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第十三話 寳物

「――さて、と。それじゃあ、次はアクセサリーを頂く事にするか」


 イヴに指定された腕時計とやらを掻き集めた後、そのまま背嚢に余裕を持たせて、ダヴィデは隣の装飾品店へと足を向けた。

 見せびらかす様に透明のケースの中へと品物が並べられているが、そのケースの所々には傷が目立つ。

 魔獣が暴れたのか、それとも先駆者が持ち出そうと試みたのかは不明であるが、これまた時の流れを感じさせる爪痕なのではなかろうか。


[警報は死んでいるも同然で、警備も既にマスターが沈黙させました。ショーケースを破壊してしまって構いません]


「傷は幾つも入ってるけど、これ自体はまだ壊れてないし固そうだな。正直、殴ったくらいじゃ割れないだろ。……仕方ない、もう一回使うしか無いか」


 魔力は帰るまで極力温存しておきたいが、せっかくここまで来たというのに目の前のお宝を前にして指を咥えているのも御免である。

 最低限、何かあったときに対処出来るだけ残しておくことを忘れずに、ダヴィデは数々の透明の箱へと向けて唱えていた。


脆弱(バンネ)……衰退(ディク)……分離(セパレ)……! コレで防護も紙同然の筈だよ」


 異様な程に強靭であった透明なケースは、真言を受けた後、ナイフに微塵の抵抗も無くして容易に切り裂くことが可能となっていた。

 先にナイフの切れ味を強化した時とは異なり、対象の強靭さを失わせる呪いの言の葉に等しかろう。


 兎も角、これにより乱暴なことをせずとも、中の宝石類を摘まむことが出来たのであった。

 数こそ多くは無いし、一点ものでもないのだろう。

 しかし、それでも価値ある物には変わりない。


 ダヴィデからすれば、未だ良さは解らないが。

 相応に人生に余裕が生まれれば、こうした装飾品を所有することが、社会においても一種のステータスになるとの話であった。


「息が詰まるのは御免だけど、何時かは何もかもが満たされた悠々自適な生活って奴を送ってみたいもんだよ」


[お言葉ですが、マスター。人間の欲望に限りなど無いと言うのが、前時代から今の今まで共通した真実の一つであるとされております。故に、いずれ何処かでご自身にてゴールを定めなくてはなりません]


「魔導精霊のイヴからそんな忠告を貰うなんて、傍から見ても人間って本当にどうしようもない生き物なんだな」


[それが今の時代を象徴しておりますので。されど、悲観ばかりしていても先へは進めません。より良くなりたいとの欲望があるからこそ、人類は進歩して来たのです]


「――そして調子に乗れば、衰退まで真っ逆さまだ。俺もほどほどで満足出来るように努力するよ」


 銀の指輪。金のブレスレット。細かい宝石の散りばめられたネックレス。

 目玉は大きな宝石の嵌った指輪もあり、変わり種としては金色に輝く大振りの硬貨であろうか。


「――イヴ。この金貨みたいのって、今も使えたりするのか?」


[いいえ、マスター。現代では、既に流通していないタイプの貨幣で御座います。当時としても、普段遣いでは無く記念品として造られた硬貨でしょう]


「じゃあ、銭って言うより骨董品みたいなモンか。コレもどっかで、高く買い取ってくれると良いなぁ」


[何時の世も、数奇者は存在しているものです。もしかすると、マスターが拠点としている都市にも物好きな資産家が居られるかもしれませんよ]


「ま、その辺に期待だね。問題はそんな道楽者とのコネなんてあるはずないってトコだけど、焦るもんでも無いし持ってて損にはならないか」


[えぇ。それに(こだわ)りがないのであれば、これらは昨日の店よりも専門の業者に売却した方が良いかと思われます]


「あっ、そうか……。別に個人の金持ちを見付けなくても、貴金属何かの遺物を買い取る店に(おろ)せば良いだけか」


 取り敢えずは、と――。

 戦利品の売却も、全ては無事に帰還してから為し得る話でしかない。


 故にダヴィデは、凡そ膨れた背嚢を背負い直して、そのまま店舗を後にして外へと出ることにした。

 建物の外で空を見上げると、陽の高さからしてもそろそろ昼時といった辺りか。


 まだ他の階層は探索していないものの、例によってこれ以上荷物は持ち帰ることが出来ないのだ。

 今日の成果は充分だろうと自身へと言い聞かせ、ダヴィデは近くの詰め所にて帰りの脚を呼んでもらうことにするのだ。


 只、先の喧騒は建造物の外まで聞こえていたのか。

 見張りの兵からは、何かあったのかと軽く探りを入れられたので、素直にワンフロアの魔獣とゴーレムが全滅したと告げておいた。


 無論、敵で無いにしろ。

 赤の他人へ無駄に手の内を晒す必要も無い為、猿共の同士討ちにルーティンに従って鎮圧に入った警備もまた、巻き込まれて永遠に沈黙したと伝えるに(とど)めたが。


 帰宅の足を待つ間。

 ダヴィデは声を使わずに、イヴへとこっそり問い掛ける。


[――なぁ、あの兵隊妙にそわそわしてたような気がするんだけど。まさか……チャンスだと思って、遺構の中漁りに行かないよな?]


[彼の就業規則までは存じませんが、潜入自体は可能でしょう。心拍数や発汗率から割り出した期待を伴う興奮状態により、その可能性も無くは無いかと思われます]


[……俺、もしかして余計なコト言っちゃったかな。あくまで結果的に掃除出来たのは一階だけだし、他の階にはまだ何かいるかもしれないだろ]


[いいえ、マスター。貴方様は、あの兵から聞かれたことを答えただけで御座います。自らの従事している業務を忘れて危険を冒したとしても、それは彼自身の責任です。寧ろ、自身の役割を放棄して慾に目が眩むなど、それこそ軍人失格かと]


「そうだな……。大丈夫だとは思うけど、取り敢えずは彼の意志の強さを信じるしか無いか」


 何て。

 ダヴィデはイヴと共に余計なお世話を浮かべながら、帰りの脚を待つのであった。

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