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第八話 成功の対価

[――やっぱり、あの遺構は先入観による手付かずな場所だったんだな]


[しかしながら、その御蔭で(わたくし)はマスターに出逢うことが出来ました]


 脳内でのやり取りによって、声の一つも出さずに吐き出したダヴィデへと、イヴはそんな台詞を返してきた。

 未だ街中で周囲には人の姿も見受けられるため、大手を振って彼女との対話を行う訳にはいかない為である。


 事務所の認識においては、事前の予想通り、あの遺構は既に荒らされ実入りの少ない場所であると認識されていたらしい。

 鉄屑やガラクタは転がっていようとも、奥には量産型とは言えゴーレムが鎮座し、手垢のついていない物資の山が眠っているとは思われていなかったのだ。


 故に一先ず。

 イヴ以外の戦利品についてはそれ自体が発覚した所で疚しくも無い為、素直に先の遺構の倉庫について説明を行った。

 組合と提携している買取ショップに品物を流せば、如何したところで収穫の程はすぐに発覚するのだ。

 なれば、要らぬ疑いを持たれない為にも、さっさと情報は吐き出してしまった方が良いのであった。


 超技術の魔導精霊たる彼女の存在さえバレなければ、それこそ本日の儲けを全て吐き出してもお釣りが来る程なのだから。

 イヴ曰く、ダヴィデが魔術を行使する際に制御にもサポートが可能となる為、魔力収束具などには、もう(しばら)くは不要な銭を掛ける必要が無いとのことである。

 彼女自体が凄まじくハイクオリティな補助具のようなもの故に、不信感を持たれ過ぎない程度の見せかけの装備で充分だとの助言を受けた。


 資金に余裕が有るならば銭をケチる気は更々無いが、そういう事であれば、それ以外の部分に金を掛けられるために悪い話では無い。

 防具や医薬品、金が溜まれば移動用のゴーレムをも買えるようになるのだから。


 ――したがって。

 簡素なレポートを提出した後、さっさと荷物を換金すべく。ダヴィデはそのままの脚で、事務所近くのショップへと向かうのであった。

 大通りに面している為、其処へはそう時間も掛からずに辿り着くだろう。


 店は街の大通りに沿って構えていので、周囲を見渡せば衛兵の姿も多い。

 治安が宜しくないとは言え、暗くなる前のこの辺りであれば比較的安全に歩くことも出来るだろう。


 但し、ちょいと横道を覗けば、其処は悪徳の坩堝と化していることも珍しくはない。

 まだ明るく時間も時間であり、周りには兵の姿も見られるため、大々的に暗がりの薫りを纏った者達の姿は見られない。


 されども、少し小道へとズレてしまえば、其処は浮浪者、破落戸(ゴロツキ)、傭兵崩れ、薬中、違法売春婦に与太者(よたもの)等々……。

 孤児上がりのダヴィデもそう褒められた生い立ちはしていないが、世に目を逸らされた碌で無し達の巣窟であろう。


[古代に栄えた文明に縋って人類は再興の道を辿っているとは言うが、あんな様子が誰の眼にも写るようならまだ見ぬ未来も遠く感じるよな]


[社会体制や文明レベルによっては、割合の差はあれども、何時の時代であろうとも落ち零れる者は必ず出て来てしまいます]


[――結局。個人で出来る事なんて、自分や身内が食いっ(ぱぐ)れないように努力するくらいだろ]


[マスターが現代社会の中において為政者を目指さぬ限りは、凡そそれが一市民にとっての目標となるでしょう]


[そんな大それたことなんて、今まで考えたことも無いよ。取り敢えずは、衣食住に困らない生活がしたいからスラムから抜け出したってだけだ]


 自分としても、二度とあのような場所には戻りたくも無いし戻る気も皆無だが、厄介事は何時も向こうから迫って来るのだ。

 出来得る限り関わらないようにと視線を背け、足早に店を目指した。


 ――暫くして。

 看板に遺物買取を掲げた店先へと到着すると、当然其処にはきちんと管理組合提携の証明も張られている。

 事務所の受付で聞いた店の一つは、此処で間違い無いだろう。

 他にも同じような店は存在しているが、都市の提携店舗であれば、何処も同じようなものだと云う。

 路地裏に構えているような下手なモグリの店にでも捉まらない限り、そうぼったくられることも無いだろう。


 ダヴィデが足を踏み入れると、左程広くはない店内の奥に此処の主は仏頂面で鎮座している。

 周りの棚には、型落ちの軍用品などが物によっては比較的手頃な価格で飾られていよう。

 壁には武器から防具までが見本としてぶら下がっており、初めて訪れた場所ではあるが、見ているだけでも中々に楽しめそうな店であった。

 此処は魔力収束具のような媒体を始めとした魔術関連のアイテムも扱っているようであり、規模はド級に大きくなくとも、売買においては割かし融通が利きそうである。


 兎も角、今日は社会科見学に来たわけでも無い為、ダヴィデはむっつりとした表情の店主へと声を掛け、手早く戦利品の査定を依頼する。

 大柄で仏頂面を晒したままの店主は、碌に言葉を交わさぬままに己の並べた品々を目利きし始めたのだ。


 余計な事を言わず、ダヴィデのような相手にも一々猜疑心を挟むことなく仕事をこなす姿勢は、此方としても実に有難い。

 そうして運良く他に客の姿も見られないからか、すぐに査定は終了し買取金額を提示されたので、サイン一つで銭を引き取り店を後にする。


 無論、待ち時間には店内を見て回り、イヴのアドバイスを人知れず受けながら新たに購入する装備を物色していた。

 本日の遺構内で意外と足音が響くものだと理解した故に、消音素材が靴底に練り込まれたブーツと指を保護する為の特殊繊維の編み込まれた手袋。

 あとは、防護ベストに仕込むよりプレートもより上質で軽量なものへと置換しておいたことを忘れてはならない。

 

 つまり、そうした装備が余裕で購入出来る程度には、収入も予想通りに充分に過ぎるものであった。

 少なくとも、今日が初仕事であった駆け出し発掘者の小僧が一度の仕事で手に出来るような額ではない。

 具体的には、発掘者になる為に今まで貯めて来た資金を余裕で追い越す程度には。

 当然、これ程の大金はダヴィデ自身も手にしたことなど無いのであったが、如何にか平静を装って銭の束を懐へと押し込めたのだ。


[半公営の為か、買取価格にも問題が無くて良心的でしたね]


[まぁ、お前さんが口を挟まない以上は問題も無いってことだとは思っていたけどな。餓鬼だ何だと面倒なことも言われずスムーズに済んだし、今度から買い取りもあそこで良いかもな]


[魔術関連の品は他にも専門店があるようですが、あれくらいならば都合が良さそうですね]


 あまりに浮かれて他の同業者から気取られないように気を付けながら、今夜の宿と飯の確保に取り掛かったのであった。

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