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第二十五話 殲滅

「見晴らしも良いし、障害物も小さく少ない――裸で近づくのは、ここいらが限界かな」


[肯定。これ以上進めば、間違いなく屋上からの見張りに見つかるでしょう]


 車両を隠した地点より数百メートルばかし進んだ後、ダヴィデは一度止まって、再び岩場の蔭へと身を潜めていた。

 距離を詰めたこともあり、流石にこのまま馬鹿正直に直進しては、奴らの警戒網へと引っかかる。


 そうなれば、魔獣を(けしか)けられた上に――弓や魔術で狙い撃ちを喰らう羽目になるだろう。

 ダヴィデが多少身体が丈夫であっても、多勢に無勢で食い破られれば痛いどころでは済まされない。


 ――なれば。

 したがって、此方の姿を感知されなければ良いだけの話だ。

 無論、相手方にダヴィデ以上の術者が居ないという前提があるけれど。


欺瞞(デスィ)……静寂(クワィ)……調和(ハーモ)……一気に行くぞ」


 周囲に風景へと溶け込む様に己の気配を低減させ、足音すらも消失させる。

 迅速を以って、事を為す。

 ダヴィデは音も無く、影も遺さず――根城となった遺構へ、一目散に。


 唯、走り抜ける訳では無い。

 その最中にも、口内では真言を練るべく――力の言の葉(ワード)を紡ぐのだ。


[未だ、マスターへ気が付いている様子は見られません。手早く、順繰りに処理していきましょう]


[あぁ、まずは厄介な屋上の見張りから片付けて、そのまま入口の奴らも黙らせる――! (アロゥ)……射出(インジェ)……貫通(パーフ)……!]


 重ねるように――同種の文言を、寸分違わず繰り返し数度。

 目的地まで、距離はまだ残されていようとも。

 ダヴィデの撃ち出した魔弾は、そのまま外で手持無沙汰に佇む夜盗共の頭部へと吸い込まれて逝った。


 矢弾となる鏃を金属板より形成したのは近しいが、今回のそれにはまた違った特性が付与されている。

 前回は苦痛と混乱を引き起こすのが目的なれども、今し方打ち出した物は――音も無く、確実に命を狩り()る。


 数人ばかしの破落戸の頭に風穴の置けた後、地べたにはどさりと肉を打つかのような鈍い音が落ちるだけだ。

 きっと、屋上部でも同じように硬質な床に崩れる様が見られるのだろう。


 ――命令する人間を喪ったためか。

 今更になって、辺りを警戒し始める番犬代わりの魔獣の姿も窺えたが――もう遅い。


 吠える間も無く。等しくダヴィデの魔弾は、射手の意識を写すが如く。

 凶暴な面を晒していた魔獣たちをも、そのまま頭蓋を粉砕すると共に脳梁を撒き散らせ――汚らわしい体液と共に、大地の滋養へと転生させたのだった。


[目標――沈黙(ロスト)。外の兵は、今ので全て片付きました]


[これで、目は潰した……。あとは、遺構(なか)に篭ってる連中を纏めて(くび)る!]


 恐らく、依然として。

 建物の内部に居るのであろう輩は、外で起こっている惨状に気が付いていないのだろう。


 寝ているのか、それとも酒盛りでもしているのか。

 はたまた、見張りの倒れた音にすら――異変を察知していないほどに、鈍く傲慢に座しているのか。


 いずれにせよ。

 それならそれで、ダヴィデにとっては好都合。


 油断は欠片も無いけれど、先手を取り続けられるのであれば、続け様に奇襲をくれてやれば良い。


 遺構は地下を除けば、外観として数階建ての比較的小振りな箱である。

 そして、外壁における建物自体の保全機能は割合劣化しているのか。

 所々、壁は崩れ、窓も孔を晒したままに陥っていよう。


 なれば――。

 有効な手は、既にダヴィデの頭の中で構築され終わっていたのである。


 仮に中に篭っていようと――そのまま慌てふためかせ、遺構の外へと炙り出してやれば良い。


[シャーマンはいるようだったが、チンケな夜盗なら完全に無効化するような装備なんて早々無いだろ。奴さんの護符(タリスマン)でどれだけ軽減出来るか知らんが、そんなもん揃えられる余裕果たしてあるかな……。]


[確かに魔獣を使役する術はあるようでしたが、その操縦もお粗末でしたね。恐らく、決められた命令しか設定できないのでしょう。加えて、見張りの装備も上等とは言い難い品でした]


「――じゃあ、決まりだ。悪心(ナージ)……発熱(フィー)……咳嗽(カーフ)……我慢比べなんて、させねぇよ!」


 遺構入口まで、十メートル強となったとき。

 丁度良い岩場に岩場へ身を潜めたダヴィデは、そのまま害悪を撒き散らさんと。

 己が魔力を呪言へ練り上げ、建物の中へと送り込んだ。


 視認出来るほどの紫紺の煙と化した魔術は、ダヴィデの意に沿って瞬く間に朽ちた建造物を侵食して往く。

 文字通り、質の悪い疫病の如く災厄を即座に蔓延させる言の葉である。


 但し、あくまで吐き気に高熱、激しい咳などは極々一時的な症状であり――。

 件の紫煙より抜け出し離れ、しばらく新鮮な空気でも吸って休んでいれば、(たちま)ちに快癒する程度のものでしかない。


 悪辣な効果の割に手軽いと、いう点と引き換えに。

 持続性はまるで無く、対処の手段も実に簡単なお手軽魔術なのである。


 されども。

 此度の状況においては、文字通り集団を根こそぎ撲滅させる死病に相違ないのだ。


[――お美事。これではまるで、鴨撃ちですね]


[苦しみから逃れる為に外に飛び出してきた奴らを、片端から撃ち殺すだけの作業になったからな]


 初めに聞こえて来たのは、煙に対する騒動の声。

 次に。苦悶を訴える泣き言と、収拾を求める罵声の嵐。


 次第に止まらぬ咳に、怒鳴ることすら苦しくなったのであろう。

 覚束ない足取りで遺構より抜け出し、そのまま地べたへと手を着いて胃の中身を散布する男たちで溢れ返った。


 ――あとは、我ながら悪質極まりない効果が切れる前に。

 一人残らず、首を獲るだけであった。


 鏃で音も無く、適当に数を減らした後は――未だ朦朧とするのであろう意識を抱えたままの賊の首を、研がれた大鉈の如きナイフで落として往くのみ。

 結局、時間はそう掛からなかった。


「――人数が居ようと、術が遣えようと。状況次第じゃ、こんな風に呆気ないものなんだな」


[はい、マスター。僭越ですが、これを教訓とし、貴方様が狩られる側にならぬように心掛けることもお忘れなく]


「あぁ、そうだな……。俺もこんな風におっ死ぬのなんて、それこそ死んでも御免だぜ」


 そんな言葉を相棒と交わしながら。

 ダヴィデは残党が居ないか確認した後、安全の確信と共に――目的たるお宝の回収へと勤しむのであった。

第一部、完。

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