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第二話 新天地

「――やっと着いた。此処が、開拓都市『アブサン』か」


 幾つもの定期便を乗り継ぎ、やっとのことでダヴィデは目的地へと辿り着いた。

 開拓の最中であると云う事もあり、街自体が未だ発展の半ばにあるのだろう。


 此処まで来るために利用したのは、駅馬車という名の自動車両であった。

 つまりは、実際に馬に()かせた荷車というわけではない。


 魔導精霊を頭脳核として利用し、人間が操縦することで前進する車輪の付いたゴーレムとでも言うべきか。

 移動に荷運び、用途は何でも良いだろう。

 燃料となる魔素さえ注ぎ込めば、疲れもしないで一日中走っていられる文明の利器だ。

 無論、専門技術を有する定期的な整備は必要であるとのことだったが。


 そうしてズタ袋一つぶら提げたまま、ダヴィデは管理組合の事務所へと足を運んだ。

 辺りの建物と比べても、随分と大きく頑丈そうな建造物である。


 此処までで街路を見渡すと、確かに荒事ございとばかりの装備に身を包んだ者たちが多く見受けられる。

 装備性能や出で立ちの高低はあれども、獲物を携えた品の宜しくない輩もちらほら伺える。


 但し、そうした種類の人間が好き勝手せぬ様に、と。

 辺りには、上等な装備をした警邏(けいら)中の兵の姿も少なくは無いようであった。

 都市の衛兵なのか軍人なのかは知らないが、これならば商店の並ぶような大きな通りで破落戸(ごろつき)が暴れることも少ないのでは無かろうか。


 兎にも角にも、そうして訪れた事務所では別段の障害も無く免許の発行が為されたのであった。

 身元の確認も、前提となる資格も――何も要らない、十把一絡げの完成である。


 掃いて捨てるほど居るのであろう、この一山幾らの底辺から抜け出すことが、駆け出し発掘者となったダヴィデにとっての一先ずの目標と言えるだろう。

 組合に登録されている遺構に潜ってお宝探しを行うのがメインであろうが、それ以外にも事務所の掲示板へと張り出された仕事を受注することも出来ようか。


「まぁ、移動の疲れも無いし、早速初仕事に取り組んでみようかな」


 事務所受付にて、比較的近場に存在する遺構のデータを見せて貰い――その中から、適当な一つへと潜って見ることにしたのだ。

 組合が出している()により、登録済みの発掘者であれば乗り合いの車両へと乗せて貰えるため、移動にもそれほど時間は掛からぬ場所を選んでみた。


 ――と、なれば。

 次は出発前に都市運営の武器店へと向かい、本格的な武具を調達する必要がある。


 予算は元よりカツカツである為、最初から贅沢な得物は望めない。

 刃物は今回、持ち合わせているものでやるとする。

 最悪、魔術を効率的に使用する為の魔力収束具だけでも適当なものを買うことが出来れば良いだろう。


 受付で聞いておいた通り、組合事務所のすぐ近くへと店は開かれている。

 曰く、都市や組合と提携していない店舗も存在は許されているが、何かしらのトラブルが発生した際にも、自治体は関与しないとのことである。

 故に、ひよっこでしかないダヴィデとしては、その辺りが安心して買い物を済ませられる場所に落ち着いたのは自然な選択であろう。

 多少、安値で買うことが出来るかもしれないからと言って、命を預ける武具において不良品など掴まされては堪らない。


 その点、提携先の店舗では、その心配は皆無なのだ。

 少なくとも、商品自体は自治体が責任を以って提供している品しか置いていないのだから。


 ダヴィデは手早く店を見て回り、予算内で収まる様に必要な品を買い揃える。

 荷物や戦利品を詰め込む背嚢に始まり、保存食に最低限の応急手当用品。

 後は、薄いながらも魔獣の革が張られた耐刃・耐衝撃ベストに加え――お目当ての、魔力収束具であった。


 店主に依れば、傭兵や発掘者の全体の割合から見ても、其処まで魔術を行使することの出来る者は多くないとのことである。

 故に、オーダーメイトや発掘品である遺物による一点ものでは天井知らずとなることもあれど、ペーペーにも掴めるそれはそれほど高価なものでなかった点は幸いであった。

 新人向けのちょっとした品に其処までコストを注いだ物など、まず買われず棚の肥やしになる為だと。


 無論、其れでも同じ駆け出しでも手が届く様な剣にナイフ、槍に鈍器なぞと比べれば、やはり値が張るのは仕方の無い。

 しかし、これでやれることから生存率まで上がるのであれば、ダヴィデとしても微塵の文句も有り得ないが。


 そんなこんなで。

 車両乗り場にて停車していた車輪付きのゴーレムへと乗り込めば、次々に同業者たちも本日の稼ぎに精を出さんとタラップを上がって来るようだ。


 ちらりと見ても、駆け出しのダヴィデが向かう先に目的地も近い為であるのかは知らないが、あまり上等な装備に身を包んだ者は居なかった。

 武器に目端が利くわけでは無いけれど、出で立ちからしてやつれた顔で背を丸めるうだつの上がらなさそうな男たちばかりか。

 身体つきや出で立ちからしても、無手の一対一であれば、ダヴィデならば容易に下せような相手ばかりであろう。


 当然、こんなところでトラブルなど起こす気など更々ないが、もしものケースは常に想定しておかねばならない。

 事務所で発掘申請をしている為、今から行く場所でのブッキングは有り得ない。


 されど。

 目的地となる遺構は異なれども、ダヴィデの実入りを狙って帰りに襲撃でもされたら堪らない。

 殴り合いで負ける気は皆無で在ろうとも、世の中何が潜んでいるのかは蓋を開けるまで解らないのだから。


 いずれせによ。

 車内では見張りの兵も居る為、まず問題など起こらないだろうが。

 騒ぎを起こせば、走行中のゴーレムから叩き出されること請け合いだ。

 それくらいならば、どんな頭の悪い発掘者にでも理解出来る筈である。


 ――こうして、暫しの間汗臭い男たちと便に揺られ。

 ダヴィデは目的地の遺構へと到着し、独り降り立つのであった。

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