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第二話「贋恋文」  作者: 和泉和佐
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贋恋文1

再掲載ではありません。

第二話を書き始めましたので、よろしくお願い致しますm(_ _)m

『贋恋文』が書き上がりました!

推敲し終わった部分から徐々にうpしていきます。すでに上げている部分も推敲が入りましたので、そこから徐々に―――トロくてすみません。なにしろ執筆(なんかカッコイイな、執筆)時間が平日に15分しかとれないもので。( ノД`)…



 雪之丞は女形(おやま)でございます。


 女形といえばおなごのニセモノ


 贋物屋(にせものや)に御用とあれば


 この雪之丞が承りましょう!




第二話「贋恋文(てがみ)




―――――― 1 ――――――


「ギャ~! 助三さまぁーッ!」

「雪之丞さまぁっ」

「こっちをお向きになってェ」

 そんな言葉を受けながら、役者たちは舞台の上から深々と頭を下げた。




 いつものように幕が引け、楽屋の鏡の前で化粧を落とし、ホッとひと息いれていた時であった。あと数日で千秋楽を迎える、もうひと踏ん張りの踏ん張りどころである。

「お疲れさんでごぜぇやす、雪之丞さん」

 労いの声とともに出された湯呑みをありがたく受け取り、一口すする。中身はただの湯ではなく煎茶である。近頃広まり始めたとはいえ庶民にはまだまだ贅沢品なのだが、深山一座では当たり前のように出てくる。さすがは江戸で有数の米問屋である大黒屋を後援者にもっているだけはある。

 大黒屋は表向きは一座の後援者として旦那の清太郎が、裏向きには贋物屋のツルとして隠居の巳之衛門が雪之丞たちに尽力してくれている。

 それもこれも大望を果たさんがため―――

 そう、雪之丞たち深山一座には人知れぬ目的のために―――それは、

「おや? そういえば、助さんは?」

 ふと気がついたように雪之丞が顔を上げた。先程までいた筈の助三の姿がいつのまにか見えなくなっていたからだ。今回の助三は二枚目看板ではないため(たまにはそんな公演もあるのだ)、身仕舞いも簡単で比較的自由なものである。それにしてもいつの間にいなくなったのか、小屋の中にすら姿がない。

 宮地芝居の仮小屋などそうそう広いわけでもなく、楽屋は皆一緒くただし、部屋の扉などというものはなく、せいぜい (むしろ)一枚かけられているだけの簡易なもの。小屋の中の物音・話し声ならどこにいても聞こえてくる。出ていったとしても誰かは気づきそうなものである。

 もっとも、助三の場合はその立派な体躯にも関わらずやたらに気配を殺すのが上手い所為で、時々こうしたことがある。

「あれ、そういやぁ…?」

 茶を運んできてくれた男が雪之丞の言葉に頷く。この男は吉三といって深山一座の最年長だ。手先が器用で同じく道具方の小平太や文治と一緒に何やかやと働いていたのだが、昨年より身体を痛め、今は小屋の前で木戸銭を受けとる役割を勤めている。その他にも座員の皆の細々とした世話を焼いてくれているのである。

 吉三は雪之丞に同意をしつつ、きょろりと周囲を見回す。もちろん助三の姿は見たらなかった。その代わりに道具方の文治がにへっと笑顔で応えた。

「助さんなら菱垣屋(ひがきや)の女将とお出掛けんなりやしたよ」

 と。


 深山一座は芝居の一座としては珍しく―――ホンッとう!っに珍しく、あまり色事に積極的ではない。本来であれば役者にとってのソレは営業の一貫であってこの当時は至極当たり前のことだったりするのだが、本当におかしなことに深山一座の役者たちはとんとそういうことは不得手であった。江戸で活動を始めたばかりの頃は、客の方からそういうこと目当てでコナをかけられたりということもありはしたのだが、座頭の惣右衛門にしてからがまったく意味がわからずきょとん顔で問い返したという逸話まである。意味がわかるや、惣右衛門はほんのりを頬を染めつつ、当方の役者はそういったことはやりませぬので…ときっぱりと断ったという。それ故、深山一座の役者たちは江戸で唯一、枕営業をせぬ役者なのだ。

 が、何にでも例外というものはある。深山一座ではそれが助三と文治(役者じゃない)であった。もっとも座頭本人がそういうことをしないと明言しているので彼らの場合はマクラではなく完全なるプライベートではあったが。

 ちなみに深山一座一番のモテ男は助三ではなく文治だ。この男、童顔で愛嬌がよく気が利く上に誰かれなく優しいのだ。これが若いキレイな娘にだけ親切、というのでは未来永劫モテたりはしないところではあるが、文治の場合は元々が気のよい男なので、顔の美醜・身分の上下に関わらず本当に誰にでも優しい。つまりは可愛いおなごにもそうでないおなごにも同じくらいに優しいのである(男相手だとそうでもない)。()()()モテると言うのならばまあこの男ということになる。

 一方で、助三はまず一座の二枚目看板(出演者の名前が書かれた板看板のこと、その演目の主役を務めるイケメンが二枚目に掲げられる、二枚目=ハンサムの概念の由来となっている)という前提からしてモテない筈がない。若い娘たちが列を作ってキャーキャー追いかけ回すのだからモテていないとは言えまい。

 ただ、役者の中には娘たちがキャーキャー言ってくるのをよいことに手当たり次第に手をつけて食い散らかしている者もいるというが、助三はそうではない。娘たちの親が滂沱(ぼうだ)の涙を流すほどには行儀がいい。

 まず間違っても生娘(きむすめ)(男性経験のない女性)などには手をつけない。亭主のいる年増だって、たとえ亭主本人が公認していたとしても、やんわりと断っている。付き合った女には甘い言葉を囁いても将来は約束しない。割りきれる女以外には手は出さないし、付き合うからにはと相手に義理をたてる誠実さ(?)も持つ。

 雪之丞辺りに言わせれば『それって単なる(ただ)れた女性遍歴では…』となるのだが、若い娘たちには『解釈違いですわね』と言われてしまった。

 というわけで、本気であればあるだけいくら彼女たちがキャーキャー言おうとも相手にされはしないわけだが、助三のポリシーを貫くそのストイック(笑)な姿がステキ!とかで結局、キャーキャー言われていたりする。まあ、相手がコロコロ変わるのはご愛敬というところか。おかげで《後家殺し》などという二つ名がついているのには、本人ばかりが納得していない。

 そんなわけで、一般的な二枚目看板としての助三はそれほど多くのファンがついているわけではない。問題は一部のコアなファン=過激派(同坦拒否)の存在である。

 すなわち『そんな助三さまがこの中の誰かと付き合うなんてことがあったのなら、それはつまりその娘に本気ってことよね』とか『助三さまはまだ本気の恋を知らないんだわ』という斜め上な思考を持って助三に積極的なアプローチをかましてくるのである。本当にやめてほしいと思う雪之丞たちであった。

 また、それを助三が『―――娘さん、手拭いを落としなすったぜ』(助三の前で手拭いを落としまくる娘たちが一定数いる)といった具合に一々相手にするものだから余計にヒートアップしている気がする。雪之丞などにはトラウマになりそうなほどの醜い争いを繰り広げている彼女たちなのだが、助三は『かわいいもんさ』とニヒルに笑うものだから手がつけられないことになっている。

 まあそれでも、どんな厄介が起きたところで助三の自業自得だ、自分でカタさえつけてくれるならば構わない―――というのが雪之丞のスタンスであった。

 ただ目下のところの一番の悩みは、助三ガチ勢同坦拒否過激派の女の子たちが『私…雪さまが(助三さまの)お相手(意味深)なら、いいんです。てか、本望です!』とか『喜んで身を引きます!』とか『あんな女、雪さまの足元にも及びませんわ、頑張ってください、雪さま』などと詰め寄ってくることである。ホント勘弁してほしい。


 今日も今日とて舞台が引けて速攻に菱垣屋の女将(口元のほくろが色っぽい後家だ)と出掛けてしまった助三。小屋の外には助三の出待ちをする娘たちが大勢いるというのにどうしてくれるのだ。

「は? 菱垣屋さんと出掛けたですって? 表の娘さんたちはみんな助さんを待ってるんですよ? どうしろと言うんですか!」

 雪之丞が持っていた湯飲みをタン、と小机に置いて珍しく声を大きくした。ちなみに娘さんたちの半分は雪之丞待ちである。

「いやー、申し訳ねえです。気づいたらあれっちゅう間にいなくって」

 と文治が言うが、ちょっと面白そうな顔をしているので本当に申し訳なく思っているのかは怪しいところである。文治と助三は性格的に似通っているのか仲がよく、あっちやこっちの女性関係において二人してうまく融通をつけているらしい。とはいえ本気で助三が誰にも見つからぬように出ていこうとしたら、文治辺りでは気がつけぬのも事実だった。

「―――助さんときたら、こんなところで無駄に本気を出すこともないでしょうに」

 やれやれと肩をすくめる雪之丞の姿にブハッと文治が吹き出した。助三がいない今、助三ファンの娘たちに一番に詰め寄られるのは雪之丞であろうことは明白である。囲まれたらちょっとやそっとでは解放してもらえまい。ちなみに、雪之丞の贔屓筋はみな年齢層が上であるためお座敷(宴席)に呼んでくれることが多く、出待ちされることはあまりないのだ(と雪之丞は思っている)。

「………」

 雪之丞がなんとも言えない表情で黙った後、うるりと文治を上目使いに見た。

「文治さん…」

「、うっ」

 わかってはいる、文治とてわかってはいるのだ、目の前のうるんだ瞳で見上げてくるのが、立派な男であることは。体格では文治の方が上でもいざとなれば、文治などは一捻りにされてしまう強さを持つ立派な若者だということは。しかし、これは反則である。

「ね、助けてくれますよね」

 ついと小さな手(小さくはない、気のせい)で、文治の袖を握り込む。実にあざとい。

 と、そこへ、

「~~~!」

 小屋の外の様子がひときわ騒がしくなった。

 瞬時に男の顔に戻った雪之丞が、

「何事です!」

 パッと立ち上がる。

 表からは、

「通して! 通してください!」

 焦れたように慌てている男の声が届く。

「雪之丞さん! 雪之丞さん!」

 そして、雪之丞を呼ばわる声。

「…あの声は…」

 聞き覚えのある声だ。大黒屋の主人、贋物屋のツルである隠居の巳之衛門の方ではなく、その息子の清太郎の声だ。父親に商売を譲られて数年は経つくらいのいい年をした厳つい風貌の男だが、声だけはやたらめったら甲高く、それがコンプレックスで普段から落ち着いた話し方をするように心掛けている。こんな風に興奮して騒ぎ立てるような人物ではない。

 名指しされている雪之丞は表情を曇らせた。嫌な予感がする。


 取り乱した声が叫ぶ。

「―――飛脚が! 早飛脚です! ご母堂さまがッ!!」 




第二話はちょっと下品な表現があるかと思いますのでご了承ください。

今回はまだ大丈夫です。


うちの助三がホントすいませんm(_ _)m

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