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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第14章:ポリネシア・始源の島にて【2029年12月25日】
159/267

第159話:意識の奔流

挿絵(By みてみん)


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、君の口から話してほしい。新輪廻計画のことを」


 創さんの言葉に、ようやくわたしは我に返る。


 新輪廻計画……。

 そうだ、わたしは、その予言の謎を解きに来たんだった。


 わたしは、再びルカを見る。

 その瞳が、更に深くなった気がした。


 いつものわたしなら、ここで踏みとどまっていただろう。


 けれど、今のわたしには迷いはなかった。

 あるいはこれもまた、ヴィクラムの針のせいなのだろうか。


 なにか、使命感のようなものに突き動かされるように、わたしはこう尋ねた。


「ヴィクラムは、死の間際に、わたしにこう言いました。『亡霊に、ルカ・ローゼン(あなた)バーグに気をつけろと』。あなたは、一体、世界に何をしようとしているのですか?」


 そう言って、わたしは、ヴィクラムの遺した手記を、ルカに手渡す。


 彼は、手記をぱらぱらとめくると、最後のページに目を止めた。


 そのページには、電脳の海に消えゆく”ヴィクラムの意識”を、亡霊(ルカ)の脳に移植するところで途切れていたはずだ。


 ルカの表情が、ほんの一瞬だけれど、懐古のような色を帯びた気がした。


 それを机の上に置くと、やがて口を開いた。

「話すとしよう。ヴィクラムの手術の顛末と、新輪廻計画のことを」


 *********


「”ヴィクラムの意識”が、私の脳に移植された瞬間……。全身麻酔下で無意識にあったはずの私の脳は、確かにそれを認知していた。そう、それはまさに天啓とでもいうべき瞬間だった。人知を超えた存在に、直接働きかけられてきたような、そんな恍惚感さえ覚えたのだ」


 ……わたしもかつて一度だけ全身麻酔をしたことが一度だけあった。

 けど、その時の記憶は全くない。


「だが、そんな恍惚感は一瞬のものだった。その後訪れたのは、全てを飲み込むような意識の津波だった。まるで荒れ狂う大嵐の大海で、一本の細い枝につかまっているかのような、そんな感覚を覚えた」


「私は、かつて私自身のものだったはずの意識が巨大化し、私を飲み込もうとしていたように感じた。私はその枝に縋り続けていた。もし、その手を離したら、私は永遠に無意識の暗闇に閉じ込められる―――そんな予感がしたからだ。実際に、術後の三日三晩、麻酔はとうに切れているにもかかわらず、私は目覚めなかったらしい」


 わたしは、ジャイールに初めて会ったときのことを思い出す。

 彼の脳波がわたしの心に入り込んでいてく、あのぞわっとする感触。


 あの時は、ジャイールが手加減をしてくれていたからまだよかった。


 けれど、もし何百人もの容赦ない他人の意識の嵐に、三日三晩も晒されたとすると、とてもじゃないけど、正気を保てるとは思えない。


「そんな中、どうやって、意識を保ったのですか?」

 わたしはルカに訊く。


()()()()()()()()()()()に、逆に救われたんだ」


 ――救済という呪い?

 それは一体、どういうことだろう。


「様々な宗教家の意識が流れ込んでくる中で、やがて私は、根底に流れる”想念”を感じ取っていた。つまり、『人類を救うべき』という、ほとんど脅迫観念に近い信念だ。信じる形は違えど、その点は一致していたからこそ、かろじて自分の意識を保つことができた」


「その意識は、今もあなたまだ、あなたの中に残っているのですか?」

 そう、わたしは尋ねる。


 ――仮説にすぎないが……とルカは言う。

「恐らく、主たる私の意識の中に、溶け込む形で存在しているはずだ。逆に言えば、一つの器の中では、複数の意識は、時間とともに統合の方向に向かっていく。電脳ネットの中で、私の意識が、ヴィクラムの意識を吸収したように」


 星がルカに問うた。

「つまり、人の意識を電脳ネットにアップロードしても、個別の器がない限り、やがて一つの意識に統合されてしまうということでしょうか?」


「ああ。人類一人ひとりの意識を、”個別の新たな頭脳”へとダウンロードする――。それこそが、新輪廻計画と呼ばれるものだ」


挿絵(By みてみん)

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