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第五話 邂逅

「――さてさて。どのお宝ちゃんを持って帰るのが、儲けが太くなるのかな」


 未だ未知の遺構の腹の中。

 次の瞬間にだって、何が起こるか解らないことには変わりない。


 されども。

 これだけ潤沢な宝の山を前にすれば、ダヴィデだって頬が緩んでしまうものである。

 しかも、初めての仕事でだ。


 限りがあったとは言え、発掘者になるまでに出来得る限りの勉強は貪欲にしてきたつもりである。

 元浮浪児とは言え、少年期のリソースの大半を安く辛い労働を除けば――ダヴィデは、知識の吸収と鍛錬に費やしてきたのだ。


 故に、解る限りでは。

 目の前のお宝の中には、値打ちのあるものもあることを理解していた。


 低級と思われるが――ゴーレム製作の際に動力源として、心臓部に用いられるコアとなる部分。

 魔導精霊を宿す為の器、人間で云うところの脳であろうか。空っぽの此処に、精霊を宿し、意識を(とも)す。

 あとは、魔導媒体製品における部品の数々と言ったところか。


 数はあれども、出来るだけ吟味しながらも手早く背にしたザックへと詰め込んでゆく。

 手も袋も足りないが、今は出来る範囲で満足するしかない。


 はっきり言って、今日の戦利品を街へと持ち帰り、専門店なりで換金すれば――その噂など、きっとすぐに広まるに違いない。

 店の顧客情報に対する意識が低いというよりも、人の口には戸板を立てられぬという話である。


 何より、発掘者など誰であっても常に儲け話を探しているのだ。

 地べたを這い回っているようなうだつの上がらぬ輩程度であれば、ダヴィデもこの施設の横取りなど気に掛ける必要も無いだろう。

 そのレベルの相手に儲けを横取りされる程無力では無いし、そもゴーレムが鎮座するこの施設自体を攻略できるとは到底思えない。

 魔術が解ければ再起動していることであろうし、チンケな数打ちの武器では対処の仕様も無いだろう。


「でも、問題はベテラン連中にバレることだよ……」


 あぁ、間違いなく。

 此度の成果は、露呈する。

 彼らに街中で、上がりを掠め取られるというような話ではなく。

 管理組合に提出したレポートと戦利品の質によって、すぐに此処がほぼ手付かずであることが発覚するのだ。


 ――すると、どうなるか。

 まず間違いなく、中堅どころの狩場となり、すぐに根こそぎ持ち帰られてしまうに違いない。

 隠し通すなど、まず不可能。

 それどころか、あの入口の詰め所で暇を弄んでいた兵何かよりも、今夜の酒の肴として仲間同士で話されること請け合いだ。


 新人の小僧が、身の丈に合わない儲けを出していた。なんて。

 そんな話は直ぐに広がり、ダヴィデにではなくこの施設に同業者が調査に向かえば、そこで己にとっての今回のボーナスは泡と消える。


 そのレベルの同業者であれば、複数人で徒党を組んでチームを結成していることも珍しくないだろうし、大量の物資を持ち帰る為の魔導車両なんかも所有していることも珍しくは無い。

 自分でゴーレムを従えていれば、戦闘にも荷物運びにも使える事だろう。


 したがって、今日の儲けは今日の内に掻き集めて生産する必要がある。

 厳密な価値など不明瞭だが、出来るだけ良さ気な物品を選んでいるのは、そうした理由に因るものだから仕方あるまい。


「うん、大体詰め終わったな。けど、まだこんなにあるのに持ち帰れないなんて、勿体ないってレベルじゃないぞ……」


 幾ら嘆いても、これ以上は無理なことくらい理解している。

 欲張って背嚢が破れでもすれば大損であるし、両の手に抱えていれば、いざと云う時にナイフも抜けない。


 故に、涙を呑んで帰り支度を始めた所で――。


「何だろ、コレ……。何か知らないけど、ちょっと気になるね」


 ふと、倉庫の奥にて一つの箱を発見したのだ。


 箱の外観は、小奇麗な点を除けばそう目立ったものでは無い。

 サイズも両の手に乗る程であるし、容易に持ち上がる程度の重量しかない。

 材質は、金属でも樹脂でも無い様な不思議な感触を携えており、軽さの割に外部からの圧力には強そうであった。


 特別鍵も付いていなかったために蓋を開けると、其処には一本のチョーカーが収まっているでは無いか。

 宝石類や、豪奢な金属も備わっていない。

 派手さの欠片も見られない細いベルトのような、只の黒いだけの装飾品である。


「ははっ。今まではこういう物に縁は無かったけど、初仕事の証ってことで偶にはアクセサリーなんかも悪くないかもな」


 当然、金の余裕など生きるだけで精一杯であった。

 それに容姿を売りにした立ちんぼでもあるまいし、服飾に掛ける位ならば学びへと費やしていた。


 だがしかし、こうして不思議な装飾品が仕事終わりに手に入ったのも、何かの縁なのかもしれない。

 故にダヴィデは、箱から取り出したチョーカーを自身の首に巻き付けるように装着した。


 このアクセサリー自体の材質も不明であるが、肌触りは悪くなく。

 締め付けどころか、まるで何も巻き付いていないかのような快適な着け心地を実現している。


「勿体ないが欲を搔いて痛い目に遭っても堪らんし、これで収穫は良しとするか」


 既に馴染むようにフィットしたチョーカーを一つ撫ぜ、ダヴィデは背嚢をしっかりと背負い直して倉庫を後にすることにした。

 一先ず、今日の儲けがあれば、もっと良い装備も用意でき、飯も宿も安全な物を確保することが可能となる。


 ――但し、何の運命の悪戯であろうか。

 気を抜くわけには往かないが、大きな収穫によって高揚した足取りで歩き出そうとしたダヴィデへと、


[――精神共鳴及び思考接続完了。今後とも良しなに、マスター]


 突如、何処からともなく。

 そんな玲瓏(れいろう)が、ダヴィデの脳内へと響いたのであった。


 リスクとリターンは、紙一重――。

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