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天使の生まれだけど下界で生活することになりました  作者: 叶音ゆい
第二章 種族の壁
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第四節 戦禍の残滓と空を泳ぐサグラード城

文章を書くの久しぶり過ぎて読みづらいところが多いかもしれません。


 荒廃した大地には乾いた冷たい風が流れている。命の気配が微塵も感じられないほどに静かだ。

 ただ、少し歩いたら景色は大きく変わってきた。焦げたような色の地面、辺りに転がる兵器のようなもの。そして、世界標準語で記された謎の石碑。

「『正義のために魔族に力を貸した勇敢な黄緑の天使。この地に眠る。』これってもしかして」

 ヒカリさんの顔を見ると何かを堪えるような顔をしていた。拳を握り締めて、明らかに感情を押し殺している。

「……行きましょう。ボクたちはサグラード城に向かわないと」

「でも場所が分からないでしょう? 私たちは初めて来たわけだし」

「ボクは、180年前に来たことがあるから」

「それって、戦争中なんじゃ?」

「ユイちゃん、詳しいことは城に着いてからよ」

 それからは口数も少なくかなりの距離を歩いた。道中には武器やら兵器やらの残骸が稀に転がっているくらいでそれ以外は本当に何もない。進む方向がだんだん雪景色になっていくくらいだ。

 ヒカリさん曰く、戦争の終わり際にこの辺にいた者の肉体は魔法で塵に帰ったらしいけど、魔法で溶け切らなかったものが散らばったままになっているらしい。

 夕方に差し掛かろうとしたところでだんだん城の影が見えてきた。

「あれがサグラード城よ。もう少し頑張って」

 いや、とても()()()()()()()()()着く距離じゃない。

「ぜぇ、はぁ、あんたたちどうしてそんなに足腰強いのよ……」

 サラお姉ちゃんが少し後ろの方で膝に手をついて息を切らしていた。

「サラお姉ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫だったら、こんなに距離離れないわよ……」

 回復系の魔法が得意なサラお姉ちゃんが、自分の体力のケアもできないほどに疲れているという珍しい状況が起きている。

「ヒカリさん、ちょっと休憩しない?」

「いや、その必要はなくなったわ」

 空を見上げてヒカリさんが答える。

 ヒカリさんの目線の先から巨大な鯨のような生物が飛んできた。

「巨獣リヴァイアサン、まさかこっちの大陸で見られるなんて……」

「ヒカリさん、あれはどういう生物なの?」

「僕たちが今いるこの大陸とはまた別の大陸の存在よ。アヴェイロンでもその大陸の存在を知る者は少ないわ。こっちの大陸にもリヴァイアサン自体は存在するんだけど、こちらのはその辺のドラゴンと大差ないのに対して彼らは住居1つを背中に背負える程の大きな体を持つの。でも、あの個体はそれに収まらないサイズの建物、そうね、ちょうどこの先に建っているサグラード城は軽く背負えるんじゃないかな?」

 ヒカリさんが話している間にその巨獣リヴァイアサンはあたし達の真上まで来て止まった。

 サグラード城を軽く背負えるどころか、そのものを運んできたようにも見える。遠く先にも城の影は見えるのだけれど。

 それにしてもあまりにもでかい。全長数百メートルはあるだろうか。

「私たち、まさか食べられたりしないわよね?」

 やっと息の整ったサラお姉ちゃんが質問する。

「あなたたちを食べることはありませんわ!」

 質問に答えたのはヒカリさんではなかった。

 その声の主は巨獣リヴァイアサンからひらりと飛び降りてきた。

 軽やかに着地すると上品にお辞儀をした。見た目は幼い吸血鬼の少女だが、オーラは少女にとどまらない。

「初めまして。わたくしはプロヴァード・ヴィブ・ガレオ。サグラードの魔王よ」

「ヴィヴ様、いつもと様子が違いますね」

 空から別の声が聞こえてきたと思ったらメイド姿の女性が降りてきた。

()()()じゃないですわ! ヴィブですの! もう一度教え込んで差し上げましょうか?」

「失礼しました、ヴィブ様」

「はぁ、まあいいですわ。とりあえずそちらのお三方を上にご招待してちょうだい」


 なんとあっという間の出来事。

 魔王が目の前に現れたかと思ったのも束の間、何か声を発するタイミングもなく転移の魔法によって巨獣リヴァイアサンの上に移動させられたようだ。

 移動先はどうやら城の扉の目の前。

「ほら、入ってちょうだい。詳しい話は中でしましょう?」

 色々なことが同時に起こりすぎて脳がちゃんと処理できない。サラお姉ちゃんと顔を見合わせている間にヒカリさんは先に行ってしまった。

「ユイちゃん、サラさん。安心して、彼女らはボクたちを攻撃できないわ」

 いやいや、安心できないよ。と思いながらも、どこに行くこともできないのでとりあえずヒカリさんの背中を追うことにした。

「ヴィブ様、私は準備が整ったことを姉さんに伝えてきます」

 メイド姿の女性は一度城から出て頭のほうに駆けて行った。

「分かりましたわ。わたくしはこの者たちを客間に案内いたしますわ」

 吹き抜けの広間の左右にそれぞれ大きな階段が二つある。ところでこの城内、外から見た時よりもはるかに大きい。

「気付いたかしら? 城の内部には空間拡張の魔法が施されていますの。どれだけ客人が来ても対応できますし、侵入者は迷子になってまず攻略できないという仕様ですわ」

 長い廊下を渡り、数えきれないほどの扉を通り過ぎ、また階段を上り、今度は階段を下りて……

 歩いている間に窓の外の景色が動き出した。移動を始めたようだ。さっきまで夕方だと思っていたらいつの間にか夜になっている。

 なるほど確かに目的の部屋にたどり着くまでにこれほどの手順を要するのであれば侵入者が迷子になるのも頷ける。

「これだけの広さだと関係者でも迷子になりそうだけど、大丈夫なの?」

「そうですわねぇ。今わたくしたちを乗せている方のメイドはしょっちゅう迷子になってますわね。さっきのメイドは全然迷子ならないんですのに」

「えぇ、そうですね。私は姉さんやヴィブ様たちと違って迷子にはなりません」

 後ろからさっきのメイドの声がした。

「あなたたちは目的の部屋の前をもう3回は通り過ぎていますよ。ヴィブ様、しっかりしてくださいよ。ほら皆さん、こちらですよ」

 今度はメイドが先導してくれるようだ。

「うるさいですわ! まったく、どうしてこう面倒な作りなんでしょうこの城」

 魔王は完全に拗ねている顔をしている。人間なら見た目年齢通りの拗ね方ではあるが、人間以外の生物は容姿と実年齢が合致しないのできっと元々の性格だろう。

「さて、あなたたちの客室はここですよ」

 案内された部屋には大きなベッドが4つ、ソファー2つに挟まれたローテーブル。お手洗いと洗面所がある。

 床の空いたスペースに今いる5人が全員横になってもまだ余るくらいのとても広い部屋だ。

 あたしを挟むように3人でソファーに座ると向かいのソファーに魔王が座った。

「では改めて自己紹介いたしますわ。わたくしはプロヴァード・ヴィブ・ガレオ。魔王様とか、ヴィブ様とか呼ばれているのだけど、堅苦しい呼び方は嫌ですの。プロヴァードとでも呼んでくださるかしら?」

「私はサリィ・マリアリー。今皆さんを運んでいるのは私の姉のリリィ・マリアリー。どちらのこともお好きに呼んでください。サグラード本城への到着は真夜中ごろになると思われます。では本題に入る前に、私は今夜の皆様のお食事の支度をしに行きます。後ほどこちらの部屋へ持ってきますね」

 サリィという名のメイドはさっと自己紹介をすると足早に部屋から出て行った。

「あたし達名乗る前に出て行っちゃったけど……」

「あの子、人見知り激しいんですの。でも大丈夫よ。わたくしたち、あなたたち3人のことは知っていますの。サラ、ユイ、ヒカリ。シニエストロ城での行動がさすがの物だって噂を聞きましたわ」

 そんなさすがって言われるよなことしたっけな?

「業火の中で身動ぎもせず、地下牢から脱獄までして。追ってきた勇者一行を返り討ちにしたとか」

「それって誰に聞いたの?」

 あの場には人間しかいなかったと思う。九十九(つくも)(もも)みたいに何かしらの方法で透明になっていたりしない限りは。

「実はオリバーから通信が届きましてよ。世界を変える力を持つかもしれない3人組がサグラードへ行くからもてなしてあげてほしいって」

「ボクたちが世界を変える? まさかそんな」

 ヒカリさんはそんなことありえないって顔をしている。

 サラお姉ちゃんは座ったまますやすやと眠ってしまったようだ。一定のリズムで縦に小さく揺れている。

「ヒカリ様は過去にサグラードを救ってくれたでしょう? そのくらい簡単だと思うけど」

 プロヴァードとは別の吸血鬼の少女が部屋に入ってきて言った。明らかにサイズの合っていない白衣を着ている。

「ヒカリ様はお久しぶり、あとの2人は初めまして。僕はカミラ・ル・ガレオ。プロヴァードの双子の姉。見ての通りただの研究員だよ」

「いいえ、カミラ様は決して()()()研究員ではありません。あなたは200年前に魔王勲章を獲ったでしょう?」

 キッチンカートに料理を乗せたサリィが帰ってきて会話に加わった。

「サリィって200年前は僕たちに仕えるどころか生まれてすらいないでしょ。てか、様を付けられるほど偉くないってば」

 やばい、会話の流れに全く乗れない。あたしもサラお姉ちゃんみたいに寝てしまおうか? その方が気にすることが減るかもしれない。

「さて、お食事をお持ちしましたよ。カミラ様もこちらで?」

「いや、僕は研究室に戻るよ。新しい武器がそろそろ完成するんだ~」

 カミラという名の吸血鬼は両腕をブンブンと振ってルンルンな様子で部屋から出て行った。

「お姉様、ちゃんとした食事しているのかしら……」

「届けた食事は毎回きちんと食べてるみたいですよ。食事を届けに行くと部屋の前に食べた後の食器が置いてあります。最近は手間なので次の食事を届けるときに前の食器を下げに行ってます。夜だけは様子見て下げに行くんですけど、カミラ様、たまに研究に熱中しすぎて食べ忘れたり、特に朝は弱い方なので朝食の頃は気絶したように椅子で寝ていることもありますね。しっかり寝てほしいものですよ」

 サリィが愚痴っぽく話しながら料理を並べている。一人文ずつ取り分けられた状態で配膳された。野菜炒めに野菜のシチュー、野菜パスタ、茹で野菜……

「見事に野菜だらけだ……」

 ついうっかり思ったことが口に出てしまった。

「申し訳ありません、肉類を切らしていまして」

 サリィがすごく申し訳なさそうに頭を下げた。

「いや、いいんだよ。ボクたちが普段食べてるの乾いたパンとただ焼いたきのこだし」

 ヒカリさんがキノコと言った瞬間にサラお姉ちゃんが起きた。

「ちょっと!焼いたきのこ美味しいでしょうよ」

 あーまた喧嘩始まるわこれ。とりあえず適当になだめておくかぁ。

「はいはいはいはい、2人ともストップ。きのこは美味しいものだし、あたしたちはシニエストロに入る辺りから今の今までまともな食事をしていないの。しっかりしたご飯はありがたいでしょう?」

「それはそれは、もっとガッツリしたものを用意できれば」

 サリィが申し訳ないとまた頭を下げた。

「あっ、いやいや謝らなくていいのよ。それより早く食べよう? いっただきまーす」

 どれから食べようか。どれもおいしそうだ。まずはあたしの好物の茹で人参から頂こうかな。

 ぱくっと一片口に入れると優しい甘さが口に広がった。

「あら、そんなに美味しかった? 耳、かわいく動いているわよ」

 プロヴァードがあたしの耳をすごく興味深そうに見つめていた。すごーくキラキラした瞳だ。

「やめてよ、恥ずかしいじゃんか」

 周りの大人というか年上たちが何かニマニマしながらこちらを見てくる。本当に恥ずかしいからやめて欲しい。

「なぁにユイちゃんったら照れてるの~? かぁわいいんだから」

 サラお姉ちゃんがあたしの頭をわしゃわしゃと撫でながらくっついてきた。いつも通りのスキンシップだな。これがあるとヒカリさんがいっつもすごい顔をするけど、今日はなんだか大人しく食べている。

「ほら、せっかくの美味しいごはんなんだからみんな食べましょう」

 いや、あたしは食べてると思うけど。食べてないのはサラお姉ちゃんの方だ。

 あとは食べてはいるが明らかに嫌いなものを避けている様子の……

「ヴィブ様。いつも残さず食べてくださいと散々――」

「だってピーマン嫌いなんですもの! なんであんなに苦いものを食べるん……て?」

 ちょうど野菜パスタを食べ始めたあたしたちの方を見てプロヴァードが止まった。

「えっ……あなた達、ホントに?」

 数々の野菜たちを口に運ぶあたしたちを怪奇現象だとでも言いたげな顔でプロヴァードは見てくる。

「ヴィブ様。サグラードは寒冷地域なので大抵の野菜は高級食材ですよ。なので是非とも食べていただきたいのですが」

 窓の外を見るとひらひらと雪が舞っている。ここまでの寒い地域では確かに野菜は育ちにくそうだ。

「野菜はお姉様が研究して今は普通に出回っていますわ!」

「はぁ、でしたらピーマン以外の野菜は食べてくださいね? じゃないと明日のおやつは抜きです」

「……仕方ないですわ」

 観念したように野菜も食べ始めた。

「ボクたち野菜好きだからちょっと信じられないよね」

 ヒカリさんはあっという間に自分の分を平らげたようだ。プロヴァードが残した野菜をつまみながら物足りなさそうな顔をしている。

「ヒカリさんあたしの分も食べる?」

「あんたはちゃんと食べなさいよ、いつもあんまり食べないんだから」

 サラお姉ちゃんも食べ終えたようだ。

「いや、魔王を目の前にそんなに無心で食べれなくない?」

 目の前に魔王がいるという緊張でいつもよりさらに食べるペースが遅い。

「わたくし、魔王ですけど平和が好きなんですの。だからそんなに緊張しなくていいのよ?」

 プロヴァードはおやつのことはもうあきらめたのか、食べる手が完全に止まってしまった。お皿ごとヒカリさんに取られても何も言わないし。

 てか、ヒカリさんよく食べるなぁ。

 サラお姉ちゃんはカバンからきのこ取り出して食べ始めたし。見るからに毒キノコの色をしている。なんだあの真緑色のキノコは……

「食のタイプが三者三様ですね。到着後のメニューを考え直します」

 サリィはメモ帳を取り出して色々書きこみ始めた。魔王がこの感じだと確かにまじめでお堅いメイドは必要だなって思う。


「ごちそうさまでした」

 ようやく食べ終わったところでプロヴァードの顔が急に真剣になった。

「では、本題に入らせていただきますわ」

 声のトーンも話し方も先ほどの間での子供っぽい感じとは違う。

「ユイ、王を代わってくださらない?」

ここまで読んで下さりありがとうございます!

更新が遅くなってすみません

コミケで忙しくって

しばらく同人イベントは無いので月に1~2回くらいのペースで更新できるように頑張ります!


~ひとくちプチ情報~

ガレオ姉妹は二人とも145㎝前後のちっちゃい子たちです

この時間軸では400歳の吸血鬼ですけど

プロヴァードって可愛いでしょう?

ピーマンが大の苦手な魔王様だよ

まぁ、魔王様は野菜全般苦手なんですけどね

ちなみにお姉さんの方のカミラはトマトが好物です

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