テストのプロ
試験というのはいつになっても緊張するし、ドタバタします。余裕のあるテストのプロになりたい。
テストのプロ
僕の親友の新屋はテストのプロだ。
そう、彼はなぜかはわからないが、
テストの日の朝でも、余裕綽々である。
そもそも新屋とは、
今年のクラス替えで知り合ったのだが
きっかけは偶然だった。
新屋が僕の席の右隣前になったので、
丁度視界に入る様になったのだ。
そこで新屋のプロさに気づいた。
うちのクラスには、
ちょっとした人気者が多い。
イケメンで頭もいい天才系王子、日野。
独学ピアノマンで器用な天才、篠。
文武両道でクラスのマドンナ、美内。
清純派爽やかお姉さん系優等生、永島。
賢いけど性格に癖がある魔王、龍神。
気の良い秀才系スポーツマン五十嵐。
成績トップで語るとここら辺か。
キャラが濃い目のうちのクラスは、
頭のいい奴も多くて有名だった。
ちなみに新屋は、学級委員長タイプ。
委員長と言えば
クラスのみんなから信頼を集めるので
ある意味人気者かもしれないが、
人気者と言うには少し華に欠けるので
自分的にはぶっちゃけノーマークだった。
が、しかし。
しかしである。
彼の授業の受け方は
中々にアグレッシブで、他とは違った。
まず、机の上に
教科書とノート以外のものがある。
参考書と問題集である。
ぶっちゃけ学校の机にそんな沢山、
普通は乗り切らない。
けど、乗っけている。
しかも、どう見てもそれは
学校指定図書とかではなく、
書店で買ったと思しきゴリゴリ系問題集。
そして、先生の説明を聞きつつ、
隙を見て問題集を解き、
その後参考書に戻り、
参考書から教科書に戻ってくる。
という、
なんとも忙しい様子を繰り広げていた。
あれ、いーの?
自由すぎない??
と僕は内心、
謎にドキドキしたが良いらしい。
先生もチラリと見ても、
当然の顔をして何も言わないでスルー。
しかも何がすごいって、
新屋が涼しい顔をして
それをやってのけているという事実。
しかも、皆んなが真面目に、
或いは眠そうに授業を受ける中、
1人だけどう考えても
授業に臨む姿勢から違う新屋。
僕からは超カッコよく見えた。
(真似したい。)
そう思ったのも事実だ。
ちなみに僕は好奇心の鬼なので、
一度気になったら
納得するまで追求するタイプ。
そんな訳で、新屋の観察を始めた。
観察するだけでは飽き足らず、
ついにはさりげなく距離を縮めて、
気がつけば割と序盤に
親友の座を獲得してしまったが。
あいつはやっぱり面白い奴だった。
一言で言えば、テストのプロだった。
あいつは朝、ドタバタしない。
優雅にコーヒーを飲んで、新聞を眺める。
テスト当日であっても、カバンを
教科書でパンパンにしたりしない。
センスの良い筆箱に、
シャープペンと鉛筆、消しゴムが
きっちり入っており、
腕にはシンプルで見やすい腕時計。
あぁ、あと鉛筆削りもあったかな。
受験票と開場案内はいつも持ってる
紺色のスケジュール帳に挟んでるらしい。
そして、試験会場の開場の1時間前には
最寄駅に降り立ち、
近くの喫茶店に入り、
優雅にコーヒーと新聞である。
普通、試験前と言えば、
緊張と焦りと非日常感を味わいつつ、
合否に不安を覚えながら、
知らない人と会場に向かう感じだ。
余裕なんか無いし、
カバンはパンパンで重いし、
周りが頭良く見えて謎に辛いし。
それにプラスして、
前日にも教科書見て過去問解くけど、
時間足りなくて最後まで終わらないのが
僕のパターンではあった。
ある日気になって聞いてみた。
「なぁ、新屋の勉強方法って決まってる?」
「あぁ。
時間ある時は基礎をみっちり詰めて、
そのあと参考書隣に置きつつ問題集やる。
時間ない時はまず過去問解いて、
解説を見つつ不明点は参考書で潰す。」
「へぇ、時間のあるなしが関係するんだ」
「そう。」
「テストで緊張したことある?」
「ない。
自分がどん位出来るか大体わかってるし」
(まぁ、そーだよなぁ。)
新屋を観察する様になってから、
教科書とノート以外で勉強時に必要なものに
問題集と参考書というツールがあるのを
知った。
授業の予習、復習の習慣もなかったけど、
新屋はやってたから僕もやる事にした。
1時間予習して、1時間復習する。
それだけ。
なのに、授業が受けやすくなった!
予習ノート持参して受けるだけで、
授業がはかどる。安心感がすごい。
新屋の真似しただけなのに!
「新屋、塾行ってる?」
「行ってないけど、塾メンには負けない」
「まじ?」
「あぁ。塾行く必要は今感じてないかな」
「つよい」
「塾行くお金あったら
参考書と問題集買うし」
「なるほど」
新屋と仲良くなってから、
参考書と問題集選びに付き合ってもらった。
その時にどんなのを選んでいるか
聞いてみたら、ちょっと変わっていた。
「沢山種類置いてるとこで見比べて、
中身が気に入った奴を選ぶ。
あと、出来るだけ解説わかりやすくて
内容の網羅性が高いのを選ぶかな。」
そうなのか。吟味するということか。
選んでみた。楽しかった。
こうして僕は、自分で選んだとっておきの
参考書と問題集も手に入れた。
これでテストに少し強くなった。
問題集と参考書を手に入れたけど、
これどうしてるんだろうか。
新屋に聞こうとしたが、
聞くまでもなかった。
そう、奴は授業中フル回転だから。笑
でもコレが普通ではないだろう。
流石に勉強初心者に
真似できるとは思えない。
しかし、よく観察してみると新屋は
参考書も問題集も持ち歩いていたのだ!
日によって違う参考書を持ち歩くとは!
そして、授業が終わると図書室に直行し、
1時間から2時間こもっていた。
たまにカフェだったり、
自習室だったりする。
暇な時は電車の中でも見ていた。
それを見た僕は思った。
(なんてマメなやつなんだ。)
「飽きたりしないの?」
「いや、この方が楽だし、
コレ実験だから。試すの楽しくて」
…実験?なんの??
ちょっと何考えているかは不明である。
しかし、かと言って勉強しまくりという
感じでもなく、普通に
1日参考書を開かず遊び倒す日もあった。
僕は新屋と泊まりの旅行にも行った位だ。
観察していて思ったのだが、
彼のかっこいい所は自然体な所だ。
勉強に対する姿勢が自然で無理がない。
僕は見習うとしたら
他の人気者なんて目じゃなく、新屋一択だ。
他の人気者達には才能とカリスマを感じるので真似出来ない感じがあった。
勝手な思い込みかもしれないが、
そう簡単にお近づきにもなれなかった。
多分、簡単に友達になれるとも思わないし、
相手がたとえ良い奴でも、
自分が色眼鏡で見てしまう。
そんな訳で、
新屋の真似をしながら
1学期が終わろうとしていた。
そう、テストが近づいてきていたのだ。
しかし、この時点で僕らは、
模擬テストまで終わらせていた。
なんと、問題集だけでなく、
先生に頼んでゲットした過去問と
なんと先生お手製の予想問題を
ばっちり解いていた。
「さいつよ、では?」
「いつもこうだが?」
こうして、珍しく僕は余裕かまして
コーヒー牛乳片手に、新屋と
のんびり過ごしていた。教室で。
新屋と僕だけ空気感が違った。
僕はビビリだからまだノートを見ていたが、
いつも程の焦りも緊張も不安も感じない。
なんという快適さ。
準備ってとてもよい。
段取りって本当にたいせつ。
今まで自分がどんだけ無頓着だったか、
身に染みていた。
まじで、新屋を真似してよかった。
新屋を見ていると本当に無理がない。
でも、時折、
やはり彼は地頭が良くて、
人より優れている所がある、
と感じる瞬間はある。
本人が当たり前の顔をして難なくこなすから
あんまわかんないけど。
でもだからこそ、
自分も自然に無理なく真似できた。
そして、そのあとは時間が来て、
テストを解いた。
***
「テスト終わった〜!!!」
「おつかれ。」
「なぁ、このあと2人でお茶しよ」
僕は、初めて余裕あるテストの日を迎えて、
ハイテンションになっていた。
そのノリと勢いで、新屋をお茶に誘った。
すると、
「ちょうど良い。そこで自己採点だ。」
「え?」
なにやらテストイベントは
まだ終わっていなかったようだ。
いつもより軽い学生カバンを掴んで、
2人で教室を後にする。
周りはテストの感想を言い合っていて
まだザワザワしていたので、
僕らが1番のりで帰った。
「なぁ、テストどうだった?」
「いつも通りだけど、
この感じは8割超えたかな。」
平然としている。
そうか、8割超えか。いいなぁ。
ひとまず、羨ましい気持ちはしまって、
どんどん歩く新屋についていった。
売店についた。
「購買でなに買うの?」
「コーヒーとカップラーメン。後お菓子。
田貫もおやつ買えよ。」
「あ、あぁ。」
2人で食べる用に
最近ハマっているお菓子と
コーヒー牛乳買った。
「今日はこっち。」
「東屋じゃん。
いつも空いてないのに今日テストで
午後休だから空いてる?!」
「そう、穴場。」
そりゃそうだ。
今はテスト週間で、
明日もテストあるのに外出る奇特な奴は
僕らくらいだった。
でお菓子を広げつつ、
テスト用紙も出して、
自己採点会は開催された。
2人で答えを見せ合いっこして、
わからなかった所、
自信ない所には青い印をつけていく。
逆に絶対合ってると思う所にも
赤い印をつけた。フム。
と、そこに。
「ちわーっす、
呼ばれてお兄ちゃん来てあげたよー」
誰か来た。
「あぁ、兄貴。来てくれてありがとう。
んじゃ、よろしく頼むわ。」
「え?新屋の兄貴なの??」
「どうもー、新屋の兄貴こと、
塾講師やってますタロウです!」
「紹介が遅れましてすみません。
いつもお世話になってます、田貫です。」
「おお、君か!いつもありがとうね。」
新屋の兄貴は、明るいお兄さんだった。
そして、挨拶もそこそこに、
テスト問題を解き始めた。高速で。
なんか、授業中の新屋を彷彿とさせる。
「はーい、終わったよ〜。
今回はひねった問題は出なかったかな。」
「兄貴は明日この地区一帯の
学期テストに関わる授業するから、
いつもその日のうちに解くんだよ。」
「へぇ〜。」
塾の生徒の学校のテストを解いて、
講義をしないといけないらしい。
学校毎に出題傾向も違う為把握するようだ。
塾の先生も大変だなぁ。
「お礼として、僕が仮採点してあげよう!
解答速報も作ったよ〜。」
タロウさんは、シャーペンから
今度は赤ペンに持ちかえた。
そして2人のテストの採点をしていく。
「はい!志郎は87点!田貫君は84点!!」
「おお!!過去最高得点です!」
まじか、嬉しい。
「いつもは夏波高校って考えさせる系の
問題をいくつか出すんだけど、
2人ともそこに引っかかってるから、
難しかったかな?
でも、ちゃんとやってれば取れる問題は
出来てるから、この調子!
あと、2人がそれぞれ出来てたあの問題と
この問題は解けない子もいるだろうから、
そこは一歩リードだね。
総評としては、よく頑張った!!!」
「「ありがとうございましたー」」
「じゃあ、出来なかったところは補修!
いつもは手伝わないけど、今回だけ特別に
2人が間違った所の授業してあげる。」
こうして、激アツな補修授業も終わり、
今は2人でお茶している。
お兄さんはテスト用紙をコピーしたら、
帰っていった。忙しいらしい。
塾講師って素晴らしいな。
説明が分かりやすかったし、安心感がある。
でも、普段勉強してなかったら
学校の授業と同じで、説明聞くだけで
わかった気になってそうで少し怖い。
「ねぇ、ゲームしよう。」
「いーよ。気分転換に1時間やったら
問題集タイムな。」
「おっけー。」
2人で通信できる携帯ゲームをやり始めた。
楽しい。今日も疲れた。
しかし、明日も怖くない。すごい。
ついでに言うなら、
問題集タイムも全然いやじゃない。
だって、自分が選んだ問題集だし。
もはや、馴染んでさえいる。
***
そして、テスト返却の日がやってきた。
テストイベントで、
最も悲喜こもごもが見られる
場面ではなかろうか。
緊張の一瞬である。
「田貫〜。」
「はい!」
「よくがんばったな。」
「やったー」
しかし、僕はもはや自己採点で予測済なので
至って冷静だった。
といいつつ、先生に苦労を労われて
めちゃくちゃ嬉しい。ハンパなく。
これが全教科である。
もう、ウキウキだった。
いいことしかない!
一通りテストが返ってきて
喜びを噛み締めること数時間、
前を見れば新屋は今日もフル回転だった。
そう、もはや淡々と次に向かっていた。
なるほど。
確かに、授業は待ってくれない。
自分も引き続き、
新屋の真似をすることにした。
***
今学期を振り替えり、僕は学んだ。
自分で全部やるって素晴らしい。
自分で決めるって素晴らしい。
自分でも出来るって素晴らしい。
無理がないって、最強。
まぁ、元々は新屋という
テストのプロに出会ったから、
今の僕があるんだけど。
いやー、ラッキーだった。
おかげで僕は今学期、
過去最高得点を全教科達成した。
こんなすぐ結果に現れるとは。
新屋に興味を持って
真似しただけではあるが、
新屋を真似しようと決めたのは自分だ。
そもそも僕は塾行ってないし、
周りも見た感じ遊んでるし、
のんびりするの好きだったから、
勉強には興味なんて微塵もなかった。
でも、出来なくて焦りみたいなのは
ぼんやりとどこかにあった。
今思えば、
そんなのあんまり関係なかったかも。
というか、勉強に対するモヤモヤは
全部一気に綺麗に解消した。スッキリ!
周りの言葉も、
「今からは間に合わない」
「貴方は昔から勉強が苦手ねぇ」
「遊ぶ方が楽しい」
「真面目な奴は今も勉強してるぞ」
「今年は平均点が高いだろう」
「周りに置いてかれるよ」
みたいなことを言われることあるけど、
ある意味ノイズだったんだなぁ。
間に受けてる部分があったし。
それを都合よく解釈して
時には言い訳にしちゃいそう。
塾もノープランだと無駄に焦って、
身の丈に合わないスケジュールを組んで
高いお金を払って元をとりに行こうとして、
周りの子たちの目も気になって見栄張って、
見栄張るのに失敗して自分を超責めたり
って多分そんな精神状況じゃ落ち着かない。
自分が自発的にやる事の意味は、
そこにあるかもしれない。
精神的にとても落ち着いていて安定する。
自分の好きな問題を自分の好きな時に解く。
自分で考えて試して、失敗もするけど、
別に周りに迷惑をかけてもいない。
精神的にとても楽なのだ。無理がない。
そして、自分がやらなかったら
もちろんいつまでも出来ないことになるが、
自分が始めた事なので
他人のせいにできないし、する必要もない。
周りに責められることはないし、
自分も次は上手くやるだけである。
ラクだ。すんなりだ。
まぁ、色々語ったけども、
つまり僕はこのやり方が
めちゃくちゃ気に入ったのだった。
社会人になって久々に資格試験を受けることになり、試験会場が大学で懐かしさもありつつ、もっと余裕のあるテスト当日を迎えたかったと思ったので、来年はテストのプロとして余裕かませるよう勉強頑張ります。←
そう、これは1人反省会から生まれた産物。。。