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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第14章:ポリネシア・始源の島にて【2029年12月25日】
162/267

第162話:集合的知性

挿絵(By みてみん)


「人類最大の発明。それが、”愛”だよ」


 ……あ、愛って。

 創さんの、ド直球のセリフにわたしは思わず赤面する。


「創、何度言えば分かる。愛などといった定義が確定していないものを、輪廻のアルゴリズムに使うことなどできない」

 ルカの声に、心なしか呆れた感情が混じった気がする。


 わたしは、創さんに訊ねる。

「それってつまり、双子の地球では、”数値化された愛”が大きい人が、優先的に転生できるってことですか?」


 それって、ゲームでいう”チート”みたいなことが起こらないんだろうか?


「”一人よがりの愛”では意味がない。だからその愛が、『他者に幸福をもたらしたか』を基準(アルゴリズム)にしたいんだ」


「でも、”幸福感”もまた、測りづらいような……」

「ああ。でも、それはきっと、カイ君や十萌さんの脳波研究が示してくれると、僕は信じているんだ」


 創さんはカイの肩に手を乗せた。


 カイが少し戸惑った表情を浮かべ、わたしの方を見る。

 それはまるで、小学6年生の頃、彼がわたし達に初めて会ったときの表情を思わせた。


 ――人にどれほどの幸福をもたらせたか……か。


 連鎖的に、激動の半年間で出会ったみんなのことを思い出す。三式島で、アフリカで、サウジアラビアで、そしてインドで会った人たちのことを。わたしは、彼らに少しでも幸せを持たせたのだろうか。


 その想いがターニャにまで至ったとき、ふっと我に返った。


 ――あ。

 わたしとターニャとわたしが追い続けていたものを思い出したからだ。

 

 ここに、予言の歌の真実を探しにきたんだった。

 ポケットを漁り、レコーダーを取り出す。


 スイッチを押すと、世界樹(ユグドラシル)の頂上の部屋に、その荘厳な歌声が反響する。


 ーーーーーーーーーー


 "Yadā sammāparinibbāna-loko pabhavati, tadā sattā attano bhājanaṁ na labhanti."

 末法の世が始まるとき、魂たちはその器を失う。


 "Te ca vipariṇataṁ quantum-samuddāya sattā bhavissanti."

 そして彼らは、変質する量子の海を漂い続けるだろう。


 "Yadā manussa attano simāṁ gavesanti, navako saṁsāracakkaṁ pavattati."

 人が自らの境界を求めるとき、新たなる輪廻の環が回りだす。


 "Taṁ cakkaṁ pavatteti, kiṁ sabbaṁ saṅgahita-bhūto vā eka-bhūtā devī vā?"

 その環を回すのは、あらゆるものを全なる亡霊か、一の女神か。


 "Anāgate, manussaṁ vāretabbaṁ hoti."

 やがて人は選ばなければならない。


 "Nibbānato jātāya tiṭṭhissati, udāhu imasmiṁ mahāpathaviyā puna jīvissati?"

 生み出された涅槃に留まるのか、この大地で再び生きるのか?


 ーーーーーーーーーー


「この”全なる亡霊”というのは、ルカさん(貴方)のことですか?」


 ルカはよどみなく答える。

「今はそうだ。だが、()()()()()()()()()()()()()()


「ど、どういうことでしょうか?」


「全なる亡(それ)霊は、器なのだよ」

「器?」


「人類が積み上げてきた“集合的知性”を、統合する器――。それをヴィクラムは“全なる亡霊”と呼んだのだろう。今、私の脳には、それに“近しきもの”がインストールされている。だが、私という存在もまた、やがて消滅していく定めにある」


 そう言って、ルカは、わたしでない誰かに、視線を投げた。

「だからこそ、”全なる亡霊”という器は、継承され続けなければならない。次の世代にも、その次の世代にも」


 その視線の先を、追うまでもなかった。

 わたしの背後に立つ、カイがまとう気配が、ゆらりと揺れた気がした。


挿絵(By みてみん)

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