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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第12章:中東・アラビアンナイトの世界へ【2029年11月27日】
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第119話:地獄の門

挿絵(By みてみん)


ヴィクラム(その男)との出会いが、私の人生を根本的に変えてしまった」

 そう言ったジャイールの目には、興奮とも、後悔とも取れる複雑な感情が浮かんでいた。


「そもそも、ヴィクラムとはどうやって出会ったんですか?放浪の歌い手なら、そう簡単に見つからないんじゃ……」


「ああ、3週間ほど、現地(ブッダガヤ)で聞き取りをしても、一切手がかりはなかった。なんせ、少し歌を齧っただけの、偽物(エセ)の歌い手なんざ山ほどいたからな」


「ほとんど諦めかけていたんだが、()()()()()()()に、全く予期せぬ形で出会いが訪れた」


「”ヴェーサク”って?」


 堀田さんが横で解説してくれる。

「ブッダの誕生や入滅を祝う日のことだ。毎年4月から5月にかけて、インドの各地で祝われるんだが、特に、ブッダが悟りを開いた言われるブッダガヤでは、世界中から仏教徒が集まり、特に盛大に祝われるんだ」


 ――それは何となく分かる。

 彼らにとっては、まさに”聖地巡礼”なのだろう。


 ジャイールは言う。

「それは、あるyoutubeの生放送がきっかけだった」


 ――ん? なんか急に現代的な展開になってきた。


「それは、2015年、4月4日のブッダ誕生記念日(ヴェーサク)に、ブッダガヤで撮られた生放送だった。確か、外国のインフルエンサーとやらが、番組のネタとして、現地の”いかにも聖人っぽい人”にインタビューするという企画のようだった」


 ――日本で言えば、突撃系のユーチューバーみたいなものだろうか。無理やり取材して、相手が怒るところまでをコンテンツとするタイプのやつだ。


「実際、その動画自体はひどいもんだった。夜更けに、相手が静かに瞑想やお祈りをしているのに、無理やり突撃してインタビューするんだからな。だだ内容自体は興味深かったら見続けていたんだが、その生放送の最後に、妙に気になる男が登場したんだ」


「気になるって、どんな?」

「男は、インタビューアーがどんな質問をしようとも、ずっと瞑想したまま反応しなかった。まるで座禅のままで眠っていたようにな。だが、インタビュワーが最後に、”ある質問”をしたとき、突如、彼は目を見開いた」


「それって、どういう質問だったのですか?」

「『末法の世は、いつ訪れると思いますか?』という問いだ」


「末法の世って?」

わたしの初歩的な問いに、今度はサラが解説してくれる。

「仏教が教えが衰退し、世界が乱れる時代のことだよ」


「それで、ヴィクラムは何て答えたんですか……?」


「ただ一言だけだ。『15年後、末法の世が始まる。更なる15年の後、新たなる輪廻の環が動きだすだろう』と」


――輪廻の環?

聞き慣れないその言葉に、わたしの混乱は深まる。


堀田さんに尋ねても、彼にも理解できないという。

ジャイールにも訊いたけど、仏教徒じゃない彼にとって、答えの内容自体には関心がないようだった。


「ただ、その()()()()()で、私には分かったんだ。この男こそが、私が探し求めていた歌声の持ち主だと」


 ――そんなたった一言で……。

 卓越した文章家が、始めの一小節を読むだけで、小説の良し悪しが分かるのと同じようなものだろうか。


 ジャイールは、スマホの中の一枚の画像を見せてくれた。


 長らく整えていないであろう、伸きった髪と髭。

 ただ、真っ白な髪と髭は、たしかに聖者然とした出で立ちだ。


 けれど、わたしの目を引いたのはそこではなかった。

 彼の瞳は、まるで火のように紅くに輝いていた。まるで、かつて映像で見た、深淵で燃え続ける”地獄の門(ヘルズゲート)”の炎のように。


挿絵(By みてみん)

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