第三節 謎の女・九十九百
何日かに分けて書いたので誤字脱字が多いかもしれません
何か見つけたら教えて下さると助かります
ミドリ兄さんを見送った後、あたしたちはサグラードへ向けて歩き出した。
噂にはシニエストロとの領地の境には広くて深い渓谷があって、その下は氷河になっているらしい。
「ねえ、そろそろ耳とか出してもいいかな? もう国は見えないけど」
シニエストロに入る前に隠していた耳やら尻尾やらが何だかムズムズする気がするのだ。だってもう何日も空気に触れさせてない気がする。ちなみに翼は隠していてもあまり気にはならない。たまに邪魔だし。
「確かにもう見えないけど、なんだか新鮮だから見ていたいのよね」
「サラお姉ちゃんあたしで楽しんでない!?」
「あ、バレちゃった?」
やれやれと思いながら隠していたものを開放する。
うーん! これこれ。あたしと言えばこれよ。半生以上をこれと付き合って来たんだからこれがないとね。
「ユイちゃんの猫耳!」
「んにゃあ!?」
ヒカリさんに飛びつかれた。耳をものすごくモフモフされてる。くすぐったいよぅ。
「おや? こんなところで誰かと思ったらツァラじゃないか」
どこかからか声がした。あたりを見回しても誰もいない。
「おっと失礼。コレを使っているのを忘れていたよ」
ガサゴソと布の擦れる音と液体の音ともに長身の女性が現れた。とんがり帽子に黄ばみまくった白衣を纏っている。
「こっちではサラと名乗っているわ。九十九」
「ふーん? そうなんだ。で、こちらのお二人は?」
自分から名乗る前にサラお姉ちゃんが口を開いた。
「私が紹介するよ。猫耳があるのがユイちゃん。私が女体化させた元男子の堕天使。オッドアイで服装だらしないのがヒカリさん。元大天使の堕天使」
雑な紹介だなぁと思いつつも挨拶の握手を済ませた。かなり筋肉質な手をしていた。
「よろしく、私は九十九百。ふざけた名前だろう? 気軽に九十九って呼んでよ」
九十九は皮肉っぽく笑いながら自己紹介してくれた。
「九十九は道具屋をやっていたわ。さっきのは彼女と開発した魔導器の透明薬ね。ところで、偶然を装ったかのように出てきたけど……どこかからかつけてきたわよね?」
「げっ、バレてた?」
サラお姉ちゃんはまるで「顔に書いてあるもの」と言いたげな目をしている。
「で、今日は何の用なのよ? 九十九」
サラお姉ちゃんは腕を組んでまっすぐ九十九の目を見据えた。
「相変わらず私にはドライだねぇ……今日の用事はそこの天界のお二人だよ」
「ボクたち?」
ヒカリさんは警戒するような目をしている。
「安心しろ、あやしいことはない。ただ、シニエストロ城で君たちを見つけて魅かれただけよ」
あの城で見つけたってことは、きっとさっきサラお姉ちゃんが教えてくれた透明薬とやらで隠れながら見てたってことなのかな?
「あたしたち、何か特別なことしたっけ?」
そう。ヒカリさんの言う通りであの場で特に何かの魔法を使ったわけでもない。スキルが発動していたとも思えない。ダニエルとは主に口喧嘩しかしていないもの。
「そう、特別なことはしていない。だがそれでどうやってあの炎から逃れる? 君たちには何か特別な――」
「余計な詮索は、しないでもらえますか?」
ヒカリさんが九十九に凄みをかけた。九十九は目だけを一瞬ヒカリさんの右腕に向け、またすぐにこちらに目線を向け直した。
「では、実戦で見せてもらうとしようか」
九十九が指をパチンと鳴らすと4人の人影が森の方から現れた。
「やっと見つけたぞ! 人外どもめ!」
4人が武器を手にやってくる。
一番足の速い少年(?)がまず初めに斬りかかったのは
「私は君たちをここに招待した者だよ。勇者の少年」
九十九だった。軽く身を翻して剣を避けている。
「なんだよ、紛らわしいところにいるなよ」
「ですから、いつも勝手に突っ走らないでと言っているでしょう?」
大柄な男がやってきた。この姿は知っているオリバーだ。
「オリバーは黙ってろよ!」
「やぁ、久しぶり……でもないですね、皆さん」
オリバーには軽く手を振ってあいさつした。
「そうよ! コレらをやっつければウチラって億万長者になれるんでしょ? ならブッ倒すしかないわよね!」
やけに息巻いているのは白い衣装の魔女かな?
「我武者羅に走っても成果は得られないわ。それに、不意打ちは武士道に反する。勇者パーティとしての自覚はあるのかしら? バスラ、イザベラ?」
今度は黒い衣装の魔法使いの淑女だ。このパーティ、キャラ濃いなぁ。
「オリバーもソフィーも硬いのよ! 不意打ちでもウチらが勝てば同じこと」
「待って待って、話が全然見えてこないんだけど。というか如何してここにたどり着いたの?」
頭で考えるよりも先に口が動いていた。
「お前たちに討伐依頼が出ている。国から直接ね」
ダメだ、全ッ然理解が出来ない。
「うおっと。急に斬りかかるなんて……」
「止めなさいバスラ。今のあなた、いや、私たちが束になっても敵う相手ではないわ」
静かに制止するソフィの話はまるでバスラには届いてないようだ。
「人外をこの世から排除する。それが王の、父さんの願いだ! 中級魔法【衝撃波】」
「そうだよバスラ。こんな奴らやっつけちゃいましょう! 中級魔法【爆炎】」
風と炎の合体技。相性が良く相互作用で高火力も狙えるらしい。
真っ赤な炎はまっすぐこちらに向かって飛んできた。ヒカリさんが一歩前に出て防御魔法を展開しようとするのをあたしは静止した。
「ヒカリさん。これは九十九が見たがってたやつだから」
炎がいよいよ直撃する。その瞬間に――
「複製完了。特級魔法【反復】!」
先ほどこちらに向かってきた炎はより大きく成長し、逆方向へと走り出した。
「なるほど! 面白いじゃないか!」
魔法を止めたのは九十九だった。
「お前、どういうつもりだ?」
「私は彼らのことが知りたかったのだよ! 君たちを使えば巡り合えると思ってね」
九十九は不敵な笑みをバスラに向けた。
「賢明な大人の言うことは聞いた方がいいよ少年。悪い大人に利用されかねないからね」
「チッ、どいつもこいつも僕のことを誰だと思って――」
「バスラ!」
「なんだよオリバー」
「花を踏むなと、いつも言っているよな?」
バスラは先ほどの炎と見分けがつかないくらい顔を赤くしてシニエストロの方向へと走り去っていった。
「バスラ!? ちょっと待ってよー」
イザベラもバスラを追って飛んでいった。箒で。
「なんだか騒がせてしまったね」
申し訳なさそうな顔でオリバーは言った。
「では、今後最悪の再会をしないことを願うよ」
オリバーとソフィーも帰って行ったようだ。なんだか嵐のような出来事だったなぁ。
「ずいぶんと騒がしい勇者パーティね? 九十九は彼らに協力を?」
「さっきも言ったじゃないかサラ。利用しただけだよ、そこの二人の天使様に会うためにね」
九十九があたしたちを指さして話し続ける。
「あの時の炎は今と同じ状況だった。もっとも、あの時発動していたのは爆炎だけだったけど、城に吹き込む風がソレを作り出していた。近くで見たことでよく分かったよ。猫耳の君はユイ……何かな?」
「ユイ。ユイ・ラハシュ・マスティマ」
「なるほど、堕天使らしい名前だ。本当の名前は詮索しないでおくよ」
それはありがたいことだ。あんな最悪の家族からもらった名前は使いたくない。ただ、堕天使の名前はまるで呪いかのように書き換えることができない。
「君には2つの特別な力がある。そうだね?」
確かに魔法とは別に特別な力を2つ持っている。上位複製と蒼の烈響。
「そしてもう一人の、こちらは大天使様かな? ぜひともフルネームが知りたいね」
「……ヒカリ・エルトライト」
「へぇ、エルトライト一族の……ならば納得だ。そういうことか」
一体全体何がわかったというのか。
「サラ、お前が説明してやれよ。私たちのかつての研究は正しかったってな。少し取り出したいものがある」
「はぁ、やっと話振られたと思ったら九十九ったら」
「サラお姉ちゃん何か知ってるの?」
「ちょっとだけね。ただ、今から話すのはただの噂程度に過ぎないと思ってちょうだい」
ヒカリさんは何かを察したかのような顔をして少し離れたところに腰かけた。寂しそうに空を見上げている。
「ヒカリさんはあまり聞きたくないみたいね、じゃあユイちゃんにだけ話すわ。私たちの昔話を」
★
この世界とよく似た平行世界では魔法と同じくらい錬金術が発展していた。
その世界には誰もが憧れる職業があったわ。魔法使いと錬金術師の融合。通称クロッサー。
私たちはクロッサーだ、超エリートの。
様々な分野で優秀な成績を収めた。私は医療で、九十九は魔導器で賞を取ったの。
あるとき私たちは平行世界へのアクセスを試みた。正直結果はあまり喜ばしいものではなかったかな。およそ180年前のこの世界、ちょうどこのあたりと繋がったの。180年前のこのあたりでは戦争が起きていたのよ。人間達の暇つぶしと知ったのは私がこちらの世界に移住してから知ったわ。
戦時中にゲートを開いたせいで光線やら何やらが飛び込んできてあちらの研究室は滅茶苦茶になってしまったの。それでも研究の成果を見届けたかった私たちはそのゲートから見守っていたわ。そしたら真っ黒な光線が見えてね、その直後位に今にも燃え尽きそうな大天使がこちらに舞い込んできたの。
生命の移動が可能なことに歓喜する余裕は無かったわ。当時の私には人間以外に対する医療の心得がなかったから。目の前で消えようとしてる命の炎を見届けることしかできなかった。名前も知らぬ彼女は死に際にこう言っていたわ。
「アタシは、あの子を護りたかった。愛よ……永遠となれ」
そのあとすぐに彼女の翼が真っ黒に変わったと思ったら全身が炎に包まれて燃え尽きたわ。
私は悔しかった。救えたかもしれない命に何もできなかった。
たくさん研究した。薬の研究もしたし毒の研究もした。魔法だけに頼るのは万が一の時に困ると思ったから。魔法が使えない民のために寝ずに研究した。
九十九は護りたいものを護るための魔導器の研究をし始めたわ。身体の弱い民でも使いやすい武器を、身を護るための防具を。
共同開発した身を隠すための透明薬が飛ぶように売れたけど、これは想定とは違う使われ方で広まってしまってね、その責任として私たちが世界を追われることになったの。
そして私はこの世界に来て、キノコに秘められた謎に興味を持ったわ。毒キノコを食べるようになったのはその頃ね。
九十九は別の世界に向かったようだからその間のことは知らないわ。
★
「さて、私の方は話し終わったわよ。あなたからも少し話して」
「はぁ、探し物はまだ見つかっていないんだけどなぁ。この4次元鞄開発したのは誰だい?」
九十九は鞄に腕だけでなく頭まで突っ込み悪態をつきながら探し物を続けている。
「あんたが作ったのよ、九十九。さ、あなたが知っていることについて話しなさい」
「はいはい分かったよ」
九十九は「はぁ……」と深いため息をつきながら観念した様子で出てきた。
「アタシはサラが世界を移動するのを見届けた後、また別の平行世界にゲートを繋げ直してそっちでしばらく旅をしたよ。そこである大天使と出会ったんだ。名をラフィ・エルトライトと言った。彼女も異世界転移をしたようだった。しばらくは一緒に旅をしていた。その時に教わったんだけどね、どうやらエルトライト一族には”色の烈響”が継承されやすいらしい。残念ながらラフィは世界間が繋がっていないときに亡くなってしまったから、彼女の持っていた烈響は未来永劫継承されることはないというのが私の研究だ」
「ボクの実家に関するお話は終わったかな? そろそろユイちゃんを返してよ」
すごく不満げな声でヒカリさんが後ろからハグしてきた。おっぱいを肩に乗せないでよ、重いよ。
「嫉妬深いのは嫌われるよ?」
「大丈夫よ、九十九。ヒカリさんはいつもこんな感じだからユイちゃんも慣れてる」
九十九は納得したような顔をした。なんだよその顔は。
「九十九、探してたのってこの2つの箱?」
サラお姉ちゃんが九十九の持っていた鞄に手を突っ込み2つの大きな箱を取り出した。2つとも厳重なロックのある箱だが、どちらも最近作ったような感じのする新しそうな箱だ。
「そう! やっぱりあんた天才だね?」
「なんでもこの鞄に入れるのが良くないわよ九十九」
「ぐうの音も出ないわ。さてこの2つの箱の中身はかなり強力な武器なんだ。天使2人へのプレゼント」
箱にはメモが乱雑に張り付けてあり、片方には冥黒龍、もう片方には冥光と書かれている。
「これって……どっちがどっちのなの? 箱の大きさ的に武器種自体が違うよね?」
「冥黒龍がユイ、冥光がヒカリ。それぞれ中身は開けてみたらわかるよ。この世界に来る前の世界で手に入れた代物でね、どっちも面白い武器なんだけどアタシの手には余るのでね? 上手く使いこなせそうな奴を見つけたら渡そうと思っていたんだ。手に取ったら使い方が学習されるようにアタシがいろいろ弄くった。安心しろ、爆発はしないし罠も仕掛けてない」
そんなこと言われても不安なものは不安だよ。それにこの厳重なロックはどうやって開ければいいのやら。魔法で閉じられてるのか解析してみるか。
「そんな難しく考えなくても【ひらけゴマ】とか唱えたら開くぞ?」
いやいやそんな馬鹿な。
「【ひらけゴマ】」
いやいやいやいや、ヒカリさん。開くわけない――
「開いたよ、ユイちゃん」
いや開くんかい!
「時にこういうロックをかけるとみんな難しく考えるものよ。あえて一番簡単ともいえる合言葉で鍵をかけるとは、誰も思わないでしょ?」
確かに思わなかったけど、なんかちょっと腹が立つかも。
「【ひらけゴマ】。ほんとに開くじゃん」
想像よりもはるかに簡単に開いたその箱の中には龍の頭があしらわれた黒い太刀が入っていた。
柄を握ると頭の中に声が響いた。
「貴様が余の継承者か。良いだろう。此の力、存分に使うがよい」
武器の使い方のイメージが頭の中に流れてきた。通常は太刀として扱うらしい。だがこれの絵についているトリガーを一度引いてから振ることで蛇腹剣として機能するようだ。
「これ面白い武器だね」
「だろ? アタシが持っても言うこと聞いてくれないんだよそいつ。使いこなせそうな奴がいて良かったよ」
魔法の杖が使用者を選ぶみたいな話はあるらしいが武器にもそれがあるのか。
そういえばヒカリさんはどうしたんだろう。声が聞こえない気がする。不安になったのでヒカリさんの方を見ると箱の中に手を入れたまま固まっている。
「ヒカリさん? ヒカリさーん?」
呼びかけながら近づいたけど全然気付いてくれない。
「――っは!?」
ヒカリさんが急に立ち上がった。箱の中にあったのはどうやら弓のようだ。
「これって……」
「どうしたのヒカリさん?」
「いや、何でもないよ。ただ相当面白くて相当危険な武器ということが分かったかな」
危険? そんな感じはしなかったんだけど。
「そう、危険なんだよその武器たち」
「あの二人にそんなものを渡さないでよ九十九」
サラお姉ちゃんが本当に困ったときのため息をついている。
「いやいや、あの二人なら使いこなせるよ。サラ」
「ヒカリさん、それはどんな武器だったの?」
「これはね、弓は弓なんだけどこうやって力を込めてやると――」
ヒカリさんが弓の柄に両手をやると弓が2つに分かれた。
「双剣になるっていう武器らしい。闇属性の武器みたい」
確かに、見るからに禍々しいオーラを感じる。
「はっはっは! やっぱり君たちなら問題なく扱えると思ったよ。魔族の国へ行くのだろう? それがあれば君たちの望みは叶うさ。では私はまた別の世界行くとしよう。サラ、元気でな」
「あなたって本当に嵐のような人ね、九十九。無事に旅するのよ」
九十九は水薬を鞄から取り出しそれを飲むと姿が見えなくなった。
「なんだかすごい人なんだね」
「さぁね? 九十九はずっと平和のために武器の研究をしていたわ。まさか見るからに闇属性の武器を持ってくるとは思わなかったけれども」
確かに平和のために闇属性の武器は不思議だ。
「じゃあ、またあの勇者たちが来る前にサグラードに向かおう」
少し歩いたら大きな渓谷が現れた。石造りの大きな橋がかけれれている。
「ここを渡ったらサグラード領だよ。安心して、魔族と人間は平和協定を結んでいるはずだから私たちが攻撃される可能性は低いと思うわ」
「でも、これまでサグラードの人間と関わってきた感じだと……」
「人間達が魔族を非合法に襲っていてもおかしくないとボクは思うよ。180年前も、気まぐれで戦争始まったからね」
やっぱり人間達の方が自分勝手じゃないか。魔族を総称して"悪魔"としている文献は天界にも人間の国にもあった。でも実際に関わったり真実を紐解いたりすればするほど人間達の方がより悪者に感じてくる。
橋を渡り切ると魔力の流れが変わったような気がした。
「ここからはサグラード領。平和を求める女性の魔王が統治する国」
ここまで読んで下さりありがとうございます!
シニエストロ編はいったん終了です
次回からはサグラード編です
第二章であることに変わりは無いのですが
~ひとくちプチ情報~
バスラ君はその名前の通りの性格をしています
ヒントはスペイン語です
横暴で酒カスでという
父親が国王ということに甘えてますね
ファザコンな成人男性というレアキャラです
本作の悪役担当です。勇者なのにね




