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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第14章:ポリネシア・始源の島にて【2029年12月25日】
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第161話:神様のダイス

挿絵(By みてみん)


「もしこのまま新世界に突入すれば、人工頭脳も、リアルアバターも、一部の資本家が独占し、貧しきものは見捨てられるだろう」


 ルカの言葉が重くのしかかる。


 ――考えてみればその通りだ。

 お金を持っている人は、まるで服を着替えるかのように、アバターを複数台持つだろう。

 更に、アバターを何千、何万と買い占め、それを高値で売り払う輩も現れるかもしれない。


 そうなると、まさにこの資本主義社会で起きている通り、貧しきものが切り捨てられかねない。


「一体、どうすれば……」

 わたしは思わず呟く。


「もちろん、僕とルカが20年間にわたって、議論を戦わせ続けているところなんだ。資本の原理によらない形で、人工頭脳やアバターを適正に分配するには、どうしたらいいのかってことをね」


 創さんが続ける。

「まず候補に挙がったのが、”宗教の教義”に則るというパターンだ。実際、多くの現行宗教では、①『善行』をしたら、来世に、素晴らしい生に生まれ変われる。あるいは、②死後、素晴らしい死後の世界に行けるということ約束しているからね。ただ、ここで問題となるのは、”善行の定義をどう定めるのかってことなんだ」


 隣で、星が深く頷く。

「そうか、宗教ごとに教義に違うから……」


「ああ。例えば、キリスト教では、『イエスの教えを反映する愛と奉仕の行為』だし、イスラム教では『ハサナート」という、アラーを喜ばせる行動』、仏教では、『八正道に従い、慈悲と知恵を促進する行動』とされている。つまり、善行の定義は、それぞれの宗教によって異なっている」


 創さんはわたしの目を見て訊ねた。

「そんな中で、仮に『特定の宗教の定義における善行を積んだものだけが、人工頭脳やリアルアバターを手に入れられる』となったら、どうなると思う?」


 ――そうか。

 ようやく理解できた。その先にあるのは、恐らく宗教戦争だ。

 双子の地球(デジタルツイン)という”新世界”でも、過去の人類社会と同じ悲劇が起こると考えると、背筋が冷たくなる。


「神はダイスを振らない。だからこそ、誰かがその役目を担わなければならない」

 ルカの声が響いた。


 ……サイコロ(ダイス)を、振る?


 創さんが言う。

「ルカはこう言っているんだ。資本の原理も、宗教の教義も一切関係なく、完全にランダムに、人工頭脳やリアルアバターを分配すべきだと。まるで、サイコロを振るかのようにね」


 つまり、全ては完全に運だということか。

 

 正直、ちょっと、ドライすぎる気もする。

 だけど、そもそも無宗教の人もいることを考えれば、一番公平といえば公平なのかもしれない。


「けど、僕の意見はちょっと違う。どんな宗教、そして民族にもたった一つだけ、共通の価値観があるんだ」


「え、そんなもの、ありえるんですか?」


 創さんはいつもの笑顔で言い切った。

「人類最大の発明。それが、”愛”だよ」


挿絵(By みてみん)

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