第二節 シニエストロの王はヤベー奴?
あたしの知らにうちに偉い人に呼び出されていたみたいで、ヒカリさんに腕を引っ張られながら向かった。
なお、時間的には日付を超えて少し経ったくらいの真夜中も真夜中だ。道中の街中も明かりと言えば月か星くらいだ。
シニエストロ城、玄関から長い廊下の先に大扉がある。
「やぁ、昨日ぶりですね。王からの呼び出しを受けのはあなた方でしたか」
そこにいたのは城門のところで出会ったオリバーだった。
「そうみたい、ところで話し方違うね?」
「俺の自然体はこっちなんです。さぁどうぞ、王がお待ちです」
謁見の間大扉を開けると大きな声がした。
「ようこそシニエストロ城へ!」
恐ろしく広い空間に複数の扉、窓としての役割のソレは存在せず、代わりに豪華絢爛なステンドグラスがある。あとは横幅の無駄に広い階段。その上の玉座に鎮座しているのが
「私が国王のダニエルだ」
国王直々のお呼び出しかよ! もう深夜なんだから寝ろよ!
「どうぞよろしく、黒き翼のお二人。自己紹介は結構だよ、他に一緒に来た者たち含め名前は既に抑えている」
あたしはヒカリさんを見た。ヒカリさんは国王、ダニエルをまっすぐ見ている。すごく冷たい目をしていた。
「おっと、そちらのお姉さんの方は肝が据わっているようだな」
「ええまあ、240年ほど生きていますので」
「ほう? 天界は長寿と聞くがここまで若く見えるものなのか」
何だあの国王。ヒカリさんに対して失礼じゃないか!
「もう一人の方は感受性が豊かなようだ。さてはお主、若いな?」
やっぱり失礼じゃないか! なんなんだコイツは。この世界での20代は確かに若い方なんだけどさ。天界出身というのもあるし。
「あなたはずいぶんと還暦がありますね、王様?」
ヒカリさんそれはちょっと言いすぎだよって思った。
まあ事実、王の髪や髭はすべて色が抜けて白いし頬には複数の傷跡がある。もともとは歴戦の戦士って感じもする。玉座の横には大剣が置いてあるし。
「ふん、まあよい」
あ、少しだけ唇が震えてる。怒らせちゃったかな?
「本題に入ろう。お主らを呼び出したのは城門の衛兵の件だ」
三人の間に少しの沈黙があった。全員がお互いを探り合っているようだ。
最初に口を開いたのは国王だった。
「まあ彼も人間ではなかった。彼から聞いたと思うが現在この国では非人間に対して厳戒態勢を取っている。今回のお主らはオリバーに免じて許そう」
「オリバーはあたしたちが人外だって気付いてたってことですか?」
「左様。オリバーもこの国の勇者パーティの一員だ。そのくらいの目は持っておる」
あの時にバレていたならオリバーはなぜ……?
「あの衛兵、アベルは天使の一族ベルティ家の生まれ。そして今ボクの横にいるユイちゃんの弟よ」
「ちょっとヒカリさん!? あいつが本当にあたしの弟かは確定していないでしょ?」
そうは言ったものの、自分で信じたくないだけなのだ。少なくともベルティ家の紋章が奴の手の甲に刻まれていたのだから。兄や姉の子供という可能性も捨てきれないが、どちらにせよ近い血統であることに違いはない。あたしは神力を持たないから紋章は刻まれなかったんだけど。
新たな情報に対して国王の反応はというと、少し眉を動かした程度で他には何もなかった。
「アベルはきっとしばらくは戻ってこないわ。ベルティ家は任務の失敗には厳しいって噂だから」
「ヒカリさん、あたしよりベルティ家に詳しいね」
「ただの腐れ縁よ」
へぇ~、ヒカリさんってベルティ家とそんなに交流があったのか。だから出会えたのかな?
「残念! お前の予想はハズレだよ、ヒカリ」
何処からともなくその声が響いた。そして明かりがすべて消えた。
「何者だ!」
国王は立ち上がり大剣を手に取った。
「やだなぁ王様。アベルですよアベル」
王の背中側の壁が爆発音とともに吹き飛んだ。そこには真っ白な翼を広げ、神力の残滓を纏うアベルがいた。さっきの爆発は彼の魔法によるものだったようだ。
「お前、私に人間だと嘘をついていただろう?」
いやいや、他にもっと問うべきものがあるでしょう。煌びやかなガラスが粉々になってしまったのだから。
「気付かないほうが悪いですよ?さぁ、小さい方の天使を差し出してください」
アベルはあたしの方を指さしながらそう言った。
「彼らは我が国で処理する。天使族とはもう手を組まない!」
あー、どうしてこうあたしはすぐに他人の喧嘩に巻き込まれるのだろう。
ヒカリさんとサラお姉ちゃんの喧嘩もそう。獣人の里とこの国の戦争もそう。昨日のオリバーとアベルもそう。
「ああそう。じゃあ、こうしましょうか」
アベルが軽く翼を動かすと彼は先ほどいた場所から消えていた。
「アベル、お前今どこにいる?」
「王様が知る必要はないよ。さぁ、ジョセニアを差し出さなかったことを後悔しろ」
先ほど開けられた穴から炎が吹き込んできた。これは中級魔法【爆炎】。魔法の組成を見るにアベルが場所を離れたら自動で発動するようになっているみたいだ。つまりアイツはもう近くにはいない。
「チッ、これだから人外どもは嫌いなんだ。おい! そこの二人を取り押さえろ! 残りの者も捕まえて連れてこい。鎮火もしろ」
王がそう言うと周りの扉から長柄武器を持った兵が複数人出てきて外へと走り出した。一緒に消火器を持つ奴隷服の人物も何人か出てきた。
「それはさせないよ。ボクらは何も悪いことをしていないもん。アベルが勝手に襲ってきて勝手に逃げた。だからボクたちに責任はない」
ヒカリさんが静な怒りをあらわにしている。右手には弓の影がうっすら見えた。
「ごちゃごちゃ五月蠅い! オリバー! 連れていけ」
「仰せのままに。さあお二人、ついてきてください」
いつの間にか後ろの扉から入って来たオリバーに肩を叩かれた。
「でも――」
「ついてきてください。今は、そうするしかないんです」
どこか諦めたような顔でオリバーが言った。
「わかったわオリバー。今はあなたに従うわ。ユイちゃんもそれでいいよね?」
「まぁ、ヒカリさんが言うなら仕方ないかな」
「ありがとう。ではこちらに」
あたしたちは謁見の間を出て横に伸びた廊下の先へと歩き出した。その間もずっと王は怒りを顔に浮かべ、奴隷たちは鎮火に走っていた。
「すみません。王の前ですのでお二人をまっすぐ帰すことはできないんです」
オリバーの表情からは心からの謝罪が見て取れる。優しい青年なんだなって思った。
廊下は斜面になっていて螺旋状に若干下っている。何らかの魔法で引き伸ばして地下につなげているようだが、この世界に存在するものとは別の力のようであたしのスキルをもってしてもそれを特定することはできなかった。
「ねえオリバー。この先って地下牢でもあるの?」
「さすが大天使一族は鋭いですね」
辺りの空気だけでなく壁や床、天井までもが冷たいものに変わってきたころようやく会話が再開した。
「でも生命の気配がしないよ?」
「ユイさんも鋭いみたいですね。そう、この先に生命は居ません。うっかり誰かが逃げ道のことを漏らしてしまうので」
ふーん、逃げ道あるんだ。しかも言っちゃうんだ。
「さぁ、ここが二人の牢屋です。心配しないでも大丈夫、すぐに皆さんとは会えますから。俺はここの鍵を閉めて王に報告しに行きます」
ガチャン。牢の鍵が閉められてしまった。
「オリバー、もしかして最初からあたしたちを?」
オリバーはシーッと人差し指を口の前に立ててこう続けた。
「まぁまぁ落ち着いてください。ベッドの下には何もないですから探さないでくださいね。いいですか? 何もないです。動かしたら元の位置に戻しておいてください。怒られてしまいますから」
意味深なことを言い残してオリバーは来た道を戻っていった。
「ねえ! ちょっと、オリバー!」
大きな声で呼んだが彼は振り返ることなく去って行った。
「ユイちゃん、ちょっと静かに。あと手伝って」
ヒカリさんがベッドの下を覗いている。いったい何をしているのか。何もないと言われたばかりなのに。
「脱出口があるわ、静かにベッドを動かすよ」
え?なんだって?
嘘だと思いながら言われた通り静かに動かしたら、すごく分かりづらい隠し扉が出てきた。
「ボク、先に行くよ。すぐについてきて、ベッドに位置修正の魔法かけたから十数秒で元に戻るよ」
ヒカリさんはどんどんと下に降りて行ってしまった。
「え、ちょっとヒカリさん待ってよー」
あたしが降り始めたと同時に仕掛け扉が閉まりベッドが元の位置に戻る小さな音が聞こえた。
★
「オリバー。そちらは済んだか?」
「はい。2人とも間違いなく閉じ込めました」
王様は不敵にほほ笑んだ。
「これでまた国から不純物が消えたな」
「ところでアベルという天使はどうしたんですか?」
今度は微笑みから一変して冷たい怒りのような表情に変わった。
「あいつはあの炎の前に逃げおったようだ。いい度胸だと思わないかね?」
王の質問に対し何も答えることなくオリバーは何も言わずにその場から立ち去った。
そんな現場を見守る人物が一人いる。私だ。
そもそもヒトであるかどうかは置いておくが。
「さて、面白そうなものたちを見つけたな。ククッ、あの大天使の横にいた子、あの子が一番面白そうだ」
陰からコッソリ追って正解だった。そもそも、透明薬のおかげで物音さえ出さなければ誰にも気付かれないが警戒に越したことはない。
「さて、私もそろそろ動き出そうか。あの子たちを探さないといけない」
足音に気を付けながら未だに炎の消えないその城を後にした。
★
「ねえヒカリさん、今どのくらい進んだと思う?」
隠し扉の下は水路になっていた。猫の力を使えばこんな暗いところでも辺りが見えそうだが、変に人外の力を使うのは良くないと思い小さな灯をともしてそれを頼りに歩いている。
「ユイちゃん、そろそろ出られると思うからボクにつかまる力緩めてくれない?」
「えっ?」
あたしは絶対にはぐれたくないという気持ちと、怖いという気持ちからガッチリとヒカリさんにつかまっている。
「ほら、出口に着いたみたいだよ?」
「ほんとだ、光が見える……ってことはもう朝?」
水路の出口からオレンジ色のような青のようなそんな色が見えた。どうやら早朝のようだ。
「おーい!ユイちゃんたち帰ってきたよー」
この声はサラお姉ちゃんだ。間違えるはずがない。絶対にサラお姉ちゃんだ。
「はぁ、全く面倒を起こしてくれたなぁ。あとで覚えておけよ」
文句を言う声が聞こえたが再会した時に見せた顔は泥だらけでどこか安心した様な表情の青年――
「ミドリ兄さん、もしかして一晩中探してくれたの?」
「……うるせっ」
あぁもうミドリ兄さんったらツンデレなんだから。そういうところがかわいいんだから。
「みんな揃ったならとっととこんな国から逃げ出しちゃいましょう」
城門で酷い目に遭い、王に呼ばれたと思ったら酷い目に遭い、今では事実として脱獄犯となってしまった。国に残っていたらどんな目に遭うか分からない
「逃げだすも何もここは国の外だぞ、ユイ」
「え?」
意外だった。てっきりこの先は隠れながら逃げないといけないのかと思ってたから。
「この水路、城から国の外につながっているんだ。下水じゃないから安心しな。城の向こうを流れてる川をここにつなげているだけなんだ」
頭のいい人間もいるんだなぁ。
「やぁ! ちゃんと抜け出せたみたいですね」
これはオリバーの声だ。後ろから声をかけられたので驚いてしまった。
「いやいやそう警戒しないでくださいな。何もしないですから。これは警告です。ほかの勇者パーティに見つかる前に早くこの場から発ってください」
オリバーは深刻そうな顔で続ける。
「とくに勇者のバスラと白魔女のイザベラには見つからないように。彼らは誰であろうと容赦しません。できるだけシニエストロから遠くに行って下さい。いいですね?では、あなたたちの幸福を祈りますよ」
オリバーは早足に去って行った。そして遠くからこう聞こえた。
「あっちにはいなかった! 別の水路から抜けたかもしれない! そっちを探すよ」
この感じ、折翼者として追われているときに似ている。
「早く去ろうここから」
あたしはそう言った。
「そうだな、俺は別行動する」
ミドリ兄さんから発せられた言葉は予想外のものだった。
「え? ミドリ兄さんそれはどういう?」
「お前たちは魔族の国、サグラードへ行くと良い。俺は里が不安だから一旦戻る」
ミドリ兄さんには何か考えがあるのだろう。いつもこれ以上追及すると怒るから今回は聞かないでおこう。いや、聞かなくてもなんとなくわかる気もする。
「じゃぁしばしの別れね、ミドリ。あの感じだと今は里で頼れるのはあなたと長老くらい。くれぐれも無茶はしないように」
しれっとアオイ兄さんが頼れないみたいな言い方したなぁサラお姉ちゃん。アオイ兄さんが戦闘向きではないというのはそうだと思うけども。一応戦闘面でも強いが、喘息のせいで持久力がないという弱点がある。
「わかってるってサラ姉。じゃぁ、またな」
ミドリ兄さんは狼の姿に変身すると風よりも早く走り去っていった。
「じゃぁあボクたちはサグラードに向かおうか」
ヒカリさんが身体を伸ばし、ついでに翼も伸ばしながら言った。伸びをすると気持ちいいもんね。それやるのわかる。
「ヒカリさん、サグラードはどんな国なの?」
「うーん、天界の文献は人間国を支持するようなものばかりで詳細な記録はなかったけど、数少ないサグラード側の文献を見る限りはシニエストロよりはいい国だと思うよ」
サラお姉ちゃんにも聞いてみようと思ったが彼女はミドリ兄さんが心配なのかそちらの方向をずっと見ている。
「大丈夫よサラさん。あの里なら大丈夫」
「――そうね。大丈夫。信じていればきっと大丈夫。あの子も、アオイも……」
ここまで読んで下さりありがとうございます!
やっぱり物書きに詳しい友達に一旦読んでもらうのって大事だなって思った。
手伝ってくれてありがとう!
~ひとくちプチ情報~
途中で出てきた透明薬の人物
深夜にネタで考えてそのまま採用された人です
つまり元々は予定されていなかった人なんですが意外とキーパーソンになりそう
名前を九十九 百といいます
詳しくは次回




