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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第12章:中東・アラビアンナイトの世界へ【2029年11月27日】
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第106話:遊牧民

挿絵(By みてみん)


「その鷹が発する”波”って、サウジアラビ(こっち)アの人はみんな感じられるんですか?」


 ――”脳波操作”の基本は”波を感じ、操作する”ことだ。あの夢華でさえ習得に苦戦していたその技術を、もし自然に身に着けているとすれば驚きだ。


 わたしの問いに、アディーラさんは首を振る。

「都会に住む人にとっては難しいようです。ただ私は、物心ついたころから、砂漠で鷹と一緒に住んでいましたから」


「へぇ。詳しく教えてもらえるかな?」

 梨沙さんが興味深そうに訊ねる。


「私たちの一族は、代々鷹匠を営む”遊牧民(ベドウィン)”でした。私たちにとって、鷹というのは、砂漠での()()()()()()欠かせない仲間だったのです」


 ――ベドウィン?

 わたしは聞き返す。


 堀田さんが同調する。

「遊牧民のことだよ。今でもサウジの人口の5%から10%くらいが遊牧民(ベドウィン)として、砂漠地帯に住んでると言われているんだ」


「ええ。その通りです。食糧の少ない砂漠地帯では、鷹は小動物を捕獲したり、砂漠で迷った同胞を見つけるための大切な存在です。わたし自身、子どものころは何度も砂漠で迷って、この()たちに助けてもらったものです」

 そう言って、ワミードの毛を優しく撫でる。


「なるほどね……。生死がかかっていたら、そりゃ敏感にもなるよな」

梨沙さんも納得したように頷く。


「はい。ただ、一族の中でも、私は特に鋭敏だったようです。私の部族では数十の鷹を飼っていましたが、ほとんど目をつぶってても、どの鷹がどこにいるのか分かりましたから」


 ――確かに、アディーラさんはリヤーが鷹型アバターだと、瞬時に見抜いていた。

さすが、世界大会で優秀するだけの才能だ。


「いい先生が見つかったみたいだな」

 そう笑いながら、梨沙さんは、脳波操作用のVRスカウターを2つ取り出した。


「近距離戦闘はわたしが教える。だから、鷹型アバターの操作はアディーラさんに頼むといい」


 **********


 アディーラさんの脳波操作は、天賦の才ともいえるものだった。


 まずは、おじいちゃんとわたしたちが演じた”火龍の舞”の映像を見せながら、ゾーンとフローへの入り方と、脳波によるアバター操作の方法を伝える。


 すると、アディーラさんは、ものの1時間もせずに鷹型アバター(リヤー)を自在に動かし始めた。それも、わたしよりも遥かに上手く。


「これ、面白いですね」

 そう笑って、リヤーとワミードと追いかけっこをし始める。


 ワミードが上昇し、旋回し、急降下するのに合わせ、リヤーも同じ動きをする。

 何だか、高度に訓練された戦闘機の飛行訓練を観ているようだ。


 わたしは、試しに、リヤーの視界を、わたしの左目のVR機器に同期させてみる。


「は、速っ!」

 ――あまりの速度に、脳が反応しきれず、思わず左目を閉じる。


「鷹の最高飛行速度は、時速390kmを超えるんです」

 アディーラさんが言う。


新幹線(ブレッドトレイン)より早いってことだな。ま、戦闘機よりも遅いから安心しな」

 そう言って、梨沙さんは笑う。


「え、梨沙さん、戦闘機、操縦したことあるんですか?」

「いや、せいぜい救助用の輸送ヘリくらいだよ。そもそも戦闘機(あれ)は、航空自衛(くうじ)隊の乗り物(もん)だからな。ま、でも世界が危機を迎えるってんだから、風間さんに一機おねだりしてみようかな」


 わたしは、サラにファルコンとかいう戦闘機の値段を聞いてみる。


 ――1機。70億円。

 おねだりにしては度が過ぎる。

 

「いずれにせよ、慣れってやつだよ。自転車も、車もそうだったろ。始めは速いと思っても、脳はいずれ適応するもんだ」


 梨沙さんにそう言われて、わたしは再び左目を開く。

 (リヤー)の視界が、わたしの左目に宿る。


 蒼空に向かって羽ばたいたかと思うと、赤い砂丘へと急降下する。

 地面すれすれを低空飛行し、4WDの車の屋根で羽を休める。


 確かに、速度と高度に慣れれば、むしろワクワク感が勝る。

 子どものとき好きだった、ジェットコースターに乗っている感触だ。


 わたしは、遥か上空から、砂漠に立つ自分自身を見つめる。


 ――もしかして、これが天国からの視点だろうか。

 おじいちゃんの面影を思い浮かべながら、わたしは乾いた頬をわずかに湿らせた。


挿絵(By みてみん)

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