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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第13章:インド・新たなる輪廻の環【2029年12月8日】
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第144話:ひれ伏す象

挿絵(By みてみん)


「この場所で、ブッダが火葬されたんです」

 わたしは、無数のレンガが組み上げられた、まるで古墳のような、仏塔を見上げる。


「仏塔って、なんとなく尖った縦長の建物かと思っていました」

「これは、まさにブッダが亡くなった後に建てられた、初期の仏塔ですからね。当時は、レンガや土を盛り上げて作った”塚”のようなものが多かったのです」


「ここに、ブッダの遺骨が残されているのですか?」

「仏塔の中には入れないので、正直わたしもこの目で見たことはないのですが……。ブッダがこの地で火葬された後、その遺骨が八つの王族・部族に分骨されたと言われています。その後、インド全土に仏教を広めたアショーカ王が、更に細かく分骨し、8万4千もの仏塔を立てたそうです」


 ――8万4千って……。

 わたしは絶句する。そんなに細かく分骨できるものなのだろうか。


「その後、遺骨は世界に広がっていきます。日本には、鑑真という方が遺骨を持って帰っていわれ、日本にも仏舎利が建てられたと言われています」


 ――鑑真なら、歴史の教科書を見たことがある。確か、唐から日本に来ようとして、5回船が難破して、失明しながらも6回目にようやくたどり着いた高僧だった気がする。


「先人のそんな苦労があったからこそ、仏教は世界に広がっていったんですね……」

「ええ、キリスト教も、イスラム教も、世界宗教と呼ばれる宗教は、いずれも当時の信徒が、血のにじむ努力で広げていった結果なんです。飛行機も、ましてやネットもない時代ですから、まさに命がけでした」


 そう聞いた後で、再び仏塔を見ると、レンガの塊に見えていた建物が、急に荘厳さを帯びてきたように思えてきた。


「でも、なんとなく、宗教の開祖は復活するもんだと思っていました。食中毒で亡くなったことといい、ブッダって、結構人間的なんですね」


「確かに、キリストは、ゴルゴダの丘で磔にされたのち、復活したと言われています。ただ、それは彼が『神が人間の姿をとってこの世に現れた存在』とされていたからです。ただ、ブッダはあくまでも、悟りを開いた”一人の人間”ですから」


 ――確かに、アインシュタインが、『仏教は科学と共存できる』的なことを言ったというのも頷ける。


「もちろん、まだまだ解明できていない逸話も残されています。暴れるゾウが、ブッダがその眼差しを向けただけで、大人しくなってひれ伏した――なんて話もありますから」


 ――え、それって……。

 わたしは、サウジの“鷹の祭典”での、テロリストによる襲撃を思い出す。


 切りかかろうとしてきた刺客を、ジャイールが両眼で射竦(いすく)め、跪かせた時のことにそっくりだった。(ジャイール)は、あのとき、強烈な脳波操作を行っていたはずだ。


 ……ということは、ブッダもまた、脳波操作に長けていたという解釈はできないだろうか?


 その話をサティヤさんに話すと、ものすごい勢いで喰いついてきた。


「ほ、本当に? それって、リンさんもできるんですか?」

「わたしは、まだ、なんとかアバターを脳波で動かせるくらいですけど……。ジャイールは、ヴィクラムさんに会ったことで、他の生物にも脳波を送れるようになったといっていました」


「そ、そんなことが……。でももし、そうなら……」

 そう呟きながら、彼は再び、あたりをうろちょろと歩き始めた。


 また、理系男子(リケダン)モードに入ったようだ。


 わたしは、ターニャと目を合わせて、苦笑する。

「ちょっと、ここで休もうか」


 わたしは、草の上に座って座禅をはじめる。

 インドに来てから、毎日が必死で、脳波操作の練習ができていなかった。


 眼を閉じて、フロー、そしてゾーンに入ると、意識の範囲が一気に広がっていく。

 今まで聞こえなかった鳥の鳴き声が、風のささやきが聞こえてくる。


 やがて、風に乗って、ターニャの歌声がわたしを優しく包む。


 ーーーーーーーーーーーー

 末法の世が始まるとき、魂たちはその器を失う。

 そして彼らは、変質する量子の海を漂い続けるだろう。


 人が自らの境界を求めるとき、新たなる輪廻の環が回りだす。

 その環を回すのは、全なる亡霊か、一なる女神か。


 やがて人は選ばなければならない。

 生み出された涅槃に留まるのか、この大地で再び生きるのか?


 一なる女神は、次なる世界で運命を共にする者たちと再び出逢う。

 やがて、一が全に、全が一になったとき、第三の道が拓かれよう。

 ーーーーーーーーーーーーー


 歌詞は全く一緒のはずなのに、ターニャが歌うと全く違う響きになる。

 ジャイールの歌が人を圧倒する竜巻だとすると、ターニャを歌は、頬を優しく撫でるそよ風のようだ。


 ――あれ?


 そのとき、一瞬の違和感を覚えた。

 どこかから誰かに見つめられているような、あの感触だ。しかも、異なる二方向から。


 まさか、このインドまで来てなお、他国の誰かに見張られているのだろうか?


「ターニャ、何か感じる?」

 そう訊ねると、彼女は不思議そうにわたしを見つめ返す。


 ――気のせいならいいのだけど……。

 更に神経を研ぎ澄ませ、その視線の先を探そうとしたその時。


 サティヤさんが、息を切らしながら戻ってきた。

「たった今、アローカ(祖父)から連絡がありました。ヴィクラムの”()()()()()()”が掴めたそうです」


挿絵(By みてみん)

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