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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第12章:中東・アラビアンナイトの世界へ【2029年11月27日】
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第103話:エッジ・オブ・ザ・ワールド

挿絵(By みてみん)


「え、素人のわたしが、鷹狩りの大会に?」


 ファリード王子が笑う。

「大会は4日後の12月1日からですから、さすがに本戦は難しいと思います。でも、観光客や子ども向けのちょっとしたゲームみたいなものもあるので、それなら問題ないかと」


 ――よ、良かった。

 軽い気持ちで言い出したのが大事(おおごと)になるところだった。


「どれくらい人が集まるんですか?」

「鷹匠だけで数千人、観客を合わせると10万人ほどに上ります」


 堀田さんが耳打ちしてくれる。

「ここで勝つのは大変名誉なことなんだ。賞金も数千万ドルって言われている」


 ――数千万ドル……。

 日本円にして数十億円だ。

 この20人乗りのリムジンにしてもそうだけど、石油の国の王族というのは財力が桁外れだ。


 そんなことを考えていると、車が音もなく静止した。


「到着しました」

 そう言って、車のドアが開かれる。


「ここが私の別邸です。本日はここにお泊り下さい」


 わたしは、目の前の建物を見上げる。

 その白亜の建物は、豪邸というのを通り越して、もはや宮殿だった。


 ***********


 そこに広がっていたのは、あたかも現代版のアラビアンナイトの世界だった。

 豪華な庭園に、プライベートプール、スパ、シアタールームに、ヘリポートまである。


 わたしたち一人ひとりに、スートルームが割り当てられ、当然のようにそれぞれにメイドさんらしき人が付いている。


 部屋のテーブルの上には、まるでホテルのバイキングみたいに、様々な異国情緒あふれるスイーツが並べられている。


 リビングも、豪華の一言だった。

 床には金と赤、そして象牙色で織られたペルシャ絨毯が敷き詰められ、その上には、磨き上げられた大理石のテーブルが堂々と鎮座している。


 広いソファーに、どこか居心地が悪そうに一人で座る堀田さんを見つけ、話しかける。

「こういう豪邸って、王子クラスになると普通なんですか?」


 いくら石油が出るとはいえ、こんな邸宅が何個もあったら、さすがお金がいくらあっても足りない気がする。


「うーん。やっぱり、普通よりはだいぶ豪華だと思うよ。ただ、王子といってもサウジアラビア全体には5000人くらいいるからね」


「ご、5000人も!?」


「ああ。ただ、その中でも代々王様になる直系と、その分家があって、ファリード王子は直系にかなり近い。更に、アメリカとイギリスのトップ大学で、都市・観光開発の博士号を取った秀才だけあって、サウジアラビアの観光開発の中心的な役割を担っているんだ。だから、財力も影響力も大きい」


 確かに、先週エジプトに来ていた理由も、紅海での共同開発だと言っていた。


 メイドさんが、わたしと堀田さんに黄金のポットからコーヒーを淹れてくれる。

「アラビアコーヒーだね。カルダモンなんかのスパイスが入ってるんだ」


 わたしの知るコーヒーと違って、色合いはミルクティーに近く、苦みも大分薄い。


 堀田さんはテーブルに置かれていた、濃い琥珀色のオリーブくらいの大きさの実を勧めてくる。

「これはデーツ。”砂漠の黄金”って呼ばれている、ナツメヤシの実だよ」


「あ、甘っ!」

 口に含むと、そのキャンディーのような濃厚な甘みに驚く。


「砂漠ではエネルギー補給が生死に直結するからね。砂漠で飢えた昔の人たちにとっては、甘いナツメヤシ(デーツ)はまさに黄金だった」

 そういって、堀田さんがアラビアコーヒーを口に含む。


「サウジアラビアって、どれくらい砂漠があるんですか?」

 むかし授業で、日本の国土は65%が森林だと聞いたことがある。


「国土の80%以上が、砂漠だよ。昼は灼熱、夜は極寒のね」


 ――つまり、今時点でも人が住めるのは20%以下ということだ。


「だから氷河期到来で、居住可能エリアがさらに小さくなることに、極めて敏感なんだ。彼らにとっては、祖先が決死の想いで開拓してきた”人間が住める境界線”が、無理やり引き直されるようものだからね」


 ―――うーん。

 言葉では分かるけど、正直イメージが沸ききらない。


「体感いただくのが、一番かと思います」

 奥から、ファリード王子とアディーラさん、お付きの人と共に歩いてくる。


「今からお連れしましょう。世界の(エッジオブ)境界線(ザ・ワールド)へと」


挿絵(By みてみん)

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