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第二話「贋恋文」  作者: 和泉和佐
14/20

贋恋文14

更新できました_(^^;)ゞ

短いです。続けて、15も更新します。

―――――― 14 ――――――


お屋敷(アチラ)ではなんと?」

 尋ねたのは雪之丞。それに対して答えたのは吉三だった。

「それが…」

 菊弥を連れていった大身旗本・佐久間家では手紙(ふみ)の代筆を頼んだのは事実だが、用事が済んだ後で菊弥は普通に帰った、駕籠を用意したが菊弥の方で断った―――と主張しているようである。

「そう、ですか……そう―――」

 雪之丞が黙り込む。昨日に引き続き今日も着流しの男装(?)姿である。

「菊の姿を見たという人はおりましたか?」

「いいえ、まるっきりです」

 吉三が頭をふりふりと横にした。吉三も小平太も朝から必死で聞き込みに回っているのであるが、なんの情報も得られずにいる。さすがに焦りの色が濃い。小平太などは夕べから一睡もせずに駆けずり回っているわけだからより一層の疲労がその顔に浮いて見えた。

「まるっきり、たった一人も菊を見たという者がいないんですね?」

 と雪之丞が問えば、

「はい、それこそひとっ欠片もそんな話が出てきません」

 と答える。

「では、そろそろ菊弥が拐かされたと同じ刻限になるでしょう。そしたらまた同じ聞き込みをして下さい―――それと―――」

 言いかけた雪之丞を遮るように、

「ねえ、ユキさん! まだるっこしいじゃないですか! あの屋敷に菊弥さんが取っ捕まってんのはもう間違いないでしょう、こうなったら乗り込んでって連れ戻しましょうや!」

 そう息巻くのは以外にも深山一座最年長の吉三である。目の前で菊弥をかっさらわれたことがよっぽどショックだったと見える。血の気の多い若い頃と同じように鼻息が荒い。

 乗り込んでといっても相手は三千石の御大身だ。そう簡単にいくわけがないのだが、吉三の言う『乗り込む』とはもちろん、《裏》からという意味だ。裏からとはいえ百石二百石の御家人の屋敷に乗り込むのとは訳が違う。贋物屋の彼らに出来ぬとは言わぬが、無謀無策にしてそれが叶うというわけにもいかないだろう。

 しかし、

「菊弥があの屋敷にいるかの確証がありません」

 と雪之丞が言ったのは臆病風に吹かれたからではもちろんない。こう見えてもいざとなれば妹のために三千八百石の旗本に乗り込む覚悟も実力も十分な男である。あの屋敷に菊弥がいるのであれば、力ずくで奪い返すのも可能だ。

 だが、慎重にならざるを得ないのもまた事実。乗り込んでみて菊弥がいなかったとなれば、二度目のチャンスは失われる。

「―――いえ、でも、そう…か、そうですね―――」

 雪之丞は軽く丸めた拳を形のよい唇に当て、トントンとリズムを刻む。

「確かに。吉さんの言うことにも一理ある。―――では」

 スッと雪之丞が立ち上がった。ただその場に佇むだけの姿。だというのにその得も言われぬ凛々しさと鬼気迫る覚悟とが―――まるで雪の中に咲く白い花の如き清廉な色香であった。

 雪之丞がニィッとその紅い(くち)()を持ち上げた。

「では、カチコミと参りましょうか」




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