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第七話 帰還

「――意外と、何てことは無かったな」


 瞬く間に融合措置とやらが終えられたようで、ダヴィデは一つ呟いて自身の首へと触れていた。

 元より、装着感は微塵も無かったが、今や文字通り古代文明の遺物をこの身に取り込んだという証左(しょうさ)であった。


[お疲れ様でした、マスター。此れで私からの補助(サポート)を齟齬が派生することなく受けることが可能となりました]


[事が済んでから聞く俺も俺かも知れんが、そのサポートとやらがあれば、結局は何が出来るようになるんだ?]


 直感的な好機であると選択したことに後悔は無いが、それでも思い出したかのようにイヴへと問う。

 今更難癖を付ける気は無いけれど、具体的に出来ることくらいは把握しておく必要があるだろう。


[はい。遺物の解析、視野外の索敵、地形の分析、マスターが行使する魔術制御の精度及び効果の補助、そしてマスターへの魔術による干渉への抵抗等へ従事させて頂きます]


[予想はしてたが、色んな事に役立つんだな]


[えぇ、他にも古代文明に関する知識などを提供することも出来ますが、今挙げましたのはマスターの発掘者としての仕事に役立ちそうな一部で御座います]


[随分と手厚いサービスじゃないか。それで俺は、お前に何を刺し出せば良いんだ?]


 ――自然と、ダヴィデはイヴへと問い返していた。


 何もせずに手に入る物など無い。

 少なくとも、ダヴィデにとってはそれが当たり前の事であった。


 寧ろ、生まれながらも持っていたものと言えば、己の肉体一つである。

 あのような立場では、奪われることはあっても、得られる物などほんの些細なものでしかなかったのだから。


 故にダヴィデは、妄信的なまでに価値を差し出してきた彼女へと問うのだ。

 まるで、禁断の果実のように。(さなが)ら、悪魔の契約の如く。


 されど――。

 イヴより返された応えは、まるで無垢なる少女の如く――毒気の無い、そんな言の葉であった。


[主たる方に使って頂く事。この世に知性を以って生み出された、我等魔導精霊の存在意義で御座います]


[――じゃあ、本当にお前は俺が生き抜く為に役立つことが目的なのか]


[肯定。より望むのであれば、貴方様が欲する未来の為に尽力出来る事。そして、少しでも長く御傍に置いて頂くことでしょうか]


 知性を以って生まれた、肉の身体を持たない人工物。

 されど、確かに彼女は此処から生きることを(はじ)めたのだ。


 しかしながら。

 魔導精霊とは、此処まで主となる人間にとって都合の良い存在なのであろうかとの疑問も残る。


 彼女の口振りを信じるならば、古代文明における技術の中でも、当時の最高峰である部分を惜しみなく詰め込んで生み出されたのだろう。

 それともやはり、単純作業に従事させるための量産品扱いの精霊とは異なり、イヴのようなハイエンドな個体にはより個別に自我のようなものが生まれるのかもしれない。


 高級品故の――良くも悪くも、ある意味で遊びのような部分であろう。

 まるで意識の狭間(はざま)に気紛れや嗜好(しこう)を抱く、より人間に近しく模倣(もほう)――否、成長するが如く。


「……まぁ、良いや。取り敢えず、これからよろしくな」


[了解です。微力を尽くさせて頂きます]


 兎にも角にも、解らないことを解らないままにするのはよろしく無いことだが、目に見える害が無いのであれば一先ずは良しとしよう。

 そうと決まれば、今日はこのまま戦利品の入った背嚢を担いで遺構を後にするだけである。


「心配なのは、ふとした時にイヴとの会話を口に出して行わないようにすることだな。今みたいに、周りに誰も居ないなら不審に思われることも無いんだけどさ」


[マスターの順応速度で在れば、恐らくそう問題にならないでしょう。脳内通信も、すぐに馴染むかと]


「どっちかって言うと、遠隔式のゴーレムの操作を行ってるか。音声認識システムで魔術媒体を動かしているって思われるくらいか」


 外観的に不審なものは見当たらず、魔術自体を行使可能なことを知られれば、やはりそうした可能性と見られる方が高いだろう。

 故に現状得たイヴとの繋がりが露見することに対しても、初めから其処まで神経質にならなくても良さそうだ。


 そのまま遺構へは、更に深入りすることも無く。

 元来た道を辿る様に、建物の外へと無事戻ることが出来たのであった。


 帰り道では既に効果の切れていた魔術を掛け直し、同じように警備ゴーレムを沈黙させて往けば、怪我の一つも負わずに済んだ。

 行き同様にまた(しばら)くすれば、あの主無き無機質な番兵たちも動き出すことだろう。


 外に出ると、未だ陽は高かったが。

 詰所の兵に申し出て、この辺り一帯を巡廻している送迎用の車両へ連絡をさせる。


 足も一日の終わりの最終便は停車時間が決まっているらしいが。

 それよりも早くに帰還したい場合は、順路を取る車両があれば、幾許か時間を潰せば呼んで貰った馬車こと車輪付きのゴーレムで開拓都市へと戻ることが出来る仕組みとなっていた。


 そうして膨らんだザック一つを背負って、帰還中の車内でも街へ戻った後の通りでもそれなりに人目に晒されはしたが、この中身を見るまでは儲けの程を知られることは無いだろう。

 精々、駆け出しの小僧が、運良く鉄屑を沢山拾って来れたくらいにしか思われていない筈である。

 イヴにより解析も済ませている為、戦利品が無価値な物でない事の保証は既に取れているのだ。


 したがって、特別トラブルに遭遇することも無く。

 ダヴィデは開拓都市アブサンへと戻った後、送迎車両の停留所からはすんなりと発掘組合管理事務所へ辿り着いたのであった。


 夕方にすら差し掛かっていない為か、建物の中は意外と空いている。

 泥に塗れた疲弊する汗臭い男たちも、血と硝煙に悲哀の面持ちを敗北者の姿も人の数は少なかった。


 込み合う前の好機とばかりに。

 ダヴィデは支部の受付にて、無事帰還の報告と簡単な遺構内部の状況報告を手早く提出するのであった。

 此処で無駄に注目を受けるよりは、さっさと済ませた方が良いに決まっているだろう――と。

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