第九節
「なんだと......」
当然の驚きだ。だってあいつは神力を持っていない。
持っていない......そのはずだった。恐れていたことが起こった。
「まさかアレが発現してしまったのか」
「そうよセルビオ。ユイちゃんはあの力を持っている」
神魔烈響と呼ばれるスキルが存在する。それは誰もが持ちえるような力でもなく、そのスキルを持つ者でも違う力だったりするらしい。
「ユイちゃん。超高位の烈響じゃん! すごいわ!」
超高位だと? この俺よりも上だと?
「赦さないっ! 俺はお前を赦さない――!」
「邪魔はさせないよセルビオ。そもそも、そっちに行っても巻き込まれで死ぬだけよ」
死ぬ? まさか。不死の呪いは俺にもあいつらにも影響している。こいつを巻き込めば......
★
足元には蒼い霧が広がっている。この場に存在しているすべての魔法が手に取るようにわかる。
いつだか本で読んだ気がする。学習スキルの最上位、上位複製の効果。まさか自分が持っているなんて
「エラディオス、いい魔法を知っているね」
「なんだと? 僕の作った魔法が書き替えられただとっ――?」
「魔法創作はスキルだからコピーできないけど、あんたの作った魔法ならコピーできるみたいだね」
エラディオスの作った魔法。昔見たことあるのを思い出した。大きく貯めた神力の塊を無数に分散させ、そこから拳大の小岩を降らす魔法。
防御系の魔法に特効があってすぐ割れてしまうので避け切るか撃ち返すくらいしかないという闇黒魔法【小岩の雨】。
何度も見てきたその魔法をコピーすることなど今のボクには造作もなかった。
「魔法構造を読み解いて無駄を省く。これであんたよりも素晴らしい小岩の雨が使える」
腕を振り上げるとボクの上で渦巻いていた大きな力が弾けた。やがてそれは石へと形を変えて辺りに降り注ぐ。
倒れたまま動かないモリフェルに、斬り落とされたセルビオの右腕に。そしてヒカリさんたちの方へも。
「防御魔法が効かないならお前が盾になれよヒカ」
「ヒカリさんを傷つけるのはやめてくれるかな? セルビオ」
左手を彼らに向けるとそちらに飛んで行った石は動きを止めた。
「はははっ、まだ僕が後ろにいることも忘れましたか?」
「忘れてないよ、エラディオス。あの石はあんたが喰らうの」
ヒカリさんたちの目の前で止まった石も、今まさに無造作に降り注ぐ石もすべてがエラディオスに向けて動き出した。
「なっ、この魔法は――」
飛んでくる石を避けたり弾き返したりしながらエラディオスは驚いたようなそんな顔をしている。
「さすがユイちゃん! 無詠唱で追尾を使うなんてすごいわ!」
ヒカリさんは大興奮だ。
「おいヒカリ、あいつが少しでも間違えたら――」
「ユイちゃんに限ってそんなことはないわっ!」
ヒカリさんが弓を構えた。矢先はすぐ目の前にいるセルビオの顔に向けられている。
その間もなおエラディオスは飛んでくる石に奮闘している。だんだん処理が追い付かなくなり、肉を抉っている。
「ほら。撃てよヒカリ。俺は今左腕しか使えない、倒すなら今だろう?」
少しの静寂があった。石が物に当たる音だけが聞こえる。
「はぁ。つまらないわ」
ヒカリさんは構えていた弓を下ろした。
「おいおい、せっかくのチャンスを――」
なにかを言い切る前にセルビオの声は悲鳴に置き換わった。足に、的確に指先に矢が刺さっている。
「クッソ......兄さん!」
「セルビオ......これは厄介なことになりましたね。まさかジョセニアがここまでの力を使えるとは思いませんでしたよ」
降り注ぐ石の猛攻を耐えしのいだエラディオスとセルビオが合流した。
その隙にボクはヒカリさんと合流した。
「兄さん、ここは一旦引こう。これじゃ不利だ。父さんの身体を頼めるか?」
「そうですね。神魔烈響の発現に間に合わなかったのが運の尽き。対策し直さないと」
エラディオスがなにやらボソボソと唱えるとモリフェルの身体はどこかに転送された。
「では、僕たちはこれで」
「楽しそうなことしてるのに私を混ぜてはくれないの?」
ナイフが数本飛んできてセルビオの右肩に1本刺さった。
「なんでまた右腕なんだよ......誰だ!」
ナイフが飛んできた方向を見ると見慣れた長身の女性が立っていた。
「サラお姉ちゃん!」
「おまたせ~。人間達思ってたよりも弱くってさ、君たちを探しに来ちゃったよ」
「サラさん、一体どうやってここに?」
「ユイちゃんの気配を追って来ただけよ」
サラお姉ちゃんの変態っぷりには敵わないや。自分でも今どこにいるのか分からないのに。
「おい、セルビオ。あいつらが油断している隙に帰りますよ」
小声でやり取りするベルティ家の兄弟。ボクにはしっかり聞こえていた。
「逃げるの? 兄さんたち」
「勝手にそう思ってろよジョセニア。引くのも時には大事だろう?」
「二度と来るな!」ボクが言った。
「二度と来ないで!」ヒカリさんが言った。
「二度と来なくていいわ!」サラお姉ちゃんが言った。
同時に発言し、同時に攻撃魔法を放ったがソレが当たる前に奴らは姿を消していた。
「さぁ、帰る前にサラさんに一つだけ聞きたいことがあるの」
「何かしら」
2人の顔がいつも喧嘩する前の顔に見えた。なんだか重い話になりそうで嫌だなぁ。
「一体どうやってここに来たの?」
サラさんがここに来てすぐにしたのと同じ質問だ。ヒカリさんがこうやって真剣に質問するってことは気配を辿っただけじゃ入れないような場所なのか?
「......気にしないで。」
「そう。」
「ねぇ2人とも」
一瞬の静寂の後にこう続けた。
「帰ろう?」
――14年後。
兄たちが襲ってきてから14年、22歳になったがあれから彼らには会ってない。天界に帰って何をしているのか、結局"15年の壁"が何なのかもこれではわからずじまいじゃないか。
ところで大きく変わってる点と言えばあの後から身体が完全に女体化し猫族と同じ姿になっていることだ。ちなみに一人称もあたしに変えている。
「いやぁ、ユイちゃんが女の子になってボクは嬉しいなぁ」
「ヒカリさん、ユイちゃんがか女の子になったのは私がニョタイカダケを食べさせていたからよ!」
これは女の子の身体から戻れなくなったと気付いた時のお姉さん2人の反応だ。この後いつも通り喧嘩してたのは言うまでもない。
「しかし驚きですね。純血の天使族が獣人の姿になるなんて」
アオイ兄さんはそう言っていた。これについては五禁則その4の下界の知的生命体の血肉の摂取を禁止が関連していそうだという結論に至った。
アリスの事故の時に血を摂取していたのだろうと。彼らの言う発現にソレも含まれていたのだろうと。
しかし生活には困らない。猫の姿でいれば一人になりたいときに隠れられるからね。まぁ、獣人族は大抵鼻が利くからすぐにバレちゃうんだけど。
「ユイちゃん、今日は取れたて卵のオムライスだよ」
サラお姉ちゃんに呼ばれた。
あぁ、今日も平和だ。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
~ひとくちプチ情報~
一人称を変えたのはヒカリさんとの区別がしやすくなるからというのもありますが、作者が作っていた元々の設定に合わせに行っただけです。
今後FANBOXに設定集を載せようかと思います




