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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第12章:中東・アラビアンナイトの世界へ【2029年11月27日】
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第120話:赤い瞳

挿絵(By みてみん)

 

 わたしは、写真の中の、ヴィクラムの燃えるような瞳を見つめながら言う。


「瞳が赤い人って、本当にいるんだ……」

 わたしは、あの名作、『コードギアス・反逆のルルーシュ』の主人公の赤い瞳を思い出しながら、思わずつぶやく。


 医者である堀田さんが解説してくれる。

「数万人から数十万人に一人、とは言われているけど、確かに実在するよ。ましてやインドの人口は14億以上で、今や世界で最も多い国だ。いても決して不思議じゃない」


 そういって、堀田さんはジャイールの方を向く。

「ヴィクラムさんと外で会ったのは、夜じゃありませんでしたか?」


 ジャイールは頷く。

「ああ、彼は極端に外出を嫌っていた。『日の光が怖い』と言っていたよ」


 ――日の光が?


「赤い瞳が生まれる要因は、先天的なメラニン色素の欠乏と呼ばれているんだ。アルビノと呼ばれる彼らは、生まれつき肌や髪の毛が白かったり、瞳が赤くなるという症状がでる。そして、彼らは日光に弱いため、日中の外出を避ける傾向がある」


「そうなると、出逢えるとしても、夜ということですよね」


 見知らぬ外国の土地で、夜に出歩くのは、怖くない言えば嘘になる。

 ……けど、そんなこと言ってられない。


 これから対峙しなければいけない世界的危機は、こんなことは比較にならないほど過酷なはずだから。


 **********


「ま、餞別(せんべつ)だ」

 リヤドの空港を出る際に、梨沙さんは古い黒革のカバーに包まれた、一冊の本らしきものを手渡してくれた。


「これって、何の本ですか?」

「うちらの親父の世代の、バイブルみたいな旅行記さ。この3巻はインド篇なんだ。もしインドで途方に暮れることがあったら、読むといい」


 ――途方に暮れたときに読む本って、一体、どんな本なんだろう……。

 興味を持ったけど、できれば、そんな状況にならないに越したことはない。


 わたしはお礼を言うと、搭乗口へと向かう。


 アディーラさんが背後で何度も何度も手を振ってくれている。

 初めて出来た中東の友だちに、名残惜しさを覚えつつも、わたしは前を向き、飛行機に乗り込んだ。


 機内の座席に座り、スマホの時計を見ると、既に夜の8時を回っていた。

 あと30分もすればこのキングハリード国際空港を離陸し、早朝には、インドのコルカタにつくはずだ。

 そこから、鉄道でブッダガヤまで行くのが、最も安いルートのはずだ。


 ――お金、足りるかな……。

 自分で決めたことながら、不安になる。


 リヤドからコルカタまでの飛行機代は3万円くらいだったから、バイトで貯めた軍資金は残り17万円になる。ただ、インドから日本まで戻る飛行機代を考えると、実質的に使える金額は、最大12~3万円くらいに留めておくべきだろう。


「ファリード王子の話、やっぱり受けておけばよかったかも……」

わたしはほんの少しだけ後悔する。


 彼はもともと、リヤドからコルカタまで、プライベートジェットを飛ばしてくれるとまで言ってくれていたのだ。


 ただ、世の中に、プライベートジェットで”自分探し”を行うバックパッカーなど世の中には皆無だろうし、そもそも”自立したい”という目的から大きく外れてしまう。


 ただ、いざ見知らぬ時に旅立つとなると、不安が先立ってしまう。

 わたしはそんな気持ちを紛らわすように、手提げから堀田さんがくれたガイドブックを取り出す。


「これ、昔バックパッカーをしていたときに読んでたんだけど、もし良かったら……」

 そう言って、数日前に堀田さんが手渡してくれた、かなり年季の入ったガイドブックだ。


 発行年を見ると、2019年と書いていある。

 つまり、今から10年前に出版されたということだ。


「大分古いし、いっぱいメモが書きこんであるから、役立つかは分からないけど……。ないよりはマシだと思う」

 堀田さんは少し照れくさそうに言う。


 このガイドブックのいいところは、宿がランク別に乗っているところだ。

 ドミトリーといわれるバックパッカー御用達の安宿を紹介してくれているため、金欠の学生には有難い。


 ドミトリーなら、一泊1000円~2000円くらいで泊まれるらしい。

 一方で、個室の場合は3000円ほどする。


 なんせ、相手(ヴィクラム)の居所さえ定かでない旅だ。

 宿代は安ければ安い方がいい。


 わたしはさんざん迷った挙句、土地勘が分からない一泊目だけは個室に、その後はドミトリーに泊まることにした。


 けど、10年も経つと宿自体がなくなっている可能性もあるから、ここに載っている宿をあらためて、現地についたらネットで調べて、評判を良いところに丸を付ける。あとは、現地に直接行けばいい。


 一通り宿情報に目を通したわたしは、ガイドブックをパラパラとめくる。

 すると、とあるページの記事に目が留まる。


 そこには”デゥルガ・プジャ”というヒンドゥー教の祭りが紹介されていた。

 それは、コルカタのあるベンガル地方で盛大に祝われるヒンドゥー教の祭りの一つらしかった。


 ――女神デゥルガが、悪魔マヒシャースラを倒した記念として、9月末から10月初めにかけて、各地で盛大に祝われるという。


わたしは、ガイドブックの煌びやかな写真に目をやる。


 いくつもの腕を持つ女神(デゥルガ)が中央に鎮座し、その左右に別の女性の彫像が、更に左にはゾウの頭をした神様も配置されている。女神の足元で、獅子をけしかけられている血色の悪い男が、悪魔なのだろうか……。


  その神話のような世界観を見るにつけ、インドという国について、改めて想いを巡らす。

 仏教という世界宗教を生みながらも、国の人口の8割、なんと10億人以上がヒンドゥー教だという。

 さらに、2億人のイスラム教徒を抱え、仏教徒は完全に少数派となっている。


 わたしは、徐々に眠気に襲われ、目を閉じる。


 夢現(ゆめうつつ)の中。

 なぜか赤く染まった世界に、二人の美女が躍っている姿が脳裏に浮かぶ。その両手には煙を吐く不思議な器のようなものが握られている。


 その煙に巻かれるように、ゆっくりとわたしは眠りの中へと堕ちていった。


挿絵(By みてみん)

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