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第30話 園遊会(前)

 今日は王妃様主催の(ロイヤル)(ガーデン)(パーティー)だ。

 高位貴族は大体呼ばれるのだが、今回は光栄なことに、お父様やお母様だけでなく娘の私にも招待状が届いた。


 会場は、花盛りを迎えつつある城の薔薇園とその周辺。

 薔薇よりもなお色とりどりのドレスを着た貴婦人とそのパートナーが、賑やかに世間話に花を咲かせている。

 両親も早速知り合いの貴族達と話し込み始めたので、私は一人で別行動を取る事にした。

 同年代の貴族子女もかなり来ているようなので、挨拶をしておきたい。



「リナーリア様、ごきげんよう!」

「ごきげんよう、カルネリア様」


 早速声をかけて来たのはカルネリア様だ。

 公爵令嬢である彼女ももちろんこの園遊会に招待されていてる。


「私、こんなに人が多いガーデンパーティーって初めてだわ。さすが王妃様ね」

「そうですねえ…」


 私もこの規模のパーティーは今世で初めてだ。少し緊張しながら周りを見回すと、知り合いの姿を見付けた。

 向こうも私達に気付いたらしく、こちらへとやって来る。



「やあ、こんにちは、カルネリア嬢。それに、リナーリア」

「アーゲン様、こんにちは」


 上品な微笑みを浮かべた黒髪の少年の名は、アーゲン・パイロープ。

 五大公爵家の中でも最も強い権力を持つパイロープ家の嫡男で、私達とは同い年だ。

 公爵家の跡取りな上に爽やかで人当たりが良く、ご令嬢達からとても人気がある。


 一見私などとは関わりがなさそうな名家の子息だが、パイロープ領とうちのデクロワゾー領は比較的近い。

 食糧やら希少鉱物やらあれこれ取引があるし、我が家が王都と自領を行き来する際にはほぼ毎回パイロープ領を通るため、それなりに親しくしているのだ。


「おや、二人共、とても素敵なリボンだね。お揃いかい?」

「ええ、そうなの。私はリナーリア様の瞳と同じ青色のリボンで…」

「私はカルネリア様の髪色の赤いリボンなんです」


 言われて自分の髪へと手をやる。

 これはカルネリア様と二人で城下町にある服飾雑貨の店に行き、選んだものだ。色違いで同じ柄が織り込まれている。

 何でも今貴族の間では、こういうお互いの色のものを身に着けるのが流行りなのだと言う。そう言えば前世でもそんな話を耳に挟んだ事があった。もちろん私には無縁だったのだが。


 女子ってこういうお揃いだとかペアだとか好きだよなあ…。少し気恥ずかしいものの、いかにも友達っぽくて悪い気はしない。

 コーネルに「これで結って下さい」と頼んだ時も、「嬉しそうですね、お嬢様」と微笑ましげに言われてしまった。


 リボンの色はカルネリア様の朱に近い赤毛に比べると濃いめで、むしろ真紅と言うべき色なのだが、カルネリア様曰く「園遊会は屋外でやるでしょ?太陽の下で見たら、このくらいの色で丁度良いのよ」だそうだ。

 今は後頭部に結われているので、自分では分からないのだが。


「なるほど、可愛いね。よく似合っているよ。…でもリナーリアのそのリボン、カルネリア嬢の髪の色と言うよりも…」

「あっ!お兄様!」


 アーゲンが何か言いかけた所で、カルネリア様が声を上げた。

 殿下とスピネルだ。さっきまであちこちの貴族から挨拶を受けていたが、やっと解放されたらしい。



「殿下、スピネル様、ごきげんよう」

「皆、今日はよく来てくれた」

「お招きいただき光栄です、エスメラルド殿下。今年は晴れて良かったですね」


 めいめいが挨拶をする中、カルネリア様がすすっとスピネルの後ろに回った。


「お兄様、髪がほつれているわ。私が直してあげる!」

「ん?悪いな」


 懐から櫛を取り出すと、スピネルの髪を解いてさっと梳き、整え始める。

 いつも持ち歩いてるんだろうか?女子力ってこういうのを言うんだろうな。


「そうだ、水霊祭の時に殿下が興味を持たれていた刀匠ですが…」

「ああ、あれか」


 殿下とアーゲンは雑談を始めたので、私は横で耳を傾ける事にする。

 …それにしても、周りからめちゃくちゃ視線を感じるな。

 王子と従者、さらに公爵令息に公爵令嬢だもんな。しかも全員がとにかく目立つ容姿だ。


 殿下の背筋がぴんと伸びた凛々しい立ち姿はまさに王族の風格だし、スピネルは派手な真紅の髪とすらりとした長身で一挙一動が人目を引く。

 アーゲンもいかにも貴公子然とした優雅な雰囲気があるし、カルネリア様は表情豊かで華やかという言葉がぴったりの美少女だ。

 特に若いご令嬢やご令息がこちらに熱い視線を送っているが…これ絶対、私だけ浮いてるな…。



 ちょっと胃痛を覚えていると、私にも後ろから声がかかった。


「おい、リナーリア」

「…オットレ様。ごきげんよう」


 殿下の従兄オットレだ。また面倒臭い奴に絡まれてしまった。

 今世のこいつはやけに私に声をかけて来る。しかし前世のように嫌がらせをするのではなく、お茶だとかパーティーに誘って来る事が多い。

 どうにも目的が読めないが、きっと殿下への対抗心か何かだろう。半分くらいは断っているが、あまり波風を立てないよう、ある程度は付き合うようにしている。


「またエスメラルドと一緒にいるのか」

「いえ、少しご挨拶していただけです」

「ふん、まあいい。それより聞いたぞ。お前、舞踏会デビューでファーストダンスを兄貴と踊る気なんだってな?」

「…ええ、まあ」

「やっぱりそうか!ハハハ、田舎貴族はろくに相手もいないみたいだな!」


 何だ、私をバカにしに来たのか。別にいいだろ兄と踊ったって。

 ムッとしているのを顔に出さないように努力していると、オットレは笑いを収めてとんでもない事を言い出した。


「ふふん。…だったら、この僕がパートナーになってやっても良いぞ!光栄に思え!」



 …また「は?」と言いそうになるのを、すんでのところで飲み込む。

 何言ってんだこいつ?

 いやもしかして、去年のあれを根に持ってるのか?


 実は去年のオットレの舞踏会デビューの際、私はファーストダンスの相手に誘われていた。こいつは私の事をバカにしているが、自分だってパートナーが見付けられなかったのだ。

 もちろん私はすぐに断った。そんなの絶対にごめんだったからだ。

 まあ建前上は「ダンスが下手すぎてとても務まらないから」という理由にしておいたのだが…。別に嘘じゃないし。


 …しかし、この状況はまずい。これ、どう断れば良いんだ?


 何しろ元々注目を集めていた所にこの申し出、周りの貴族達は皆、興味津々の顔でこっちを見ている。

 こんな所でいつものように適当に断ったら、オットレに恥をかかせる事になる。間違いなく逆恨みされる。

 そうなるのがお互いに嫌だから、普通は人がいない場所で申し込んで来るものなのに…!

 きっと去年の意趣返しのつもりだろうが、なんて身体を張った嫌がらせをするんだ。


 かと言って、この申し出を受ける事は絶対にできない。

 単に嫌だというだけではない、ファーストダンスでこいつと踊れば、私はオットレの派閥に入ったと見られかねないからだ。


 オットレの父である王兄フェルグソンは、かつてカルセドニー国王陛下と玉座をかけて争った男。

 その影響力は未だに大きいし、陛下との仲も良くない。陛下にとっては一番敵対的な勢力と言ってもいい。

 そんな奴の息子とあまり近付けば、第一王子である殿下との間に溝ができてしまう。

 いや、寛大な殿下はきっと気にしないだろうが、殿下の周辺は私を警戒しだすかも知れない。それは困る。



 高速で頭を回転させながら周りに視線を走らせる。

 考えろ、何とかこの場を切り抜ける方法を!

 カルネリア様もアーゲンも、突然の出来事に驚き戸惑った顔だ。殿下と、スピネルも。


「……!」


 咄嗟に閃き、私はスピネルの腕にしがみついた。


「…申し訳ありませんオットレ様、私、先約があるんです!!」

「!?」

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