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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第13章:インド・新たなる輪廻の環【2029年12月8日】
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第150話:遺されしもの

挿絵(By みてみん)

 

 2029年12月22日 インド・ゴーラクプル


 結局、わたしが検査から解放されたころには、とうに日が暮れていた。

 脳だけでなく、身体の、ありとあらゆる部分を調べ尽くされた気がする。


「ま、脳ってのは、身体の全てに繋がっているからな。きちんと調べるに越したことはないさ」


 梨沙さんはそう言って、個室のベッドに寝かせられたわたしに、リンゴを切ってくれようとする。

 アーミーナイフみたいなもので、ダイナミックに4分割すると、皮つきのまま机の上に置いた。


 ターニャがそれを手に取ると、綺麗に皮をむき、わたしに手渡してくれる。


 リンゴを齧って、お茶で流し込む。

 針を刺された直後の、あの”脳が熱くなる感覚”は、既に消え去っていた。


 わたしはほっと一息つくと、ずっと気になっていた質問に切り込んだ。

「ヴィクラムは、どうなりましたか?」


 一瞬、梨沙さん、ターニャ、サティヤさんがお互いを見つめ合った。

 気まずそうな雰囲気の中、梨沙さんが口を開く。


「搬送されてすぐ亡くなったよ。元医者だけあって、きちんと致死量になるように、キノコ毒を自ら調合したらしい」


「そう……ですか」

 正直、覚悟はしていた。

 わたしに倒れかかってきた彼の身体は、この世のものとは思えないほど、軽かったから。


「医者も頑張ってくれたんだがな。身体が極度に衰弱していたから、どうにもならなかったらしい」

 ――ただ……、と梨沙さんが続ける。


「担当医が言うには、意識が薄れゆく中で、意外にも晴れやかな表情を見せていたらしい。まるで、人生の最後の最後で、真理にでもたどり着いたかのように、な」


 ――真理。

「せめてもう少し話す時間があれば、予言の歌の謎も解けたのかもしれないのですが……」

 サティヤさんが無念そうに言う。


「確かに、訳わかんないよな、あの歌は」

 どうやら、梨沙さんは、黒革のブックカバーに仕込まれた通信機で、わたしたちのほとんどの会話を聞いていたらしい。


 どう考えても盗聴だけど、今回はそれに助けられたので、何だか責めづらい。


「あ、あの……」

 ターニャが、言いにくそうに切り出す。

「仏塔の中で、リンさんがバッグの中身をぶちまけた時のことなんですけど……」


「ああ、ありがとね。荷物、拾っておいてくれたみたいで」

 わたしはぺこりと頭を下げる。


 あの時は、完全に頭がヒートアップしていて、後のことなんて全く考えられなかった。


「あの時、わたしも一緒にパニックになってしまって、地面に散らばっていたものを、とりあえずバッグに入れて持ち帰ったんです。そしたら、こんなものが…」


 そう言って彼女が取り出したのは、ボロボロになったノートだった。


「え、これって、もしかして……」


 そのノートには見覚えがあった。

 確か、座禅するヴィクラムの傍らに、銀の針とお茶碗と一緒に置かれてたものだ。


「はじめは、リンさんのだと思ったんです。中、暗かったし……。でも病院で開いてみたら、全部ベンガル語だったので、ヴィクラムさんの私物だと分かったんです」


 一目で、長きにわたって使っているものだと分かる。


 パラパラと開くと、破れていたり、くっついているページがあって、めくるのにも神経を使うありさまだった。かろうじて読めるページにも、土や草の汁、挙句の果てには血痕らしきものまで染みついていて、判読が難しい状態だ。


「これって、そもそも何のノートなの?」

 そもそもベンガル語が読めないわたしにとっては、何についての記録なのかさえ分からない。


「手記のようなものだと思います。ページの上に、日付が記されているので」

 ターニャはノートを手に取ると、あるページを開いてくれる。


「২০১৩ সালের ১০ অক্টোবর」


 ――1行目に書かれているこの文字が、日付なんだろうか。数字さえ使ってないので、一文字たりとも読めない。


 ターニャが言う。

「この2013年10月10日と記載されているページに、ヴィクラムさんが、初めて”亡霊”と出会った日のことが書かれているのです」


挿絵(By みてみん)

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