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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第14章:ポリネシア・始源の島にて【2029年12月25日】
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第163話:継承者

挿絵(By みてみん)


「”全なる亡霊”という器は、継承され続けなければならない。次の世代にも、その次の世代にも」

 ルカの言葉に、思わずわたしはカイを見る。


 鎌倉・報極寺でのみんなとの最後の一夜のことが、脳裏を過る。


「カイは、誰かと一緒に一生を過ごしたいって、思ったことはないの?」

 そう訊ねたわたしに、カイはその瞳に諦念を湛えてこう言った。


 『そう願ったことがないと言えば、嘘になる。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()


「もしかして、あの時言ってた誓約って……」


 カイが静かに答える。

「ああ、次なる”全なる亡霊”として生きる――。その誓いだよ」


 無数の”先人たち意識”を受け入れ、輪廻の環を回し続けることに生涯を捧げる――。

 何より、今ある記憶さえも、失われてしまう恐れさえある。


 人類を救うためとはいえ、あまりに過酷すぎる。

 いくら天才であっても、どんなに大人ぶっていても、カイは、わたしと星と同じ二十歳(はたち)に過ぎないのだから。


「カイは、それでいいの?」

 わたしは、その双眸をまっすぐ見据え、カイに訊く。


 沈黙が流れる。


 ―――できるものなら、誓約なんか投げ捨てて、わたし達と一緒に生きてほしい……。

 そう、痛いくらいに願いながら、わたしは彼の答えを待った。


 けれど、彼はただ首を横に振った。


「スカルを倒すために、誓約を受け入れたあの時、ファント(父さん)ムの意識が流れ込んできたんだ。その時ようやく悟った。人類を、そして俺自身を守るために、今まで父さんが、どれほど多くの相手と戦ってきたのかを」


 まるで自分自身に言い聞かせるかのように、カイは言う。

「これから先は、更なる大きな敵との戦いになるだろう。その戦いから、自分だけ逃れるわけにはいかない。その過程において、俺という意識が消えてなくなろうとも」


 その覚悟は波動となり、わたしにも伝わってくる。


 でも、ここで引き下がるわけにはいかない。

 わたしは、何度も繰り返し、すっかり覚えてしまった一節(フレーズ)を口にする。


 "Taṁ cakkaṁ pavatteti, kiṁ sabbaṁ saṅgahita-bhūto vā eka-bhūtā devī vā?"

 その環を回すのは、あらゆるものを全なる亡霊か、一の女神か。


 わたしはルカに訊ねる。

「この”一の女神”って、どんな存在なのでしょうか?」


 ――もしこの女神とやらが本当に存在し、彼女が輪廻の環を回せるのであれば、カイもまた、”ダイスを振る者”としての責務から解放されるのではないだろうか?


「その定義と真意は、予言した者(ヴィクラム)のみが知ることだ」


――だが、とルカは続ける。


「それに近い概念の者は存在する」


 そう言ってルカが指を動すと、ホログラムが、中空に展開される。

そのホログラムには、見覚えのある顔が投影されていた。


「世界で唯一の、”意識と記憶”を有するヒューマノイドであり、”一の女神”に最も近い者……。それが

がヒナだ」


挿絵(By みてみん)

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