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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第13章:インド・新たなる輪廻の環【2029年12月8日】
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第153話:破られたページ

挿絵(By みてみん)


「正直、この手術の結果が何をもたらすのかは、想像さえもつかなかった。私自身の意識に加え、古今東西の天才、そして、宗教の教義を取り込み成長した”新たな意識”を、再び、あの男の脳に移植しようというのだ」


 ―――あらゆる知識を飲み込んだ意識を、その男に戻すということか。

 もしかして、彼そのものが、予言の歌に書かれた、”全なる亡霊”なのかもしれない。


「葛藤がなかったといえば、嘘になる。だが、半年間生き延びた”意識”を、何もせずに消失させるのはどうして出来なかった。皮肉なことだ。わたしは今まで脳外科医として、”何としても我が子を救いたい”という親の気持ちをどこか冷めた気持ちで見ていた。それが、今になってその気持ちを理解できようとは……」


 そこまで読むと、ターニャは手記を持ち上げて見せた。


 そこから先のページは、全て引きちぎられていた。


 梨沙さんが、私たちの心の声を代表して呟く。

「結局、その実験の結果はどうなったんだ?」


 ターニャは首を振る。

 せめて、インクが滲んでいるのであれば、筆圧を調べるなりして解読できるかもしれない。

 だが、ページそのものが失われているなら、再現しようもない。


「……あ」

 ふと、ターニャが思い出したように言う。

「でももしかして、破られたページの一つは、リンさんの手元にあるのかもしれません……」


 ――え、わたしの?


「ヴィクラムさんが描いた涅槃図に隠されていた、あの紙片です。何となく、紙質が似ていたような……」


 わたしは、慌てて、バックパックを漁り、あの紙片を取り出す。

 ヴィクラムの手記の、失われたページの破られた面と照らし合わせると、果たして、その切断面が最後のページと合致する。


 つまり、ヴィクラムは、手記の最後のページ破り、涅槃図の後ろに隠したのだろう。

 わたしたちは、改めてその文言を見る。


『想像もしなかった。私の実験が、まさかあんな亡霊を生み出してしまうとは……。彼は、やがて、全なる存在として、新たな輪廻を回す引き金となるだろう』


 サティヤさんが、ヴィクラムの予言の歌の3行目と4行目を暗唱する。


『人が自らの境界を求めるとき、新たなる輪廻の環が回りだす。』

『その環を回すのは、全なる亡霊か、一なる女神か。』


「この実験を受けた男が、予言の歌の中の”亡霊”であることに、間違いはなさそうです。ただ、文面を見る限り、この実験の時では、”全なる亡霊”にはまだなっていないようです」


「でも、ヴィクラムは2015年に撮られた映像の中で、こう言ってたんだよな?」

 確かめるように、梨沙さんが言う。


「『15年後、末法の世が始まる。更なる15年の後、新たなる輪廻の環が動きだすだろう』……と。なら、2030年には”末法の世”とやらが始まり、2045年には、”輪廻の環”とか言うのが始まるってことだよな……」


 梨沙さんはノートを手に取り、ぱらぱらと数ページ前を開き直す。

「やっぱ、この、消されている部分を、解読しなきゃな」


――『男は、わたしの耳元でそっと囁いた。その正体、XXXXXXXXXXの名を』という部分だ。


「筆圧の凹みで、消された文字を解析できるかもしれない。機関に調べさせようか?」


そう問いかける梨沙さんに、わたしは首を振った。

「死の間際に、ヴィクラムから伝えられたんです。亡霊と呼ばれた、その男の正体を」


挿絵(By みてみん)

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