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番外編・ハロウィン

一日遅れですが、ハロウィン番外編です。

作中の時系列とは特に関係ない小話としてお読み下さい。

「ほら、リナーリア君、これが先日発掘されたばかりの古代遺物だよ」


 セナルモント先生が取り出した謎の古代遺物を、私は興味津々で覗き込んだ。

 手のひらサイズの金属製の何かの道具。平べったい円盤を囲むように、更に3つの円盤が三角形に配置されている。


「一体これは何なんですか?」

「ちょっと見ててごらん。こうして手で回すと…ほら!!すっごく回る!!」

「わあ、凄い!!」


 ほとんど音もなく、その場ですごい勢いで回転している。


「実に精巧な作りですね!手だけでこんなに速く回転するなんて…しかも、ちっとも勢いが衰えません」

「そうだろう、そうだろう!一体何の道具なんだろうねえ!?これって何の役に立つんだろう!?」

「まるで分かりません…回転エネルギーをどこに伝える訳でもない…もしかして何かの部品…!?」



 ああでもないこうでもないと言い合っていると、研究室のドアがノックされた。

 顔を覗かせたのはビリュイだ。数少ない女性の王宮魔術師である。

 あのシェルターの件以来私はよくこうしてセナルモント先生の研究室を訪ねていて、おかげで前世ほどではないものの幾人かの王宮魔術師と顔見知りになっている。ビリュイはその一人だ。

 女性同士という気安さもあるのか、会う度に親しげに挨拶をしてくれる。


「おや、ビリュイ君、どうしたんだい?」

「特に用はないのですが、リナーリア様がいらっしゃっているようでしたので。…先程、王子殿下とすれ違いました。これから裏庭で休憩を取る所だと仰っていましたよ」

「殿下が?」


 今日は先生を訪ねて城に来たので、殿下とは特に約束はしていない。でも、休憩を取る所なら会いに行っても良いかな。

 先生の方を振り返ると、「良いよお、行っておいで」と笑った。

 それから、何かを思いついたようにゴソゴソと棚を探る。


「ほら、これを被って行くといいよ」


 そう言って先生が私に被せたのは、おとぎ話の魔女が被っているような、つばの大きいとんがり帽子だった。


「これは…?」

「倉庫を整理していたら出てきたんだけどね、丁度いいから君にあげるよ」

「丁度いい?」

「行けば分かるよ」

「そうですね。よくお似合いです」


 ビリュイもくすりと笑う。何だろう?


「リナーリア様、それよりも急いで行った方がいいですよ」

「あっ、はい。では先生、また後ほど」

「うん」

「ああ、そうだ。その古代遺物ですけど…」


 ビリュイは机の上にある謎の回転する道具を見て言った。


「それ多分、子供の玩具ですよ」

「ええっ!?」




 …とりあえず帽子を被ったまま裏庭に向かうと、出入り口の所で殿下とスピネルを見付けた。

 どこぞの貴族と話をしていたようだが、私が近付くとその貴族は一礼して去って行った。


「こんにちは、殿下、スピネル。お邪魔をしてしまいましたか?」

「いや、少し世間話をしていただけだ。…それより、その帽子…」

「お前、ハロウィンの仮装をしてるのか」

「あっ」


 二人に指摘されて初めて気付く。

 そう言えば今日はハロウィンだった。そういう事だったのか。



 ハロウィンというのは、晩秋にやる収穫祭と死者の供養を兼ねたお祭りだ。

 かぼちゃやカブを彫って作ったランタンを玄関に飾ったり、子供達がおばけの仮装をして家々を周りお菓子をもらって歩いたりする。

 この島の西部に残る風習なのだが、そう言えばセナルモント先生は西の出身だったっけな。

 近頃は王都でも広まりつつあるので、殿下もスピネルも知っているらしい。


「…トリック・オア・トリート!」


 とりあえず、スピネルに向かって片手を差し出してみる。『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』という意味の古代語だ。

 するとスピネルは、ポケットから取り出した白い包みを私の手に乗せた。


「…クッキー?」

「お菓子が欲しいんだろ?」

「そ、そう言いましたけど、何で持ってるんですか?」

「それは猫…むぐ」


 何かを言いかけた殿下の口を、スピネルが塞ぐ。


「庭で食べるつもりだったんだよ」

「…そうなんですか…」

「貰えたのに何で不満そうなんだ?」

「せっかく合法的に貴方に攻撃できると思ったんですが」

「攻撃は合法じゃねえし悪戯でもねえぞ!?」

「ちょうど近頃覚えたてで試してみたい魔術がですね…」

「何もちょうどじゃねえ!!普通にヤバいやつだろ絶対!!」



 …まあ、城内で攻撃魔術を放つ訳にはいかないのでただの冗談だ。試してみたかったのは事実だが。

 そのまま三人で裏庭の散歩を始めると、殿下が私を見て言った。


「リナーリア、俺にも合言葉を言ってくれ」

「トリック・オア・トリート?」

「うむ。これを」


 うなずきながら手渡されたのは、やはり紙に包まれたフィナンシェだった。


「有難うございます。殿下のおやつを、わざわざ…」

「…いや、気にするな」


 殿下は何故か目を逸らした。

 私は元々お菓子が欲しかった訳ではないのでちょっと申し訳ない気もするが、殿下はこんなお菓子くらい食べようと思えば好きなだけ食べられる。

 ここは遠慮せずに有り難く頂いておこう。



「うちの領では馴染みがない風習ですが、案外楽しいものですね。普段と違う格好をしたり、お菓子を頂いたり…何だか、子供に戻った気分です」

「お前はまだ14で、学院にも入学してない子供だろうが」


 むぅ、私は前世では20歳だったんだが?学院だって卒業したし、スピネルよりも大人なんだが?


「…その理屈で言うなら、貴方だってまだ学院に入学してないので子供です!」

「んー?まあ、それもそうだな」


 スピネルはちょっと面白がるような顔になり、ニヤッと片頬を持ち上げた。


「んじゃ、トリック・オア・トリート」

「えっ!?」


 ずいっと手のひらを向けられ、思わず焦る。

 しまった、私はお菓子なんて持ってない。いや待てよ、さっき貰ったやつが…。


「言っとくが、さっきのお菓子を返してくるのはマナー違反だぞ。人から貰ったものをやるのもだ」

「うぐっ…」


 くそぅ、こいつめ、してやったりって顔しやがって!

 だが自前のお菓子を持っていないのも事実…ここは甘んじて屈辱を受けるしかない。

 ちょっぴり震えているのを自覚しつつ、ギュッと目を瞑って覚悟を決める。


「わ、分かりました…お手柔らかにお願いします…い、悪戯、して下さい…!」

「バッ…やめろ!俺が変な誤解されるだろうが!!」

「スピネル…最低だな…」

「違う!!軽蔑した目やめろ!!」




 …結局スピネルは何もせず、私はただ二人からお菓子を貰っただけで終わった。

 悪戯などされたくないから別に良いんだが。


「とりあえずお菓子いっぱい食っとけ。お前は細すぎるんだよ」

「それはそれでセクハラですけど」

「めんどくせえ世の中だなオイ!」

「スピネル…最低だな…」

「だからやめろってば!!」

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