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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第12章:中東・アラビアンナイトの世界へ【2029年11月27日】
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第115話:鷹の祭典

挿絵(By みてみん) 


 砂漠に浮かぶ巨大な鷹に見えたものは、”ファルコン・フェステ(鷹の祭典)ィバル”へのゲートだった。両翼の下に敷かれた道路を潜り抜ける形で、会場へと入っていく仕掛けだ。


 砂漠の上に、数々の特設会場が設けられていて、中には万博を思わせるようなパビリオンまで建設されている。


 ――鷹の”運動会”みたいなものかと思ってたけど……。

 それどころの規模じゃない。むしろ、”鷹のオリンピック”といった方が近い気がする。


 となると、この大会で優勝したアディーラさんとファリード王子は、オリンピックで金メダルを取るくらいの腕前ということなのだろう。


「七海教授と星は、夜のイベントに合わせてファリード王子と来るらしい」

 梨沙さんがそう言って、首をくいっと傾けた。


「あっちの食事ブースで一杯やろうぜ。といっても、酒は厳禁だから、アラビアンコーヒーでだけどな」


 *************


「あれは、ペレグリン・ファルコン。世界最速の鳥類と言われています。左側の子は、ジャイラ・ファルコンといって、体長は鷹の中では最大級です。その向こうは、サカール・ファルコンと呼ばれていて……」


 一体、これで何匹の鷹を見ただろう。

 さすがにすべての名前は覚えきれず、途中からサラに録画してもらい始めたくらいだ。


 それでも、数時間にわたって、無数の鷹を見続けているうちに、だんだんとその違いや共通点を見つけられるようになってきた。


 喜んでいるとき、眠たいとき、怒っているとき、警戒しているとき。

 鷹それぞれに個体差はあるものの、次第に共通のしぐさを感じ取れるようになってきた気がする。


「鷹ってのも面白いんもんだな。戦闘機に似ていて、その性能が姿に現れている。でかけりゃ速いってもんじゃない」

 スピード狂の梨沙さんが愉し気に言う。


「実際、(ファルコン)って名前の戦闘機がありませんでしたっけ?」

 堀田さんが訊ねる。


「おっ、医者のくせに珍しいじゃん。名機F16、通称“ファルコン”を知ってるなんて」


「2011年のリビア内戦の、“オデッセイの夜明け作戦”で投入されたから覚えてるんです。『エリア88』にも出てきてましたし」


 『エリア88』(その漫画)なら、わたしも星の家で読んだことがある。

 民間機のパイロットだった主人公が、親友に裏切られて外国の傭兵部隊にぶち込まれ、敵機を撃墜し続けなければ生き残れない境遇に陥る――そんな衝撃的な展開だった。


「でも、ちょっと意外です。お医者さんが、あんな血なまぐさい漫画を読んでるなんて」


 わたしの言葉に、堀田さんが真面目な表情で答える。


「メスと一緒で、あらゆる道具は、結局使い方次第だからね。リビア内戦以外でも、アフリカでは度々米軍機が投入されているんだ。モロッコの時たいな軍事演習もあれば、テロ対策や人道危機対応が目的の場合もある。使い方を知らなければ、良いか悪いかでさえ判断できない」


 ――あらゆる道具は、使い方次第……か。


 手の中でじゃれている鷹型アバター(リヤー)を見つめる。

 こんなにも可愛らしい外見とは裏腹に、これもまた、一つの道具であり、武器なのだ。


 そのとき、アディーラさんの頭上を舞っていた(ワミード)が”キィー、キィー”と高く二回鳴いた。

「どうやら、ファリード王子たちが会場に到着したようです。星さんと七海教授も一緒でしょう」


 わたしは会場の入口方面に目を凝らすが、黒っぽい固まりが動いているのが、辛うじて見えるくらいだ。

「すごい、この距離で見えるんですね」


「鷹の視力は、人間の5~7倍と言われていますから。今の鳴き方からして、間違いないと思います」

 心なしか誇らしげに言う。


「鳥の言葉が分かるんですか?」

「はい。幼い頃から、ずっと一緒に暮らしてきましたから。さっきの嬉しそうな鳴き方は、主人や”زوج(ザウジ)”を見つけたときの声なんです」


「ザウジって?」

「あ、ごめんなさい。英語だと、 "mated pair(つがい)" ですかね。結ばれる相手のことです。鳥や、人なんかの……」


 そこまで言って、アディーラさんが、不意に恥ずかしそうに口ごもる。

 わたしは、彼女の視線の先を見る。


 次第に大きく、鮮明になってくる一団の先頭には、ラクダに乗ったファリード王子がいた。


 ――もしかして、アディーラさんは、王子のことを……。

 そう思ったけど、さすがに口には出さなかった。


 王族ともなれば、結婚にだってさまざまな制約があるはずだ。

 部外者が軽々しく話題にしていいことではないだろう。


 だから、心の中だけで願っておいた。

「いつか、目の前の大切な者同士が、|زوج(つがい)になれますように」と。


 そんなわたしを、遠くから呼ぶ声がした。

「リーン!」


 星が、砂漠の向うから駆け寄ってくる。

 たった二日離れていただけなのに、こうして一目見ただけで、心がほっと溶けていく。


 アディーラさんの熱が伝染ったのか。それとも砂漠の熱にあてられたのだろうか。

 なんだか、わたしまで顔が火照ってきた気がした。


挿絵(By みてみん)

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