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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第12章:中東・アラビアンナイトの世界へ【2029年11月27日】
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第109話:二つの波動

挿絵(By みてみん) 


「あなたには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 わたしの、挑戦するかのような問いに、しかしジャイールは答えなかった。

 かわりに彼の全ての集中力は、画面の中の火龍(おじいちゃん)の姿に注がれていた。


 初めは無言だったが、やがて彼の唇から音が漏れ出した。

 太鼓、三味線、笛、鈴……。恐らくは聞いたこともないはずの楽器音が、寸分の狂いもない旋律とともに発せられる。


 結局彼は、火龍の舞が終わるまでの約20分間、言葉を発しなかった。

 そして映像が途切れても、暫く目を閉じ、その余韻に浸っているようだった。


 しびれを切らしたわたしが、声をかけようとしたとき。

 突如彼は目を開け、()()()わたしに訊いてきた。


「紫の仮面の女性は君だな。で、この龍に扮している男性は、君は親族か?」

「は、はい。わたしの祖父(おじいちゃん)です」


 ジャイールは、わたしに向かって目を凝らす。

「なるほどな……波動の量は遠く及ばないが、質的には良く似ている」


――そういえば、おじいちゃんも、わたしと夢華が姉妹であることを、『波』が似ているからと言っていた。それであれば、彼の言う「波動」というのは、脳波という意味なのだろうか。


「君の質問は、『君の祖父と、私が同じことができるか?』ということだな?」

 わたしは頷く。


「残念ながら難しいな。()()()使()()()()()()()()()


「波動の使い方?」

「ああ、あのご老人は、君たち7人それぞれの波動に合わせ、7種の異なる波動を送り続けていた。通常の脳構造の持ち主に、そこまでの並列処理ができるとは思えない」


 わたしは肩を落とした。

 やはり、幼いころ脳に傷を負ったという、おじいちゃんだけにしかできないことなんだろうか。

 それであれば、おじいちゃん亡き今、二度と再現は不可能ということになってしまう。


 ――だが……、とジャミールが続ける。


「君の質問は、恐らくその手前にあるはずだ。自分の波動を、どう、他者に伝達するのか。それが、君が知りたいことなのではないのか?」


「は、はい」

 まさにその通りだった。


「わたしができるのは、1種類か、多くても2種類の波動を相手に送ることだけだ。例えば、集団剣舞(アル・アルド)では、『戦に勝利する』という意思を込めた波動を送るように」


 たしかに、アル・アルドが、戦に勝つための剣舞である以上、その点において楽団全員の意思が一致しているはずだ。


「それって、相手が多人数に対してもできるものなんですか? 楽団、50人はいるみたいですけど」

 梨沙さんが口を挟む。


「相手次第だ。もしその全員が、()()()()()、つまり波動に従う心理的準備(マインドセット)ができていれば、より多人数でも問題はない。かつて、私達の祖先が、数々の聖戦に勝ち抜いてきたように」


 そういって、ジャイールは、遥か過去に想いを馳せるような視線を送る。

 その姿に、ふとわたしは、アラビアンナイトに登場した吟遊詩人のことを重ねていた。


「だが、逆に、そのマインドセットを持たない者が混じっていると、集団にとっては大きなマイナスになる。大きな流れに対し、逆行する者が混じっているというのだから」

 ジャイールが言う。


「さっきのリハーサルで叱られてた二人は、そのマインドセットがなかったっていうことか……」

 梨沙さんが突っ込む。


「ああ。本場直前に、普段のメンバー(レギュラー)が急な事故にあってね。奴らは、代理人(エージェント)が慌てて探してきた代替要員さ。本来なら、本番で使うことなどまずない」

 ジャイールが吐き捨てるように言う。


 そこに、映写室からアディーラさんが戻ってきた。

 その腕には、鷹型アバター(リヤー)を抱えている。


「リンさんは、目の前の相手との剣戟に集中しながら、同時にこの機械の鷹(アバター)を操作したいということなんです。その方法を教えていただけますか?」


 アディーラさんのお願いに、ジャイールが答える。

「つまり、”2つの異なる波動を同時に発したい”ということだな」


「できますか?」

 わたしは、直截に問う。


「ああ。戦場で二つの兵団を動かすよりは、遥かに容易くな」


挿絵(By みてみん)

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