョ)然とした彼女の様子からは、ちょっと想像がしにくい。


 カイが言う。

「8年前、俺は、彼らによって地下の教会らしき場所に拉致され、そこで、神秘主義的な儀式に参加させられていた。数人の子どもとともに、謎の薬物を強制的に投与され、頭が朦朧とする中で、延々と教義を聞かされたり、身体や脳の検査を受けさせられたりしていたんだ」


 ――ひ、ひどすぎる。

「でも、何でカイのことを……」


「奴らは、世の中で”天才”と呼ばれる子どもや良家の子女たちを、巧みにあるいは強制的に集め、その多感な時期に、()()()()()()()()をさせる。それによって、彼らが大人になった後も、影響下に置こうとする」


 ここまで来ると、洗脳以外の何物でもない。

 わたしは、怒りで身体が震えてきた。


「そうして集められた子どもたちの中で、その時代で最も優秀な一人を、”神の子”の候補として育て上げる――。そうして見染められたのが、俺だったようだ」


 ――そんな非道なことが、この現代社会で許されるなんて……。


「もし、ファント()ムが、ヨーロッパ中の監視映像システムをハッキングし、俺の居場所を掴んでくれなかったら、完全に洗脳されたかもしれない」


 カイの瞳が怒りの炎で揺らぐ。


「誘拐されて2週間後、特別精鋭部隊(スペシャルフォース)によって教団より奪還された俺は、安全な日本に連れてこられ、落ち着くまでの間、九条家に保護されていたんだ」


「その時に、十萌さんに会ったの?」


「ああ。遠巻きに同情ばかり投げかけてくる周りの大人に対し、十萌さんだけは、俺を一人の人間として扱ってくれたんだ。ま、もっとも、話題はたいてい人工頭脳やアバター研究のことばっかりだったけどな」


 カイの瞳の怒りの炎が、少しだけ穏やかになった気がした。

 唯我独尊のカイが、なぜか十萌さんだけには心を開いていたのは、そういうことだったのか……。


「そして、あの夏、星とリンに出会ってわけさ」


「あと、大量の日本のアニメにもね」

 星が微笑みながら突っ込む。


「ああ。昏い世界に染められかけ、死さえも考えた俺に、星とリン、そしてアニメはたくさんの”新たな世界”を見せてくれた。この世界は、まだ救う価値があるんだと思わせてくれたんだ」


挿絵(By みてみん)

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