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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第12章:中東・アラビアンナイトの世界へ【2029年11月27日】
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第105話:光に浮かぶ帆船

挿絵(By みてみん)


 リヤドに戻る車の中では、なぜかアニメトークが花開いていた。

 心を開いてくれたらしいファリード王子が、突如、そのアニメ愛をむき出しにしてきたからだ。


 星が王子に「好きなアニメは?」と訊ねると、それこそ滝のように、その口からタイトルがあふれ出てくる。


 それこそ『もののけ姫』のような王道作品から、最新クールの作品まで幅広く抑えている中で、面白かったのが『UFOロボ グレンダイザー』を挙げてきたことだった。


 1975年に放映された、永井豪原作のこのアニメは、あの『マジンガーZ』のシリーズ作として、日本でも当時人気を博したらしい。


 さすがに2010年生まれのわたしは、名前しか聞いたことはなかった。

 ……けど、わたしをアニメ沼に引き込んだ、いわば師匠格の星は、さすがに全74話を観ているらしい。


 この『グレンダイザー』はサウジで爆発的な人気を誇り、リヤドには、なんとギネス世界記録にも認定された、全長33メートルの彫像まであるらしい。


「王子は、『グレンダイザ(この作品)ー』のどこらへんがお好きなんですか?」


 星がそう訊ねると、ファリード王子は妙にしんみりと答える。

「主人公の”亡国の王子”っていう設定が、また響いてね」


 ――まさか放映後50年以上経って、遠い砂漠の国の王子の共感を得ているなんて、当時の制作陣は予想しただろうか……。


 あっという間に時は過ぎ、エッジ・オブ・ザ・ワールドからリヤドに戻ったころには、既に完全に夜が更けていた。


 車から出ると、思わず外の冷気に身震いする。


「夜は結構、冷えるんですね」

 アディーラさんに言うと、彼女も頷く。


「ええ。砂漠の国というと、年中暑いと思われがちだけど、冬の砂漠は逆に夜が冷えるの。リヤドはまだ10度くらいだけど、エッジ・オブ・ザ・ワ(さっきの場所)ールドは、0度以下にまで下がるわ」


 ――そうか。つまり、氷点下の世界を彼らは既に知っているのだ。

 だからこそ、氷河期の危機に敏感なのかもしれない。


「リン、見てごらん」

 星が声をかけ、視界の先を指さした。


「わぁぁぁぁ」

 わたしは思わず嘆声を漏らした。


 そこには、首都リヤドの夜景が広がっていた。

 オレンジ色の光の海の中に、青や緑の蛍光色の高層ビルが、まるで帆船のように浮かんでいる。


 人を拒絶する”世界の果て”から戻ってきたからこそ、この光がとりわけ胸に染みてくる。


「これが、砂漠を一歩一歩切り拓いてきた世界なんですね」


 わたしがそう呟くと、王子は力強く頷いた。

「守り抜いて見せる。この輝かしい都市を、氷河の災厄から」


 **********


 2029年11月29日 サウジアラビア 


 11月29日と30日の二日間は、創さんと星とは別行動となった。

 リヤドから約650km先の、シュカイクと呼ばれる沿岸都市を訪問するためだ。そこに、サウジアラビア最大の海水の淡水化プラントがあるという。


 一方で、わたしは、梨沙さんと堀田さんとともにリヤドに残ることにした。

 12月1日(明後日)に控えた”鷹狩りの祭典”に向けて、アディーラさんの特訓を受けるためだ。


 "Red Sand Du(紅い砂丘)nes"と呼ばれる砂漠地帯は、リヤドから1時間ほどの場所にあった。

 その名の通り赤茶色の砂の色が特長で、ここでしばしば鷹狩りの練習が行われるという。


「これ、預かってきたよ」

 梨沙さんはそう言って、さっそく砂埃をかぶり始めた籠の中から、鳥のような物体を取り出す。


 見かけは、直径30cmほどの鷹そのものだ。

 だけど、そのふさふさの羽毛の下には、精密な電子のボディーが隠れている。

 脳波連動の鷹型アバターだ。


「こいつのこと、哲が、”رياح(リヤー)”と名付けたんだ」

 梨沙さんは、いつの間にか、堀田さんのことを呼び捨てにしている。年齢的にも、性格的にも、弟みたいな位置づけらしい。


 アディーラさんが、「”風”って、素敵な名前ですね」と微笑む。


 堀田さんは照れながら言う。

「”疾きこと風の如く”っていうメッセージを込めてね。まあ、アディーラさんの鷹が閃光(ワミード)だから、(そこ)までは速くはないかもしれないけど」


 アディーラさんが感心したように言う。

「へえ、よくできてますね」

 そういながら、首元を触ると、リヤーはわずかに体を震わせ、気持ちよさそうに目を閉じた。


「ああ。脳波連動していないときは、なるべく本物の鷹と同じような反応(リアクション)をするようにプログラムされているんだ。最新のロボティクスを使ってね」

 梨沙さんが得意げに言う。


 ”キー! キー、キー!!”

 その時、空からワミードがアディーラさんの肩に舞い戻り、警戒を煽るような声を上げ始める。


 ――どうやら、ワミードにはリヤーの正体が分かっているみたいだ。


 アディーラさんは何やら呟き、落ち着かせる。

「やっぱり、同じ鳥同士には分かるんですね。本物かどうかが」

「ええ、人間の中にアンドロイドが混じっていたら、さすがに気づくのと一緒です。機械には、生物の持つの”生々しさ”がありませんから」


「生々しさ……って、匂いとか?」

 梨沙さんが喰いついてくる。自信作の鷹の正体が、瞬時にバレたのが悔しいのかもしれない。


 その問いに、アディーラさんは、少し考えながら言う。

「それもあります。ただ、それよりも……。英語では"vibes(振動)"……いや、"waves()"とでも言えばいいんでしょうか。本来鷹から発せられるはずの”(それ)”がアバターからは感じられないのです」


 ――”波”。

 まさか遠い異国の砂漠で、再びこの言葉を聞くとは思わなかった。


 天国のおじいちゃんが遺した言葉が、脳裏をよぎった。

『人も動物も鳥も木も、生きとし生けるものは全て、それぞれに波を発している』


挿絵(By みてみん)

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