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王子との再会

「ミシェル、今すぐ結婚しよう!」


 また十歳に戻ってきたばかりの日、お気に入りの場所で本を読んでいると、誰かが飛び込んできた。


 びっくりして固まっていれば、目の前には綺麗な黒髪と鮮やかな紫の目の男の子。

 興奮気味に、目がキラキラしているのはとても新鮮だ。前回の時は病み過ぎていて、目の下のクマはくっきりとしていたし、時折思考の渦に飲み込まれて一人ブツブツ呟いていたりした。


「えっと。お断りします」

「なんでだ! 僕はミシェルを愛している!」


 えええ、勘弁してほしい。


 突然王子が飛び込んできたと思ったら、全力で愛を叫ばれた。ときめきよりも、ドン引きしかない。わたしだけでなく、心配そうにおろおろとしていた両親も顔をひきつらせている。


「殿下、流石に初対面の令嬢に対して結婚宣言はないと思います」

「何故だ! 僕はミシェルしか愛さない!」

「殿下は十三歳、ご令嬢は……」


 ちらりとこちらを見てくるので、十歳だと答えた。ランバート様の付き添いの人は礼を言って頷いてから、もう一度ランバート様に向き直る。


「十歳のご令嬢に今すぐ結婚はありえません」

「いいじゃないか。ちょうど、婚約者選びをしている最中だ」


 そういう問題じゃないと思う。

 うちは伯爵家だけど、王子と結婚できるほどの家ではない。前のループとは違うのだ、現実を見てほしい。


「それにミシェルがいなければ、僕は骸骨人間になって引きこもる自信がある」

「骸骨人間」

「そうだ。それではお前たちも困るだろう?」


 わたしは王子の婚約者にならなくても問題ないのですけど。


 そう口を挟みたくなったけれども、黙っていた。王子と側仕えの人の後ろで見守っている両親が、何もしゃべるなとジェスチャーしてくるから頑張った。わたしが口を挟んでいいことは何もないからね。ただ、この状況は困った。大体、外に出ずに家庭で育てられている十歳のわたしが王子と接点なんてあるわけがない。


「殿下は」

「ランバートだ」

「……」


 すぐさま訂正されて、口をつぐんだ。対応に困ってうろうろと視線を彷徨わせ、誰かに助けを求めようとした。


「ちゃんと僕を見て。そして、名前を呼んで」

「ラ、ランバート殿下」

「殿下はいらないんだが……うーん、今日はこれで我慢する」


 そもそも、わたしたちには記憶があるかもしれないけれども、周囲はそうじゃない。突然会ったこともない令嬢に愛を叫び、さらには名前を呼ばせるという暴挙。ほとほと困ってしまった。


「探し物は協力しますので、婚約はちょっと」

「何故だ!? 僕は君に会いたくて会いたくて仕方がなかったのに!」


 こんなにウザい性格の人だったのか。

 それとも最終までやり直して、必死なのか。


 これが最後のやり直し、ということに気が付いて、ランバートの手を初めて握り返した。


「殿下、探し物、頑張りましょう!」

「ああ! これほど早くに出会えるなんて奇跡だ!」


 奇跡ではないんですけどね。もはや呪いです。

 とりあえず、一番面倒なことを先送りにして、友人枠で城に招待されることになった。



 招待されたランバート殿下の離宮は前とあまり変わらなかった。調度品は一流のものだし、子供っぽい内装は一つもない。唯一、部屋で浮いているのはチェストの上に飾ってある人形だ。美しい部屋の中に一つだけ異質な存在感を放っている。


 前回、これはなかったはず。


 あの時はすでに巻き戻しの十カ月前だったから、十三歳のランバート殿下とは持っている物は違うのは当然のことで。とりあえず無視しようと思ったけど、気になって気になって仕方がない。


 ちらちらと横目で見つつ。

 好奇心に負けて聞いてしまった。


「あの……この人形は?」

「可愛いだろう! ゴンという。僕のお気に入りだ」

「左様ですか」


 奇妙な返事になったのは許してもらいたい。だって、可愛くないんですもの。

 クマのようなフォルムで、頭の上に二つ付いている丸い耳は可愛いと思うわよ?

 使われているふわふわしている素材も気持ちがよさそう。


 でもね、表情が非常に凶悪。

 なんで目がギラギラしているの。なんで、舌がだらしなく横から飛び出しているの。しかもその舌、リアルな色をしている。よだれでも垂れていたら完璧だろう。


「これは北の寒い地域に住んでいるクマという動物で、とても勇敢で強いのだ!」

「……」


 どうやら、このクマの表情は勇敢さを表しているようだ。ランバート殿下の宝物なのか、彼はキラキラした目で、説明を始める。


「この人形は、母上から貰ったもので」

「母上?」


 ランバート殿下が母上というのだから、側室様のことだ。とても美しく、国王陛下から望まれて側室になったことは有名。


 その美女がこのクマを?

 ものすごく信じがたい。


「そうだ。実は母上の手作りだ。僕のために作ってくれたんだ」


 よかった。呪いの人形と言わなくて。

 迂闊なことは言わないようにしよう。


「母上はあまり手仕事は得意ではないんだ。それでも作ってくれたのが嬉しい」


 頬を染め、恥ずかしそうに教えてくれる。


「殿下がお母様のことを好きなのは知っています」

「おかしくないだろうか。兄上たちにはいつも呆れられてしまうから」


 王城なんて、魔窟だ。その上、ランバート殿下は母の宝物を探すために、繰り返している。母に対する思いが人よりも強いように見えることだろう。


 ほのぼのとしたお茶会が終わって、帰路についた。馬車に揺られながら、ほっと息を吐く。

 とりあえず、これからまたランバート殿下の探し物に付き合うつもりだ。


 始まりから探すのだから、きっとすぐに見つかるはずだ。


「そう言えば」


 今回最後まで見つからなかったら元の時間軸に戻るのはわかるけど。途中で見つかった場合はどうなるのだろう?


 次にあった時にでも確認しようと心に刻む。馬車が止まった。家に入れば、両親が慌ただしく出てきた。両親は見るからに青ざめており、何か重大なことが起きたのだと察した。


 聞くのは怖いが、聞かなくてはいけない。ぐっとお腹に力を入れた。


「ミシェル!」

「何か、あったのですか?」

「お前の婚約が決まった!」


 あれほど婚約しないと言っておいたのに!

 ランバート殿下との婚約が今回も成立した。


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